FX業者を登録制にする法律について
■顧客の適合性
現在ホットな話題なので、少々触れてみたいと思います。
第一に、顧客の対象として存在するのが、消費者であり、投資家です。何が違うかというと、消費者はこの商品の顧客ではなく、投資家は顧客です。では、消費者から投資家になるためには何が必要かというと、それは投資家としての資格を有しているかという判断であり、一般に「適合性の原則」と呼ばれる概念でくくられます。具体的には、
- 取引する、もしくは購入する金融商品の仕組みを理解できる。
- かかるリスクについて理解できる。
- その人の投資しようとする資金が生活上必要なお金ではない。つまり生活資本として必要で、もしなくなると明日から生きていけなくなるというお金ではない。
というような条件を満たすということです。これらの是非を判断するのは業者側です。金融審議会でも焦点が当てられた箇所です。実際のところ、個人個人の資質について、金融知識があるかどうか、また金融資産があるかどうかを判断する材料は、お客になろうとする人の自己申告しかない状況で、どこまで業者側が適合性を適格に判断できるかには疑問が残ります。
■業者の適格性
第二に、業者の適格性の問題です。おおまかに以下の条件に整理します。
- 取ろうとする市場リスクに見合った資本を備えているか
- リスクを適格に、必要に応じたタイミングでリアルタイムに把握しうるシステムをもっているか
- リスク管理を行う部署が独立して機能しているか
- 内部に為替の知識・経験を兼ね備えたスタッフを配しているか
- 営業上、顧客の適合性の判断が管理されているか
- 法令遵守のための専門スタッフを擁しているか
1)については、自己資本規制比率の問題に集約されるのですが、細かくは市場リスク、取引先リスク、基礎リスクと分類されます。なかでも、市場リスクの計算に関しては、法律(内閣令)の条文が明確な定義を、実例をあげて示していない分、読み手の解釈にゆだねられる部分が多く、実際いくつかの同業者の計算方法を聞いて見ると、各社まちまちであるケースが散見されます。
ひとつだけ一番多い問題点を挙げれば、市場リスクを計算する上で、法律の表記上「通貨」と記載されるものはあくまでも「通貨」であり「通貨ペア」ではないということです。通貨ごとの価値はバランスシートに載りますが、通貨ペアとしての価値はバランスシートに載りません。たとえば、ユーロドルで10万を1.2250でロングであれば、通貨ごとの持ち高は、EUR100,000ロングとUSD122,500ショートの2つに分割されます。
また、通貨の市場リスクは何もオープンポジションにだけあるのではなく、現金として実現したものについても存在し、その現金化した外貨の「ポジション」は、「資産サイドの外貨持高マイナス負債サイドの外貨持高」で計算される分になります。これは、条文に明記されています。この点が曖昧に処理されているケースが見受けられます。結果として通貨ペアで見るという計算でもOKということになるかもしれません。しかし、そうである場合、実際にバランスシートに落とし込まれた外貨ポジションが会社として把握できずに、その分の外貨の値洗い分が計上されないとなると、会計上の問題が発生することになりますし、しいてはその会社の損益が100%把握しきれていないということになります。
こういう問題を理解するためには、外貨を経理処理する上での知識がないと簡単にできるものではありません。普通国内で外貨を経理処理する場合は取得原価(簿価)で半年に一回だけ値洗いをして「外貨評価損益」として計上するパターンが多いのですが、現在検討されている法律の方向性を考えると、これを日々値洗いして計上しなければならなくなります。そうなると手作業による仕訳では追いつかなくなるので、システム上の対応が必要になります。そうなると、必要な専門知識としては、(外貨の)会計、経理、システム開発が係わってくることになります。
こうしたノウハウを持っている人は簡単に見つからないところにこれからの業界の苦労が予期されます。