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尾関高のFXダイアリー

[第240回] ダークプール(ミッドポイントマッチング)の仕組みと利用法:パート3

【232回】ダークプール(ミッドポイントマッチング)の仕組みと利用法:パート1 はこちら


4.注文として


通常のLPカバーで使うオーダールーティングに埋め込みたいときに使える(かもしれない)例について。

既存のオーダール−ティングにあまり手を入れたくないという理由から、外部マリーとしての扱いではなく、あくまでも外部LPカバーの一部として扱うことを考える。したがってルーティング対象にはLPが出すレートのBBOが比較対象に入ってくる。むろんそのためには、この市場からMarket Data APIで ベンチマークをリアルタイムで配信してもらえる前提とする。

そのベンチマークとLPのレートから抽出するBBOのBBO.BidとBBO.Offerを比べる。例えば自分が今100万ドル売りたいというとき、BBO.Bidとベンチマークを比較する。ベンチマークのほうが良ければ(たいていそうなのだが)ミッドポイントマッチング市場を1LPとみたてて発注する。この時、BBO.Midをworst acceptable priceとして発注メッセージに埋め込めるダークプールもある(※)。あればそれをすることで余計な機会損失を食い止める。発注するときの注文価格に相当するタグ情報は入れないように指示されるか、入れてもいいが無視されるかである。ただしそれ例外のorderType等のタグでmid-pointであることが定義されているはずなので矛盾しない。

※あるいは、そのレートかそれよりベターでという条件タグがある場合、そこに比較した時のレートを書き込むことで最悪でもそのレートで約定することを守れる


以上は一つの例であり市場によって仕様はまちまちである。あとは何秒間そこにさらせるかになるが、その市場のマッチングエンジンの処理頻度が100ミリ秒ごとであれば、それ以上は置いておかないと一回もマッチされずにキャンセルすることになりそれでは意味がない。そのマッチングサイクルは市場ごとに違うのでルーティングを個別に調整する必要がある。早いところはミリ秒単とかマイクロ秒単位とかありそうな時代になっているのでそのつもりで仕様を調べる。さらにそういう市場はNYにあることが多いのでどうしても地理的レイテンシーを考慮する必要が出てくる。仮にNYで片道150ミリ秒とした場合往復300ミリで、場にさらす時間が2秒であれば、発注してから2.3秒は待ってやらないといけない。そんなに待っていられないということであればあきらめるより仕方がないが、その前によくよく考えてみよう。

以上の方法だと若干長めの結果を待つ「時間」というリスクを受容する限り、既存のオーダールーティングに乗せられる。さらにマッチング方式はおおむねIOCであるが最近はFOKも受け入れるところが増えたようである。新たにルーティングを書くのであればIOCが使えるようにすることをお勧めする。FOKは約定価格としては不利になるのは説明するまでもないだろう。
若干長めの時間を待つリスクは全く待たない場合に比べて一日を通しての損益のプロファイルに意義ある(悪)影響がでるかという疑問に対して、私は出ない前提で考えている。サンプル母数が多い前提であればスリッページも正規分布するという仮説を前提にしているからである。内部マリーはいつまでも待つがLPカバーは待てない。それはわかるが、内部マリーで待てるなら、外部マリーでも待てるはずである。ただし、急激に相場が一方向に走り出しているときは別の話になる。相場に方向感なく揺らいでいるときこそダークの力が発揮される。プールによっては秒単位のボラティリティが一定のレベルを超えると、ダークに発注するのを自動停止するというフィーチャーを導入しているところもあるが、それぐらいは自前でも開発は簡単にできる。


5. まとめ


ミッドポイントで当たる相手を互いに待ちながらマッチングする場を利用する者の心得としては、


(1)さらしたそれは慌ててヘッジするポジション(注文数量とサイド)ではない。

(2)今の水準であれば0.1〜0.2ピップスぐらい想定と違ってもがたがた言わない、そんなのは内部マリーで普通に起きている。マリーにおいて勝負は一日かけて決まる。

(3)大事なのはネットポジション最大閾値をある程度広げながらも(つまりリスクアペタイトを今より少し引き上げながらも)、それを凌駕するディーリング収益の増加を狙うべく外部マリーという追加のプールでかつ入場料がLPカバーに比べて半額で済む場所で泳ぐ、という方針あってのこのモデルである。

(4)さらには、0.1秒だけ待ってヘッジをし続けたときのスリッページの有利不利の比率と、最大3秒待つ条件でこの場にさらしたときの発注時点のベンチマークとマッチングした約定価格としてのベンチマークを比較して見えるスリッページの有利不利の事象発現比率(あるいは標準偏差)は変わらないという統計的データを感覚的に納得できること。

(5)最後に、ダークの約定はリット、つまり相場そのものに影響を与えないということの価値を最大評価できること。大量に連続的にカバーを投げる業者はこのマーケットインパクトが邪魔になる。何とかそれを避けたいという思いが出てくる。ダークプールはまさにそういう人のためにある。


以上の心得をもって臨めば、3秒や5秒さらすことに抵抗感は生まれない。内部マリーの平均ポジション生存期間が10秒であれば、それと同じ時間晒しても「マリー」というモデルの一部として扱う限りは運用方針上も、理論上も矛盾しない。あとはそれを行うことで取引コストがLPカバーの半分で済む効果との比較評価である。まずは自分の内部マリーで何が起きていて、どういうリスクを自分は抱えているのかを客観的に分析するのもよいことだと思う。例えば内部マリーが平均的にどれくらいの時間をかけてぶつかり合っているか。FIFOを前提とするが、それによりどれくらいの比率で利益と損失のパターンに分かれるか。


6.例外


上段でも少し触れたが、このダークを使わないほうがいい時がある。それは想像通り、市場が異常に荒れているときで、リットプールに人がいなくなる時である。「異常」をどう定義するかも別の議論が必要だが、とりあえずここでは所与として考える。そのときはダークもおおよそいなくなる。だったらそこにいると見える以上、リットプールでヘッジに行くほうがまだ安心だということになるので、そっちを優先することになる。平たく言えば、明確なモメンタムが自分に不利な方向に強く出ているときで、そのポジションを抱えていたくないとき、悠長にダークにおいておく暇はなく、そういう場合は速やかにリットでLPカバーに行くと考えるのが一般的である。しかし、実際そういうときでも実需系のオーダーが相場の方向に逆らう形で逃げずに居座っていることもある。それがあるときはおいしい約定が手に入ったりもする。例えば実需で海外の企業を買収するための資金調達のドル買いインタレストが自分の参加するダークプールに入っていたときに一気にドル売りのモメンタムが生まれて相場が急落し始めているとき、リットのマーケットメイカーはビッドを大きく引いたリ、消したりしているのに、このダークだけしつこくベンチマークが下がるに従いTWAPやVWAPが自動継続していて買いを入れ続けてくれているかもしれない。要するに試してみるべきなのである。怖ければ、自分のリットのベストプライスを“最悪でもこのレートまで”という条件を付けて発注すれば予測を超えたレートで約定はしない。


7.ヘッジ市場のポートフォリオ


収益性にばかり目が行きがちだが、経営者・リスク管理部目線で見れば複数のヘッジ市場を持つことで、自社のNOPを一定にコントロールしながら、収益性を上げるという効果が期待できる。

「同じ市場リスク、もしくはより小さい市場リスクでより高い収益が得られる方法」

を経営者としては望むという大前提のもとにこうしたアプローチがある。したがってリスクは取り放題という業者にとってはあまり価値が見いだせないやり方でもあるし、逆に一切リスクを取らないAブック原則の業者にはこのモデルの適用ができない。

1日のNOPを秒単位、あるいは分単位で記録した数値(絶対値)を合計した値はリスクの総額(リスクの時間的積分値)としてとらえられる。それを分母としてその日のディーリング収益を割ったとき、仮に同じ収益だった業者AとBで、Aの数値のほうがBよりも大きければ、Aのほうが優秀なディーリング(ヘッジング)をしたと評価できる。つまりより少ないリスクテイクで同じ収益を上げた。そういう評価には向いている手法である。



この評価モデルに対して、内部マリーと外部マリーと外部カバーという3つのヘッジ市場をSORしながらネットポジションを一定量に保つモデルは私の中では今取りうるベストな「ヘッジ市場ポートフォリオ」である。あとは、そのモデルに厚みを加えてゆく。LPカバーにおいてLP数を10行以上抱えるのと同じく、ダークも複数抱えて最良執行を目標に少しでも近づけるよう最適化してゆく。こういう複数ダークをSORに組み込むという例はFX業界ではまだ聞いたことはない。一つのダークを追加したという例もまだである。

複数のダークがベンチマークを出してくれればベストを探すことは容易になる。問題はそこに反対側のインタレストがあるかどうかになる。そしてポジションとしてさらし続けるのなら関係ないが、注文として扱いたい場合は、相手が来るまで何秒待つのが最適な時間的リスクテイクなのかを評価判断するモデルをどう作るかが腕の見せ所になる。少なくとも近年のFX業者にとって、特に取扱高の多い業者にとってはそのヘッジの効率が大きな課題になっているはずである。その場合、

如何にポジションをコントロールしながらディーリング効率を上げるか


というテーマは共通した価値観だろう。その前提で考えられるのは、

◎いかにしてヘッジコストの低いプールとつなぐか(市場戦略)
◎それらを統合した複合ヘッジプールにおいて、いかにしてより有利なレートを叩くか(SOR)
◎自分が持つべき最大ポジションはいくらであるかをどう算出するか(ポジションの最適化)
◎ヘッジを実施するタイミングを同モデル化するか(タイミングの最適化)

といった目線だろうか。今回のテーマはこれらにたいして一定の解を提供するはずである。

数年後、この業界でダークプールを使っていることが当たり前になると私は確信している。

(終)


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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