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尾関高のFXダイアリー

[第241回] 金融庁レバ規制10倍検討(2017年9月27日)

私のコラムをいつも読んでいただいている人は、やっぱり拾ったかと思われてしまうことに若干の恥ずかしさを覚えなくもない。そう、私はどうやらこの手の話が好きらしい。今回のレバ規制を厳しくするという文脈としては、「ああそうかやっぱりな」と思うし、「当然そうなるだろう」と思うが、問題はその根拠と方法である。出元はいつもの通り日経新聞電子版なので、アカウントを持っている人(残念だが基本有料)は、下記のサイトで全文が読める。

▼FX証拠金倍率を引き下げ 10倍程度に、金融庁検討

記事の要点を以下にまとめるが、規制のポイントは2つ(1,2)に分かれ、全体としてそれらの理由(3)に触れている。


1.内容


(ア)レバ規制10倍
?年内の内閣府令で改正を予定。
?1985年からの市場のデータから「平均の変動率は11.4%」。10倍程度にするという方針の根拠がこれと指摘しているように読める。

(イ)FX業者の自己資本規制(比率)見直し
?改善命令=120%を見直す。

(ウ)規制検討の背景
?取引量が増えて外為市場への影響が大きくなっているため規制を強めるべきだ。
?業者のカバー取引が不十分である、
?取引額が大きいほど相場急変時に業者が大きな損を被りかねない、
?投資家の証拠金は保全される原則だが、破たんに伴う強制決済によって実損が出る恐れもある、

という例を記者は挙げている。


2.整理と提案


以前もこのテーマについてはこのコラムで書いているが改めて書く。
レバ規制を今の水準からきつくするのは何となく空気を読めば自然だと思うが、問題は理屈の通った根拠と合理性と整合性のある方法論である。


(変動率が高いとか低いとか) 
近年変動率の高まりがあるから、という話は合理的ではない。規制はできる限り現実の不確定で不安定な相場変動に対して柔軟(アジャイル)であり、包括的であるほうがよい。

(規制次元) 
包括的なルールやそのモデルを決めるまでは内閣府令レベルとし、具体的なインプットパラメータは金融庁の一存で変更できるレベルまで落とした方が機動的になる。緊急マージンの発動などがやりやすい。

(法人レバ規制モデル) 
最近の地政学的リスク等を考えれば”と言えば、それは“将来”不安を見た話になる。一方、法人レバ規制で導入されたモデルは“過去”のデータだけを見ている。しかしこれは現在の個人投資家向けの口座レバ規制ではなく、通貨ペア規制であり、レバレッジの算出根拠に客観性がある。

(レバ規制は最低限の値に張り付く)
規制として決められるレバはあくまでも「最低限それで」という意味でありそれ以上に証拠金率をかけてもよいとしたところで、現実として業者間の競争がある限り、業者は4%以上と規制されればその下限の4%に張り付いてしまう。低くすればするほど業者の対顧客与信・決済リスクは高まるのだが、営業政策上そっちの方が優先されるのが世の常であり、だからこそ規制が必要な部分である。


3.整理と提案


 以上の事実認識を踏まえたうえで、以下思うテーマごとに意見を述べるが、前提としてこれらは批判ではなく、私からの“こうなったらいいな”という希望であり、望むらくは業界への提案である。


(ア)当局による緊急マージン
 モデル式は合理的であるべきでそういう点で今ある法人レバ規制のモデルは合理的でわかりやすくてよいと思う。しかし不確定な未来にある程度予見されるリスクがある場合、それに対する保険的反応として当局が「緊急マージン」を発動できるようになるといい。私が知る限りそれは米国CFTCでも英国FCAでも行われている。スイスショックは事後CFTCが、ブレグジットの時は事前FCAがマージン引き上げを指示している。

規制はすべて4%としているが、業者が使うシステムのすべては通貨ペアごとに証拠金率・額を設定できると仮定する。つまりシステム上の問題点はないということである。であれば緊急マージン発動も、明日から、あるいは来週から発動しても対応は可能である。個人投資家に対して告知1週間を費やせば合理的な準備期間と捉えられるだろう。むろん約款等に最初に合意してもらうことになるが、私の知る限りどこも市場環境に応じて維持証拠金率・額の変更は予告なく、あるいは1日前でも行われ得るという類の条件を入れているだろう。

(イ)「取引量が増えると外為市場への影響が大きくなっているため規制を強めるべき」か
 存在感が増せば当然目立つし、規制が強くなるのもわかる。しかしこの業界が生み出す流動性が実需やファンドといったセクターに与えてきた流動性の質の向上というプラスの側面も評価してほしいと思う。20年の間にスプレッドが3分の1(インターバンクレベルで1銭から0.3銭だが、リテールで見ればTTS/Bの2〜3円から0.3銭だから100分の1以下)までに狭くなったが、そこにこの外為証拠金取引業界が果たした役割は大きい。「影響」という言葉が示す内容次第だが、それが何なのかはこの記事からはわからない。規制は強いか弱いかではなく適切かどうかである。現在の仮想通貨市場・業界における規制対応はその強弱ではなく適切かどうかにおいてはなはだ疑問の余地があるというのが私の中ではいい例になっている。


(ウ)改善命令120%について
 120%が妥当ではない、低すぎるという判断に至ったとしたらその根拠は私にはわかるはずもない。臨店検査をしている当局だからわかる、感じることだと思うが、では何%にするのだろう。まさか今のBOE方式をベースとした市場リスク額計算式そのものを変えるとも思えないし、その他取引リスク相当額や基礎リスク相当額の計算式も変えないだろう。分子になる固定化されない自己資本の額も概念上変わる感じがしない。あとは掛け目の120%を例えば180%に引き上げるといった対応を想像する。そうなるとその上の閾値である日々報告レベルである140%もさらにその上に引き上げられる。これは業者にとっては自己資本の増強を促される事態になる。常に500%や800%といった遥か彼方の数字を維持する業者は気にしないかもしれない。不安が残る業者は手っ取り早く(しかし困難な)増資に動くか、それができなければ再び業界の小さな再編が起きる可能性もなくはない。そういえば、BIS規制の8%、すなわち金商法の自己資本規制比率計算に使う市場リスク相当額計算の掛け目もいまだかつて変更されていない。少なくとも改正金先法以来ない。

(エ)背景全般について
ここで記者が指摘している点は重要だがこれだけだとその重要さがわかりづらいと思うので解説しておきたい。

要素としては、

●客の取引→カバー取引⇒カバー比率⇒市場リスク
●客からの預かり証拠金の十分さ⇒レバレッジ⇒決済リスク

の2点になる。これらは密接に絡み合うが、理解はきれいに分けながら融合させないと誤解を生じる可能性もある。大事なポイントとしては、

カバー比率が高ければ高いほど、業者の市場リスクは低下するが、逆に決済リスクは高まるということである。米国のFXCM社がスイスショックで再起不能に陥った原因はここにあった。カバー比率を100%にしていれば業者はいつも安全かというとそうではないということを言いたいのだが、少し具体例を挟もう。

例えば100%カバーしている業者で、客の預かりが実預託ベースで4億円あったとして、客に対する維持証拠金が4%であったとする。つまり客はフルレバレッジ状態である。そして今市場が突然一気に6%下落して、ほとんどの客の口座がマイナス2%分、つまり2億円分赤字になった。当然全口座でロスカットは終わっている。この結果、総額6億円が一瞬で売買損として消え失せたことになる。そして差引で2億円分が業者の顧客に対する「未収金」となった。さて今、客のポジションを全部LPでカバーしていた業者はほぼ同額6億円を明日と明後日の間にLPに支払わなくてはならない。4億円は信託から返ってくるからこれが使える(顧客の預かり証拠金はすでに売買損科目に置き換わっている)ので残りは2億円が必要になる。しかし、今この業者の自己資本として持っているキャッシュはかき集めても1億円しかなかったとする。そして客は誰一人未収額を支払ってくれなかったとする。客の多くは自己破産をするか、法廷闘争にもつれ込むのでいつ支払いが履行されるかもわからない。つまり1億円足りない。明後日までにLPに支払う1億円を調達しないと不渡りなる。数字を変えれば大まかにこれがFXCMで起きたことである。FXCMの場合はこの1億円にあたる額を貸してくれる人がすぐに現れた。

 さて、ここで別の業者がいたとしてここは、客から入るポジションの半分しかヘッジしていなかったとする。それ以外の仮定は上と同じとすると、業者がLPから求められる決済額は6億円ではなく3億円になる。この時業者から見て対顧客には未収金2億円があるが、自己資本としては、客からの預かりがすべて売買益にかわった4億円と、もともと持っている自己資本1億円があるので、LPへの支払い3億円は問題ない。差し引きまだ2億円自己資本(キャッシュ)が残っている。もし2億円の未収金を特損にするなら計算上は自己資本の2億円が充てられる。つまり、この業者はカバーを半分しかしていなかったおかげで生き延びる可能性があるということである。つまり、カバー比率と証拠金率の関係は、以下のように考えられる。



ここから導かれる結論は、“業者が資金決済リスクをできるかぎり低くしたいなら、カバー比率はできるだけ低くして、証拠金率はできるだけ高くする(レバレッジを掛けさせない)”となるが、そうすると市場リスクが無限大になっていく。つまり、決済リスクを下げると市場リスクが上がるということである。

 すなわち記事の背景理由で指摘される問題点は、カバー率が低いというだけで安直にそれはいかんとも言えず、こうした業者のリスク管理はその構成要素「上の例」のバランスの上でいいとか悪いという評価が適正に測られるべきものだという点は指摘しておきたい。むろん一般向けの新聞記事でそこまで細かいことを言ってくれとは言っていない。だからここで私が代弁する。

(オ)カバー取引が不十分とはその多寡ではない
「カバー取引が不十分である」という言葉の意味は文脈から察するに多寡を言っているのではなく、市場リスクを十分抑えていないという意味だととらえる。

連想する言葉で「カバー率」があるが、一般に「カバー率」という言葉を使うとき普通は客の取引高(売りも買いも足す)対LPカバーした取引高を指す。しかしそれと市場リスクは関係ない。市場リスクは客に対するネットポジション+LPに対するネットポジションで把握されるものである。例えば、客の買い100に対して売りが100あったときで業者は一切LPカバーをしなかったとすると、カバー率は0%になるが、市場リスクもゼロになる。つまりやたら売買が交錯する客を持つ業者でBブックを採用するところは、たとえ1分ごとの100%カバーをしていてもこのカバー率は低くなりがちになる。市場リスクを取りすぎることとカバー取引の多寡に相関性は求めえない。一切カバーしなくても市場リスクが低い時もあれば(上記の例)、逆にカバー取引がありすぎるために市場リスクが肥大化し、結果的に資金決済リスクが大きくなりすぎ倒産に至るケースもありうる(これも上述のFXCMの例の通り)。

(カ)取引額が大きいほど相場急変時に業者が大きな損を被りかねない
 以上の考え方からすれば、取引高(額も同じ)が多いと業者が損をする可能性が高いというのも、一概には言えず、取引高の多さに加え“ヘッジモデルがどうであるか”が大きくかかわってくる。むしろこっちの方が影響度は高い。Aブックをかたくなに守る業者においては取引高が多かろうと少なかろうと市場リスクは極限まで小さくなる。また業者が損をするということと、営業利益が年間でどうかということも一言では表現しづらい。相場を相手にするマーケットメイカーの損益は相場変動の影響を大きく受ける。これは変わらない。そういう時損をするからこそそれ以外の時で利益を着実に積み上げるというモデルもあれば、そういうときこそ普段の何倍も利益が出る業者もあるだろう。モデル次第である。ところで、証券の取次ビジネスモデルではないという大前提で私はこういうことを言っているが、そこから覆されるとこの話は終わる。

(キ)破たんに伴う強制決済によって実損が出る恐れ
 これはちょっと推測が難しい。(業者の)破たんに伴って(客の)実損が出るというなら、それは信託の実預託に嘘か間違いがあったということになるのか。確かに嘘ではなくても正確ではないという懸念はある。また、信託の決済タイミング(預託額残高差分の受渡)がT+2になっているので、その分のブレはリスクだ。現在どの業者もこの2日分の時間差リスクを埋めるべく実預託額に1%程度を加算して余分に信託しているが、それ以上の市場変動があって結果的に業者が破たんして客のポジションを強制的に手仕舞った結果計算される実預託額の不足分を支払えなくなるということを考えるのだろうが、そういう時の手仕舞いの約定は客のポジションに1対1で当てられる前提があるなら、そういうことは起きづらい。むしろそれは客の取引口座における実損(業者の未収金)の形として出てくると思われる。そうなるとそれは資本科目に落ちるべき「市場リスク」による損失が「与信リスク(決済リスク)」の損失として負債科目に置換(転嫁)されたことになる。例外というかまれなケースとして客のカバーをほとんどしていない状態で破たんすると、それは客が儲かっている状態であり、客の実現益分の金がどこからも得られず(カバーしていないのでLPから実現益がもらえない)、かつその分を客に自己資金から払えないとき、業者は破たんする。この時、客は計算上の利益を取り損ねるリスクがある。


4.まとめ


 レバ規制を強化するという考え方は、それがいいとか悪いという前に、どうやってそのコントロールをするかというモデルをこのタイミングで整理してよりコントロールしやすい形に変え、市場の動きや取り巻く環境に合わせてダイナミックにパラメータを変えられる体制に変えるほうがよいと思う。またそのモデルに対する市場や業界のコンセンサスをとるということが行われることが前提になる。さらにそのモデルがシステム的に、かつ実践的に見て合理的で矛盾なく、変更されるパラメータに客観性や透明性があればなおいい。その方が個人投資家の理解も得やすい。そうでないと業者は顧客の手前従いづらい。現在の法人レバ規制はその趣旨には沿っている。これを個人口座に展開しない手はないと思っている。法人と個人であえて差別化したいなら協会が公開する掛け目に調整係数を適応すればいい。要するに法人は50倍だが、個人はその半分の25倍とかにする。

個人のレバ規制が変わるなら当然法人のそれも変わることになると想定する。今ある法人のレバ規制は観察期間のデータから導く99%の最大値をとっているがそこにさらなる加工はない。結果現在おおむね図ったかのように50倍あたりで落ち着いている。これと同じモデルで個人のレバを定義し、かつ10倍程度に抑えるという話になると、合理性とか論理性とかが消えうせる。せっかくのわかりやすいモデルなのだからこれは維持して、この協会が公開する倍率の50%が法人のレバ最大で、個人は30%とするとかのやり方がきれいに見えるが、そうするとその掛け目%のディスカウントぶりが目立つのでいやかもしれない。私としてはそんなこと気にせず合理性と論理性を重んじればいいと思う。私が規制側で、「なぜ個人口座は7割引の30%なのですか」と聞かれたら、「それが『保護』の意義であり数字化した価値だ」と答えるだろう。

レバ規制を強化するという考えには必ずレバ規制を緩めるという機能が付随していなくてはならないと私は考える。それと業者としてのコンプラ上の規制は別である。それをきつくするとか緩めるということとは次元が違う。繰り返すがレバ規制にある判断基準は「適切かどうか」だけである。相場変動リスクは常に上がったり下がったりする。リスクが上がると判断したときだけ締めて、下がるときは緩めないというのではおかしい。そういう意味で私は上段で「コントロールしやすいモデルに変え・・・」と言っている。

「突然ですが、最近の市場を取り巻く環境を鑑み相場のかく乱リスクが高まっていると判断し、来週からドル円の証拠金を現行の4%から6%に引き上げます」という類の御触れをこの国ではまだ見たことはい。しかしあってもおかしくない、いやあるべきだろうというのは私の願いでもある。大方の業者の約款にはそれができるようになっているだろうが、したことはない。つまり「伝家の宝刀」である。抜かないと錆びる。今錆び付いている状態だろう。動的なコントロールこそがリスク管理だし、その旗振り役(コントローラー)は誰か一人の方がいい。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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