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尾関高のFXダイアリー

[第237回] 仮想通貨と集中決済


 法的にどう解釈されようと仮想通貨売買もまた金融取引であることに変わりはない。これは最近のフラッシュクラッシュや、ハードフォークの問題を乗り越えながらだんだんと市民権を得ていくものなのだろうとは思うが、それにしてもいまだ混とんとしているように見える。


 さて、分散型私設市場(De-centralized exchanges)がいくつもいくつも立ち上がり、日本ではすでに10社以上が立ち上がっているわけだが、そうなると彼らが共有できる利害については一致団結して一様性を求めて協業する流れが生まれてくることを望むばかりである。個人投資家向けサービスはいろんな意味でそうしたほうがいい。では、その流れで一番大切なのは何か。それはやはり、決済だろう。
 各社個別に決済をやっている今は、透明性の欠如、個別に独立した信用(投資家にとっての取引先リスク)、未成熟な流動性といった点が気になっている。やがてこれは、集中決済の出番がくるなと思っている。店頭FXにおいてもそういう議論はいまだにあちらこちらで勉強会的な動きがあるようだがあまり進んでいる感じがしない。FXについては別にしてほしいとも思わない(理由はまた別の機会に)が、仮想通貨についてはしてもいいかもしれない。

なぜなら
(1)仮想通貨取引所(両替含む)は金商法の登録業者ではない
(2)各取引所単位では流動性が小さすぎる、信用力や与信能力が低い
(3)国際的な市場間クロス決済は世の取引所の流れであり、国に縛られない仮想通貨だからこそそうあるべきではないだろうか

という理由や思いがあるからである。


現在の改正資金決済法規制下でやっている限り私から見れば“緩い”規律の中でやっているように見える。私の目に多少バイアスがかかっているかもしれないが、いまだに私はなぜ仮想通貨を準通貨と認めて金商法に入れてくれないのかが理解できない。法定通貨と非法定通貨という区分けはできる。あるいは、通貨でなくてもいい。“金融商品”であればいい。英国では仮想通貨の差金決済はCFDの一つとして認められ、他のCFD同様に規制されている。日本においてもエネルギーや貴金属といったコモディティのCFDはすでに金商登録業者において取引されている。原資産が金融商品でなくても差金決済取引となった時点で金融デリバティブである。これは国際的な共通認識である“はず”である。極論すれば大根ですらその客観性のある指標価格が継続的かつ安定的にリットプール化し、それを差金決済取引するならばそれは金融商品たりえる。では、なぜこの仮想通貨だけが金融商品でもなくコモディティでもないのか。なぜその指数取引が金融デリバティブ商品の対象にならないのか。なぜそういう解釈に動かないのか、私のような末端の者には理解できない。たぶん私の知りえない特殊な問題があるのだろうと慮るのみである。

私の結論として、両替行為は資金決済法で、差金決済は金商法で規制すればいいと思っている(たぶん異論が出てくると思うが、まさにそこを知りたいという気持ちである)。さらに仮想通貨の証拠金取引を現行の金商法に含めるにあたって法の条文を変える必要もないと思っている。これだけの流動性の少なさ、システムの脆弱性等によるボラティリティの高さを考えればレバレッジ20倍や30倍で取引することの恐ろしさをもっと重く認識すべきであり、被害者が出る前にレバ規制は始めたほうがいい。私の眼には、問題はそれをする個人投資家ではなく、むしろそのあおりを食らい未収金を焦げ付かせるリスクを背負う取引所側である。取引所を守ることはそこにいる個人投資家を守ることでもある。


店頭外為証拠金取引は法令上第2条の22項第1号が適用されている前提である。22項では、「店頭デリバティブ取引とは」と定義してくれている。ちなみに本文で使っている「市場」は取引所を指していると思って読んだ方が、頭はこんがらがらない。


法第2条22項第1号
『この法律において「店頭デリバティブ取引」とは、金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う次に掲げる取引(その内容等を勘案し、公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)をいう。
一  売買の当事者が将来の一定の時期において金融商品(第二十四項第三号の二及び第五号に掲げるものを除く。第三号及び第六号において同じ。)及びその対価の授受を約する売買であつて、当該売買の目的となつている金融商品の売戻し又は買戻しその他政令で定める行為をしたときは差金の授受によつて決済することができる取引』

さらにここでの差金決済について、施行令第1条の16に続く。


『(差金決済の原因となる行為)
第一条の十六  法第二条第二十二項第一号 に規定する政令で定める行為は、金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで、将来の一定の時期において金融商品(同条第二十四項第三号の二 及び第五号 に掲げるものを除く。)及びその対価の授受を約する売買に関し、当該売買の当事者がその売買契約を解除する行為とする。』

第二十四項第三号の二
三の二  商品(商品先物取引法 (昭和二十五年法律第二百三十九号)第二条第一項 に規定する商品のうち、法令の規定に基づく当該商品の価格の安定に関する措置の有無その他当該商品の価格形成及び需給の状況を勘案し、当該商品に係る市場デリバティブ取引により当該商品の適切な価格形成が阻害されるおそれがなく、かつ、取引所金融商品市場において当該商品に係る市場デリバティブ取引が行われることが国民経済上有益であるものとして政令で定めるものをいう。以下同じ。)

五  第一号若しくは第二号に掲げるもの又は前号に掲げるもののうち内閣府令で定めるものについて、金融商品取引所が、市場デリバティブ取引を円滑化するため、利率、償還期限その他の条件を標準化して設定した標準物

一方多くの取引所が併設する両替所は現物取引である。これは英国では誰でもできる。ライセンスがいらない。両替所は、現物取引であり、レバレッジはかけない。むろん差金決済もしない。現在、資金決済法だけで仮想通貨の両替とCFDの両方を面倒見ているとは思えず、実質CFD側は無法状態にしか見えてないのが一番気になる。また、それらを同じ「取引所」と称する事業者が運営していることも違和感を覚えてしまう。しかしこれは世界的に見て普遍化しているので自分が馴染むしかない。

仕様の目線でいえば、彼らの取引所というサービスはオークション方式のマッチングエンジンを使っている商品であり、両替所と称しているサービスはOTCのマーケットメイキングである。どっちでやっても客の決済相手はその取引所である。そしてこの両替所のサービスを証拠金ベースでレバレッジをかけて、差金決済ルールで取引するのが仮想通貨CFD、あるいは仮想通貨証拠金取引である。


 金商法のもと、かかる規制を遵守しコンプライアンス体制を確立してきている既存のFX業者のほうが新興の仮想通貨取引所よりも信用度は高いと思う。またシステム運用体制や経験値においてもFX業者のほうが一日の長がある。むろんそうしたFX業者をもつ親会社が仮想通貨取引所を始める例もあるからそれはそれでいいが、そうではない異業種から参入してくる場合、やはり心配になる。
 取引所の取引画面を見ても心配になる画面が結構多い。金融の取引がどういうお約束で出来上がっているかについての知識が全然ないまま作った感じがするものもある。FXにおいてすらそう感じる画面に出会うことはあるが、仮想通貨の畑においてはその比ではない。べつにそんなお約束など知ったことかと言われればそれまでだが、その程度の学習や研究もしないまま作ってリリースする“感覚”というものに私は十分な信用を置きづらいというだけの話である(“だけ”とは言いながら明らかに気にしているけれど)。


 さて、決済の話。アメリカ、欧州、中国、韓国、日本が仮想通貨売買の中心であるという認識に立って、最近は、欧米の仮想通貨ファンド、仮想通貨取引所、仮想通貨OTCマーケットメイカーといった人たちが足しげく中国、韓国そして日本を訪問しているようである。彼らの目的は、裁定の働かない歪んだマーケットの鞘をとるということ、FXに代表されるアジア人の投機熱を自分の財布に入れたいということ、そのためには各国の取引所の裏側に回って流動性を提供したいということ、またそれ以外のシステムオリエンテッドな様々なサービスを提供したいということだろうと思う。


 OTCマーケットメイカーは世界の各取引所が出しているレートをモニタリングしている。そしてそこに歪みがあることを当然感知している。しかしその歪み(フリーランチ)を取りに行くためには、その国で会社を設立し、その国の銀行に決済口座を開設し、時にその国の規制当局と話をし、該当する法令順守の手続きを踏み、といった手順に手間暇がかかるという問題と、実際に始まったときのセトルメントのタイミングにかかる決済リスクをどうするかといった問題が壁になって意外と時間がかかっている。そのためいまだに取引所間の逆ザヤ現象がときどき起きていることはマニアな方ならお気づきだろう。しばらくこの現象は続きそうなので個人投資家レベルでならアビトラし放題(?)である。
 ちなみに、流動性の高低はスプレッドに現れる。最近ETHを買ってみようかと思ってあちこち見たが、スプレッドは約22%(25000-20,000といった感じ)であった。ドル円のスプレッド比率は0.0026%ぐらいである。とあるホワイトペーパーを読んでいると、そこでの試算・評価として、ボラティリティもまた、流動性が高いFXに比べれば100倍から1000倍に達し、取引コストとしては25倍以上、さらにクロス仮想通貨取引(例:BTC↔ETH)のコストはそれ以上であると言っている。流動性の高低がいかにスプレッド(取引コスト)に影響を与えるかがわかって興味深い。むろん流動性だけがこのワイドすぎるスプレッドの原因ではないだろうが。


 彼らが言うには、アジア進出の拠点として中国(香港)、韓国、日本のどこにするべきかを考えるとやはり日本がいい。なぜなら第一に法規制が安定しているからという。これがこの国バリューなのだと感じさせられる。これは金融庁の不断の努力によるものと(私ごときではあるが)敬意を表したい。次の理由が、今は韓国の取引高に目が行くが将来を考えるとやはり日本のほうが安定的に高い取引高が期待できる。中国は言うまでもなく政治的、ビジネス的リスクがともに高い。焦りのないまともな会社は大体そういう見方をする。若く、勢い付いている会社は、とりあえず目先は韓国かと考えるかもしれない。
 
 国際的なマーケットメイカーが世界中の私設取引所を相手にアビトラをするようになれば、気配の逆ザヤはなくなる。その時彼らが直面するのは多数の取引所を相手に膨大な決済を違う時間帯、違う通貨、違う国で行わなくてはならなくなることである。そうなるとせめて国単位で集中決済してくれる方が、与信管理、時間管理、決済の資金管理が一元化されて楽になる。楽になるということはリスクが低くなるということでもある。そしてそれはOTCメイカーのためだけでなく、国内のみならず海外の取引所と連携する以上、取引所自身にとってもメリットになる。ただし応分のコスト負担は発生する。そしてそのコストはやがて取引をする個人投資家に手数料として跳ね返ることになる。結局のところ安全や効率はただではないということである。私はそうなって初めてこの商品が成人になったと受け止められる。今回はハードフォークを見送ったが、永遠にこのままであるはずもなく、今後どうやって同じ問題をクリアしていくか、上述の集中決済についてどうしていくのかといった方針とか、基本合意が見えてくると、私としても一個人として、より信頼できる市場として向かい合うことができる。ちなみに私は仮想通貨の投機取引は学習のための取引以外するつもりはない。ただ、将来安全で安価な海外送金手段として確立されたら当然使うだろう。送金する用事があればだが。ああ、そうそうあとICOも将来性を感じる。勉強して追いかけなくてはならないことがたくさんある。


おさらい
市場分散化Market/exchange Decentralization → 決済集中化Settlement Centralization


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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