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尾関高のFXダイアリー

[第243回] レバレッジ10倍検討について〜その後

東洋経済のネット記事
FX倍率を10倍へ引き下げると何が起きるのか
は要点がよくまとまっている。

要点とは、
「そう、レバレッジ規制だけでは、必ずしも個人投資家を保護できないのだ。」
という一点である。

究極的に、

“レバ規制は、業者にとっての対顧客与信(未収金)のリスクコントロールとしては機能するが、投資家自身にとってはあまり意味がない”

ということを示唆している。


業者にとって「未収金」は自身の決済リスク、しいては自己資本規制比率低下リスクに直結する。ただしのその業者が原則ネットポジションを抱えずにLPでカバーしている前提である。このコラムで何度も例として出しているFXCMのスイスショックの時の事例がそれである。

客の損失分は、信託から利益として業者の資産に振り替えることができる(当たり前だがそうなる)。そしてその一部もしくはすべてはLPに対する決済資金としても使われる。このとき未収金が膨らむと、業者はLPに対する決済の資金をその分自前で賄わなければならない。その時点で業者に余裕資金があるかないかだけが問題となり、それは対顧客取引とカバー取引のどうのこうのという次元とは全く関係がない。いつも言うがポジション管理とキャッシュフローは別物である。そしてその額が大きくなると自己資本規制比率が悪化し、最悪120%を割ってしまう事態になりかねない。


一方、投資家側から見れば、レバ規制がない状態から順次、50倍、25倍、そして今回ひょっとすると10倍というようにきつくなっていくと、それに応じてポジションを小さくする人は相対的に抱えるリスクが小さくなるが、今まで通りのポジションを維持したい人は逆により多くの資金を差し出すことになる。結果、東洋経済の記事が指摘する通り、25倍から10倍のレバになってもフルポジションを維持すれば、さらすリスクは2.5倍に膨れ上がることになる。言い換えると、損切をしないで我慢する限界が2.5倍に拡張する。自分でロスカットのためのストップロスオーダーを入れる人は関係ないが、いつも損切は強制ロスカットにお任せというずぼら(?)な人はそういうことになってしまう。


業者によってレバが何倍までできますというのはあくまでもそこまでレバがかけられるという意味であり、それ以内で個人が自分の投資資金の塩梅を考えながら自分に合ったレバレッジを探して決めていくというプロセスは大事なことなのだが、なかなかそういう教育を自分自身に意識的に行うことは難しい。それは何もFXに限ったことではない。株の信用取引や先物取引でも全く同じことが言える。


現実の市場環境を見れば確かに相場の変動リスクは高めであるようにも見える。今現在、あるいは過去何年かのデータから見える変動率がどうだという話ではない。大体市場が混乱するような相場変動は予測できないことが起きるからそうなるのであって、予測できればそうはならない。仮に予測したとしてもそれに対応しない限りはそうはならない。私はよくたとえ話で、


「砂漠で傘を探すばかばかしさ」


に例える。かなり極端な例だが、ヒストリカルボラが低いからといって明日も低いとは限らないのだ。むしろ長い間干ばつが続いたあとに突然大雨が降れば、その落差はより大きい。


本来客にどういうレバレッジを提供するかは業者が自分を守るために考えるべきことである。私も未収金は大嫌いである。投資家に対して自己責任でというのと同じ意味合いで、業者も自己責任でレバレッジを設定するという考え方が本来健康的な発想である。しかしながら、競争社会において、業者も生き残るためには戦わなければならない。競争相手が規制レベルの25倍(現在はとりあえずこの数字)で勝負してくるときに、自分だけ安全に15倍で、とはならない。本来自己資金がたんまりあるところと、そうではないところではこの数字に違いが出ても理論的にはおかしくない。しかし、そういう理由で業界はみな規制の数字に並ぶ。当然株の世界も同じ。


投資家側から見てこの業者の未収金はあくまでも投資家が業者に預けた資金では賄いきれない額の損が確定したということである。すべての投資家から見れば、業者に預けた資金が常に全財産というわけでもない。私も投資目的の資金(リスクにさらしてもいいと腹を決めた資金)として仮に100万円を用意したとしても、実際に業者に預ける金はその時保持するポジションに応じて10万円だけということだってある。未収金の額だけが憂うべき個人投資家の「被害額」であるということにはならない。ここで、上でいう「未収金は業者にとってのリスクである」という話につながっていく。業者にとってはこの未収金はダイレクトにキャッシュフローリスクにつながるのである。改めて、誤解を恐れずに言えば、


レバ規制は、
投資家保護ではなく、
競争環境上ついつい無理をしてしまう業者から、破たんリスクを遠ざけるための規制である


と言えなくもない。私はレバ規制の本質はここにあると思っている。繰り返すがFXCMの事例がそれを如実に物語っている。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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