業法―ツーウェイプライス
審議会資料のなかに、業者は顧客にツーウェイプライスを提示すべきであるという記述があります。これについては審議会で特に議論の対象とはならず、そのまま素通りしたように記憶しています。その素通りは参加者全員が当然だと考えてか、あるいはそんなことたいしたことではないと考えてか、一体どちらなのでしょう。
現在、いわゆる成行き取引とかタイムクォート、クイックトレードと分類されるものは、ツーウェイプライスであったり、ワンウェイであったりさまざまです。なぜ後者はいけないと主張する人がいるかというと、ワンウェイでの提示の場合顧客は最初に売りか買いかを業者に明示します。そうなると、インターバンクの気配がたとえば111.24−27ぐらいのとき、顧客が買いであると分かっていれば、111.25−30などという「ずらした」値段を出すことが可能になり、結果顧客が不利を負うからというのがもっぱらの主旨です。
では、ここで異論です。インターバンクの銀行ディーラーも顧客のサイドを知ろうとします。だからこそ、指値注文をとろうとします。また、輸出企業なら、ドル売り、輸入企業ならドル買い、機関投資家なら季節によって方向が見えたりします。それに対して、フェアなプライスを作って提示する銀行もあれば、サイドに反応して「気持ち」ずらすところもあるでしょう。むしろ、買いたくないのに買わされるなら少しでも安く、と考えるのがあたりまえであり、そういう動きが結果的に相場を動かしていく原動力の一部にもなるわけです。一方そういう銀行も「価格操作」という問題には敏感です。相対だからどんな値段で取引しようと2者間での合意がある以上勝手ではないか、という意見もありそうなのですが、それを許すと、簡単に粉飾決算、利益の付け替えが可能になります。つまり不正会計処理の温床に鳴るわけです。したがって、インターバンクも、その時点における市場の気配値から“大きく逸脱した” 価格での取引に対しては、基本的に行わないという考えが常識です。
たとえば、現在ドル円のスポットが111.05−10ぐらいのときに、顧客Aには恩があるということで、105.00で買わせてあげるなどということがまかり通るわけがないということです。では、どれくらい値段が実勢レートから離れていると価格操作なのかというと、それに対する合理的、客観的ルールはありません。インターバンクで、今もし500本(5億ドル)のプライスを要求したら多分111.04−12ぐらいの値段が出て、同じ銀行に1本(100万ドル)を要求すれば、111.05−07ぐらいが出ると思います。このとき、前者のレートが価格操作だといわれては困ってしまうわけです。
私の意見としては、業者が顧客の求めに応じてツーウェイプライスを提示しようが、ワンウェイであろうが、あるいは成行き約定で結果があとで分かる方法であろうが、顧客が納得していれば問題はないと考えます。ただし、約定に使われるレートはその時点のインターバンクの気配に対して“おおむね”同等であることが条件になります。この“おおむね”というのが曲者なのですが、OTCの世界では、何でも法律や数字で規定できるものばかりではなく、参加者の常識をある程度重ね合わせる形での共通認識や、そこから成長した“紳士協定”というものに支えられているのです。そういう暗黙のルールを知った人たちよって運営されている業者であればある程度話はとおりやすいのですが、そういう経験をもった人がまったくいない業者では、問題や議論のテーマが変な方向へと行ってしまうようです。
話を元に戻して、“おおむね”同等でない不利なレートでの約定ばかりする業者であれば、投資家はその業者を去ればいいということになります。ところが、自分が実は不利なレートで約定させられていることに気付いていない場合はどうかということになりますが、それは救いようがないという話になります。ディスカウントストアなら1本99円でビールが買えるのに私はそれを知らずに今まで1年間150円で買っていた、という人が誰にも文句をいえないのと同じです。いや為替は“物”の話とは違う!という人もいるかもしれませんが、「為替取引は経済行為である」という解釈のもとに司法、行政、立法が成り立っていると私は理解していますが、そうであれば、やはり、為替取引そのものは、ビールを買ったり、林檎を買うのと同じ行為ということになります。
では、騙されないようにするにはどうするかというと、やはり自分の使う業者の取引提示価格と他社のそれを複数比較して、一番自分に有利なレートを安定定期に出してくれる業者を選別するとう考え方に尽きると思います。それを「業者はツーウェイプライスを提示するべきだ」という話で、あたかも投資家を守っているかのごとく振舞うのは、単なる問題のごまかしにしかなっていないのではないでしょうか。