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尾関高のFXダイアリー

[第248回] 店頭FX業者における決済リスクまたそのシステミックリスク(2/3)

>【第246回】店頭FX業者における決済リスクまたそのシステミックリスク(1/3)


5.CCPによる集中決済はシステミックリスクを回避する手立てになるか


 店頭FX業者にもCCPを導入するアイデアは何度もいろんな場所で議論に上がっているようだが、CCPを導入するとシステミックリスクは回避できるのだろうか。私の持論では集中決済はシステミックリスクを見た目下げるように見えるが逆に振り切ったときのシステミックリスクは業界全体及ぶという短所がある。山一の例を思い出すまでもない。CCPとて無限責任は負えない。最後は政府が、つまり国民の税金がケツを拭く例は過去いくらでも見てきた。むしろ店頭FX業者のシステミックな波及を抑えるなら自己責任で完結するOTCのままにしておく方が影響は少ないと私は考える。この理屈は改めて説明するまでもないだろう。

また、集中するとそこに巨大な権限が生まれ、そして権威が生まれ、忖度が生まれ、利害関係が複雑になり、一人の失態をクラス全員で穴埋めするという体裁や体制を守ろうという意識が働く。そのためその意思決定プロセスが遅れがちになり、あらゆる判断が後手に回る例を嫌というほど見てきた私たちは、その辺の長所短所のメカニズムをよくよく検証するべきだと思う。仕組みを考えるとき、権限の弊害もよく考慮するべきである。CCPの長所は決済の実態が透明化されるという点であるがそれは米国NFAがとっているようなアプローチを店頭業者に課すことで十分補える。米国を中心にSEF等の店頭デリバティブを集中決済させる動きはだいぶ進んだが、今は停滞している。必ずしもそれが絶対的によいのだとは言えない。特に店頭外為証拠金取引業界はその預り金に対してすべて信託が義務付けられているという点の評価を議論から外してはいけない。

2009年のG20におけるピッツバーグサミットの宣言以降、店頭デリバティブの集中決済の動きは加速した。現在日本でもJSCCがCDS等のクリアリングをしている。議論のテーマが集中決済に移るとそれはもう店頭FX業者のレベルの話ではなくなり、かつレバ規制とは全く次元が異なり、店頭FX業者に端を発するシステミックリスクの話ではなくなる。現実的にみて店頭FX業界のシステミックリスクを低下させたければCCPはやらないほうがましである。個々の業者が破たんするときは自己責任でつぶれてもらうほうがいい。その方がシステミックリスクに与える影響はCCPよりも低い。むろん客の資産は信託保全されている前提があっての話である。


6.当局や協会のモニタリングの効果


当局や協会への報告は今も行われているがその多くは統計情報を目的としたものが多かった。その内容は十分だとは私も思わない。その辺は私の過去のコラムで何度もしつこいほど触れ、具体的提言もしているのでここでは割愛するが、それを実現するにあたり、当然システム投資が必要になる。その資金を出すのは結局協会会員である。短絡的なレバ規制等の規制強化か会費の増額かというトレードオフが見える。こういうとちょっと乱暴なので、丁寧な言い方を添えれば、モニタリングの仕組みを強化することでより細かい与信リスク、決済リスクの調整が可能になるなら、それに見合う費用を出してでもモニタリング機能を充実し、より論理的で整合性のあるルールを検証し実施していくほうが業界にとって健全であり、投資家保護にも役立つという意味である。


7.業者破たんのシナリオ


 店頭FX業者が引き起こすシステミックリスクの目線からいったん離れて、外為市場が引き起こすシステミックリスクに目線を移す。私が最も恐れるのは、スイスショックのような流動性の枯渇と30%以上もの乖離をもって数分後に流動性が復活するという同様の事件がドル円で起きることである。流動性の高いドル円でこれは起きないと言い切れるか。いや、仮に起きたらどうなるかを考えよう。それを検証するのがストレステストである。今行われているテストの条件はスイスショックの事件を含む時間軸で定義されているが、同じレベルの事象、つまり数分間流動性が止まり、復活した時には30%以上のかい離で始まることがドル円で起きたらというシナリオは誰も走らせていないだろう。このシナリオを想起するとき気づいてもらいたいのだが、その30%もの真空落下が数分の間に円高方向に起きた場合、それはもう店頭FX業界の問題ではない。インターバンク市場全体の問題である。店頭業者ごときがどうこうできる話ではない。

業者が破たんする現実的なシナリオを考えるとき、正確に、慎重に言うと、市場のボラティリティが破たんをトリガーするわけではない。見なければならないのは、カバーするべきインターバンク市場の流動性が、もっと具体的に言えば、業者がカバー取引できるカバー先から来るレートが頻度も、量も十分あるかどうかである。十分な流動性を伴いながら10分で5円動くことは痛くもかゆくもない。現在の4%の中のロスカットで未収金も起きにくい。しかし、流動性が枯渇している状態で、それが1分間だろうが、10分間だろうが4円動かれたら、大きな未収金が発生するリスクは極めて高い。こうしたシナリオは今の法人レバ率を計算するストレステストでは測れていない。ましてや個人投資家に対して適用されている今のルールは論外である。


8.インターバンク市場発のシステミックリスク


 業者がカバーで使う金融機関がアクセスするインターバンクの為替市場自体に異変が起きた時それによる店頭FXへの影響は何か(冒頭のシナリオと流れは逆になる点を意識してほしい)。

まず想定されるのは、業者がカバー先への決済代金を支払えなくなるという事象が発生する可能性が高まることである。この場合この業者がカバー先との決済不能となる原因はまっとうに考えればその客の未収金であるがそれ以外の事業による破たんもあるかもしれない。あくまでもそのカバー先は破たんしていない前提で考える。上記の私の最悪のシナリオとして挙げたドル円で円高が数分にして30%以上真空落下することが起きた時、間違いなく業者は多額の回収不能な未収金を抱えるだろう。

そしてそれは会社の存続をきわめて危うくするような規模になりうるだろう。この辺の“だろう”的な話はいくらでもストレステストのパラメータを変えれば数値化できる。それをベースに現在の自己資本規制比率の枠組みで対応できる部分もある。それでも不足があればそのモデル自体を修正すればいい。たとえば、日中のリスクが見えないと懸念するなら市場リスク額計算の根拠の抽出頻度を上げればいい。現在の市場リスク額計算は一日一回という運用は明らかに時代遅れである。

一方業者側は規制が一日一回だからそれだけ計算すればいいやと考えるのならそれは間違いである。過去そういう会社は市場から淘汰されてきたという教訓を学んでない。例えば仮想通貨の証拠金取引を日本の交換業者はレバ25倍で提供しているが、海外では5倍程度でやっているところも結構あるように見える。規制がなくてもそうしているのはその交換所が市場リスクとレバ取引を客にさせるリスクをよくわかっている証拠である。システミックリスクからは離れるが、こうした金融の常識がちゃんと咀嚼されているとは思えないようなサービス仕様は特に日本の仮想通貨業界によくみられる。それを私はとても懸念している。FXも仮想通貨取引も「金融商品」であるという認識をもって望むのは当たり前だと思うのだが、今の法体系はその辺が矛盾している。なるべく早く修正されることを望む。


9.FXCM等の過去の例


 スイスショックでFXCMは事実上破たんした。しかしこれは世界的な金融システムにシステミックリスクの顕在化をもたらしてはいないと私は認識している。ブレグジットの時も、東北大震災の時もそうである。確かにスイスショックで欧州を中心とした複数の業者は破たんした。東北大震災で証券会社のいくつかは大きな損失を出したがそれは株式市場によるものだった。FXではない。間違っても世界的な金融システムに対する大規模なシステミックリスクは健在化しなかったのではないだろうか。日本の一店頭FX業者がカバー先の銀行(主に外銀)に対する決済代金が払えないという事態がその銀行を通して、国際金融市場の決済システムを揺るがすことになるかどうか、それこそがストレステストで一番注目したいシナリオである。


(続く)


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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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