[第244回] H28事務年度 金融庁レポートより(その1)
外国為替証拠金取引業
146ページにわたる広範囲なレポートは多くの情報を与えてくれる貴重な情報源である。ここでは当然ながらその中から外為証拠金業界に関係するところだけに焦点を当てた話になるのだが、それは44〜45ページの「(4) 証券会社等 ?証券会社 ?外国為替証拠金取引業者(FX業者)」で、2ページにわたって軽く触れられている。
要点と意見
私なりに要点をまとめる。
【目標】
「為替相場の急変等を見据えた為替リスク管理の高度化に向けて継続的に取り組む必要がある」
【実施したストレステスト】
? 未カバーポジションに対するリスク
? 差入れ証拠金(未収金)の発生リスク
? カバー取引先の破たんリスク
【テスト結果分析】
・??のテストによって自己資本規制比率が120%を割る業者(本文では“先”と表現)はいなかった。
・カバー取引先の破たんシナリオに基づくテストでは自己資本(規制比率120%以上)を確保できなくなる業者は約2割。
【結論】
FX業者においては、カバー取引先の分散と顧客の取引限度額の見直しが取り組むべき課題。
ストレステストの継続的案実施とFX業界全体における為替リスク管理の底上げが必要。
テスト結果から「カバー先に対する審査と分散化は重要だ」とわかるが、これは与信リスクの分散化というテーマであり、昔からある話である。例えば、私の経験でFX事業を始めた当初、米系の先物会社をLPにしていたが、その先物業者が突然籍をタックスヘイブンに移すと言われてなんとなく気になったので手を切った。その後その業者は破たんしたという私にとっては運のいいことがあったが、これなどは上手く取引先リスクを回避できた例である。
また、PBを導入した時、これは与信リスクの集中になると考えたので、私は欧州系と米系の2行をPBにしていった。ということで、正確にはPBスキームが多く使われる今業界においていうなら(すべての業者についての話ではないが)、PBスキーム導入による与信リスクの集中をどう和らげるかというテーマになる。PBを使わない業者は、それぞれについてアンテナを鋭敏にしておくべきであるということは言うまでもない。特にバルジブラケットレベルの銀行以外の先物業者やヘッジファンドをLPにしているときは、いつもと違う動きがあったら要注意である。上記のように私の経験上それは強く言える。
以下は私のアンテナ基準。多くは銀行よりも先物業者やヘッジファンドLPに対してのセンサーである。
1. 証拠金を引き上げると通告してきたときは身構える。 ただしそれは健全な市場リスクの
増加を見越した上の処置であればむしろ与信管理目線ではよい話になる。
2. 登録国籍を変える話は最大レベルの要注意。
基本的にタックスヘイブンの会社とは付き合わない。
3. 金融監督局が緩い国の相手とは付き合わない。
どこが“緩い”のかは皆さんのご想像にお任せする。
4. 特段の理由も説明もなくレートが異常に悪くなりだしたとき。
そしてそれが1週間以上続いたとき。
5. システム障害が頻発しだしたとき。
6. ボードメンバーが変わったとき。特に解任があったとき。
7. 他社に買収されたとき。あるいは買収した時。
8. バルジブラケットレベルの銀行LPについてはロイターやブルームバーグのニュースで
必ず日々関連記事をチェックする。頻繁に紙面をにぎわし始めたら要注意。
9. 以上はすべて、PBを利用している場合はPB相手のみが対象。
与信リスクのない、いわゆるスポークバンクは関係ない。
後は対策として、
i. PBを使っているなら欧州系で一つ、米系で一つの計2つを契約する。
そしてスポークバンクはその両方にぶら下げていつでも迅速にPBをスイッチできるようにしておく。
ii. 資金管理はマメにする。手数料を気にはするが、それ以上に余計な資金を滞留させない。
iii. 正の再構築コストは常にモニターする。
「顧客の取引限度額の見直し」については、前回のコラムで触れた通りである。まさにこの段落の目線も“レバ規制は、まず業者の破たんリスクを回避するための大事な検討項目である”と示唆しているように読める。文脈的に投資家保護の話の流れであるようには読めない。
底上げ
「為替リスク管理の底上げ」の“底上げ”という短い言葉が指し示す概念の面積、あるいは体積は結構広く大きい。これだけだと結局何をしていいのかということになりそうなので、目下私が意識していることを、過去にも触れたが改めて列記する。
モデルの修正
個人のレバ規制を10倍とかいう話の前に、法人向けに始めたロジックを個人にも適用してはどうか。そのうえで、法人は計算結果そのままを使うが(実質的に現在大体50倍ぐらい)、それの2分の1といった掛け目で対応する(おや、これだとちょうど今のままの25倍か・・・では3分の1で15倍とか・・・)。
私が大事だと思うことは、
◎口座に対する証拠金率ではなく、通貨ごとに定義され“適宜”掛け目(率)が変更できるモデルに完全シフトすることと、
◎通貨ごとにその掛け目の最低値の変更を当局が業界に機動的に号令できること、
である。それによって突然投資家のポジションが強制決済されるという事態は、その変更通知が1週間前に出される限り“忖度”する必要はないと思う。予見される動き、あるいは事件が起きた後の余波はそれで対応するとしても事件直後はどうにもならない。どうにもならないことをどうにかしようとするとコストが跳ね上がる。未収金を出すぐらいなら、事前に安全に切ったほうがいい。
レバ率目線の調整
変更されるべきレバ率(掛け目)は、仮に以下のようなモデルを想定しよう。
ヒストリカルボラ(法人モデル)[β]+向こう一か月に予測される市場変動をもたらすかもしれない事態に対する予測ボラティリティプレミアム[α]
αは当局が決めていいと思う。ブレグジットのような予見される変動リスク事象は今後もありうると考える。
カウンターパーティ名の開示
カウンターバーティ名の開示は、それはそれでいいが(PBスキーム導入後その当初の目的は無実化している)、別途「与信リスク先の開示」を行う。例えば20社のLPとカバー取引していても、全部ひとつの銀行のPBで決済しているなら、「与信先LP」はそのPBの銀行だけが対象になる。客目線で、この業者はあの銀行が破たんするとその余波を受けるという情報はないよりある方がいいが、普通の人はそこまで気にしないし、気づいてもいない。
取引先リスクの掛け目
業者が使うカバー先には名だたる銀行からヘッジファンドやFX・先物業者までいろいろあるが、それは現行法上取引先リスク額の「掛け目」で調整され、正の再構築コストを含め合理的な額を算出するようになっている。ストレステストで結果が思わしくなければまずはその掛け目の見直しをしてはどうか。とはいっても25%は結構大きいが。