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尾関高のFXダイアリー

[第250回] 有識者会議を終えて

 有識者会議は第6回をもって閉会した。結局私が前提としてきた本会議のテーマは「店頭FX業界がもたらすシステミックリスク」という目線ではなく、従来からの「業者の破たんリスク」というローカルな目線に立ち返って終わったという印象である。配布資料の「はじめに」において、「店頭FX業者の決済リスク管理を不十分なままにしておけば、顧客やカバー取引先に大きな影響があるほか、外国為替市場や金融システムにも影響を及ぼし、システミックリスクにつながる可能性を有しており」と書いてあるが、これについては前回の私のコラムで触れている通り、「可能性」といえば何でも“ある”側に倒れる。しかし、今それをそのレベルで議論するタイミングだろうかという疑問は今もってある。そこまでのレベルを議論するなら他にも議論すべきことは多々ある。私にしてみればそんなことよりも国債の札割れのほうがよっぽどシステミックリスクとしては重大であり、太陽系と銀河系レベルの違いほどのリスクの差を感じるが、相変わらず国会は票田を気にするような予算垂れ流し的な議案しか論議されていない。皆さんはどう思うだろう。

結論として、今後の対応は金融先物業協会に委ねられたような閉会のお言葉であった。つまり法改正等は今のところしないが自主規制としてどこまでやれるかというボールが業界団体に渡されたということなのだろう。


■MiFID II


 国際的な金融機関はここ数年MiFID IIの対応に追われた。多くの金融機関が相当なシステム費用をかけたことは想像に難くない。悲しいのはそれが投資というよりはコストだったことだろう。これは私なりに簡単に言えば、銀行や他の金融機関が顧客と取引した約定レートがどのように生成され約定に至ったかを明確に記録し、顧客の立場に立ち『最良執行』を行ったという証拠を残せということである。取引所取引を中心とした証券業界において最良執行方針は昔からいわば文化としてあるが、店頭(OTC)金融の世界にも同じ文化的価値観が根付こうとしている。この考え方を店頭FX業者にまで適用するかという議論もあってしかるべきだが、投資家目線で言えば当然あったほうがいい。そういう意味で本業界にはまだこの考え方に基づく基準や自主規制的な“束縛”というものはない。私が過去のコラムで触れている店頭FX業者も「最良執行方針」を開示するべきだという主張につながってくる。


■破たんリスクのないビジネスモデルはない


 当然、業者だろうがいかなる金融機関でも破たんするリスクはないほうがいい。事実として破たんすることのない状態がいいに決まっている。しかし金融のビジネスに限定しても、破たんリスクのないビジネスモデルなどない。目標としているのはそのリスクをできるだけ見えるようにしてかつ一定の枠で管理できるようにし、そしていざというときを想定して保険を掛けられるようにするということである。しかし想定外のリスクだけはなくすことはできない。それは最終的に投資家が覚悟すべきリスクである。


■リスクの分類と対応


 リスクのカテゴリーは金商法で明確に定義されている。市場リスク、取引先リスク、オペレーショナルリスクの3つである。問題はそれらのリスクの監視モデルやリスク計量モデルが現代のIT化やHFT化が進んだ状況に適合していないという事実である。それについては前回のコラムで細かく指摘している。

資料は、その6ページ目において、「店頭FX業者の3つのリスクと対応状況」として、

(1)相場変動による未収金の発生リスク
(2)カバー取引先の破たんリスク
(3)未カバーポジションに係るリスク

を挙げている。


(1)の未収金の発生リスクを抑えるためには、カバー先から提供される流動性の質を上げること、強制ロスカットがよりスピーディに執行されるべくコンピュータシステムの機能、非機能を強化することがまず現実的な処方箋として考えられる。インターバンク市場そのものが流動性を喪失するような事件・事象は店頭FX業者や金融庁がどうにかできることではない。そのうえで、業者自身の体力と相談して証拠金率を見直すなら見直す。現行法の“口座単位で4%”というルール以上であれば、どういうモデルでも十分条件になるのだから、法(府令)改正しなくてもやりようはある。

(2)のカバー取引先の破たんリスクは現行法の取引先リスクの掛け目の体系を見直すことが合理的に見える。前回のコラムでも触れている通り格付けがあるかどうかという条件はあまり意味を感じないし、今の分類は荒すぎる。カバー先には国際銀行、金融先物業者、ヘッジファンドなどがあり、信用の仕組みも与信、担保口座残高やLGといったバリエーションがある。これらの環境変数は現行法が成立した時には想定されていない。

(3)の「未カバーポジション」については、まずなぜこれを「未カバー」と呼ぶのか不思議である。程度の違いこそあれトレーディングブックを運用する「店頭」業者において「まだカバーしていない」という状態も「カバーしすぎている」という状態も「ネットポジション」という同一のリスク管理が行われる。市場リスクを見るときそれらは同一である。それをあえて未カバーの分だけ取り出すことに違和感はぬぐえない。「未カバー」という言葉は「ネットポジション」という概念と同一ではない。こういう用語の細かい違いに対する配慮はできる限りあったほうがいい。なぜならそれがのちに思わぬ誤解を生み、現場が混乱する例をいくつも見てきたからである。

業者が抱える市場リスクはネットポジションから生まれる。それは常に監視されているべきであり、それが適当なリスク量かどうかの評価は自己資本(固定化されない自己資本)との対比においてなされている。このモデル自体おかしいとは思わない。大事なのはその市場リスクがどれくらいの頻度で監視されているかということと、市場リスク額を算定する掛け目である(現在はNOPからBOE方式で算出する市場リスク額の8%)。間引きされた情報は真実を表さない。


「現在、未収金の発生リスクについては、相場変動による想定損失額の99%信頼水準をカバーする証拠金の受け入れが義務付けられている」らしいが、それは「相場変動」をどう観察し、どうシミュレートするかというシナリオ次第でいくらでも変わる。これについても少し前回等のコラムで触れているので、改めての話は次回以降に譲る。

「G-SIFIsに関するリスク量」というのは、要するにPBが一部の銀行に集中しているという点を指していると思うがそれは、業者側ではなく、銀行側に問うべき問題である。客側の店頭業者にPB相手がどれだけのPB顧客を抱えどれだけの決済リスクを負っているかわかるわけがない。PB銀行側から見れば業者がまとめて破たんするケースで一番ありうるのは、為替市場そのものになにか起きた時である。その時の銀行側の状態を想像すればわかる通り、それはもう日本の店頭FX業者がどうだからかという問題ではない。会議においてはこの辺の認識があいまいだったという印象が強い。


■清算機関を使う話


 8ページにおいてカバー先の破たんリスクに鑑み、PBの破たんリスクを、清算機関を利用することで、「清算機関が十分な財務資源を有していることから、ストレステスト上リスク量をゼロとすることが適当と考えられる」と書いてあるのだが、これはいったいどういう意味だろうか。実質的な決済リスクをどうするかという議論だと思ったのだが、清算機関による集中決済を導入すれば取引先リスク額の掛け目がゼロになるから自己資本比率が悪化しないよと言っているように読めてしまう。それは本末転倒ではないのか。議論の本質のひとつとして、清算機関の取引先リスクの掛け目をゼロにすること自体を見直すべきではないのだろうかというニュアンスを上段で出した私としては、大きく疑問を感じる部分である。清算機関すらリスクはゼロではないという域に議論を踏み込ませないと今この時代に語るべきレベルではないだろう。「リスク削減のため清算機関の活用を促すことにもつながる」というのは、実質的なリスクが削減されるのではなく、見た目のリスク相当額が削減されるだけのことであるし、既存の清算機関がどこを指すのかも明示しないまま、清算機関を使えば決済リスクがゼロになるという発想はいかがなものだろうか。さらに「活用を促す」というのは最初から清算機関を利用してほしいというだれかの願望が見えかくれする。清算機関を利用すれば決済リスクゼロという考え方はむしろリスクに対するセンサーの感度を低下させる。また、何度も言っていることだが清算機関とて無限のリスクを吸収できるわけではない。最後は結局税金が投入される可能性を忘れてはいけない。


■清算機関を使うことの現実性


店頭FX業者の店頭取引を清算機関で集中決済する場合、彼らのカバー先が全部その参加を了解してもらわないと成立しない。あるいは、参加しないと判断した相手がカバー先にいたらその業者はそのカバー先を使うことをあきらめるか、清算機関に参加することをあきらめるしかない。これが義務になるのか任意になるのかは知らないが、義務となると撤退する業者やカバー先銀行が出てきてもおかしくない。

現在、日本の店頭FX業者のほとんどは外銀を相手にやっている。かつその多くは少数の外銀でPBをしている。さらにそのPBに対して上位の与信力の高い店頭業者には邦銀がLGを出すという構造になっている。このビジネスチェイン(利害関係)を断ち切って集中決済へと持っていくのはそう簡単なことではなさそうである。また、そこがTFXになるのか、JSCCになるのか、あるいは新しい清算機関なのか私には知る由もないが、どこになっても、そのシステム的対応にはお金がかかる。また参加者は清算機関に「共済金」なるものを預託しなくてはならない。それらは各業者の自己資本から拠出される。負担額は相当なレベルになるだろうし、その額の算定モデルも悩ましい。そうまでして決済リスクを集中させるスキームに価値があるだろうか。清算機関による集中決済こそが万能という時代ではないような気がする。今や世の中にはあらゆる分散型のモデルが生まれてきている。リスクは分散するのがよしという常識もある。集中するメリットとして効率性と透明性と公正性が担保されることが挙げられるし、与信を与えるカバー先から見ればそれらの透明化された情報を評価に使うことで、今よりも与信の掛け目を下げられるかもしれないが逆に上げる可能性もある。

仮想通貨に代表されるように、今や様々な技術で決済リスクを分散する手法が生まれて生きている。今からこのテーマにチャレンジするのであれば、昔ながらの発想から飛び出していくぐらいのプロジェクトにする方が“フィンテックジャパン”らしくていいのだが。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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