[第230回] 2017年はビットコイン実働元年?
今年はあちらこちらからビットコインを取り扱う会社が設立されたり、FX業者がなにがしかビットコインに関連するアナウンスメントをしたりと、関連する活動が一挙に増えてきたのではないだろうか。加えて海外から日本市場を取りに来るような人たちの訪日が増えている気がする。FX業界においても今年は「調査研究」から「投資」への年になるのか。そんな人気が沸騰中のビットコインを中心とした暗号通貨に絡むビジネスとして私の頭にあるモデル(コンテクスト)は、大ざっぱに以下のものがある。
A)新たな取引所を設立したい
B)両替所を開設したい(OTC)
C)CFD化して証拠金取引として個人投資家に提供したい(OTC)
D)ビットコインを証拠金として扱えるようにしたい
E)送金サービスをしたい
F)ブロックチェインを具体的なサービスとして商品化していきたい
●取引所(A)と両替所(B)
取引所(A)はすでにたくさんあるがまだまだ新たに立ち上がってきそうな感じがする。取引所モデル(A)も両替所モデル(B)も使う側から見れば似たようなものだが、前者は証券取引所と同じ仕組みであり、後者は街角や空港の通貨両替所と同じイメージになる。もう少し違いを分かりやすく説明すると、Aは在庫を抱えないがBは在庫を抱える可能性が高い。Aの取引相手はだれかわからないが、Bの取引相手はその店の主人となる。Aは取引手数料を取るが、Bは店先に最初から売値・買値を明示していて、その差額がその店の利益で手数料はない。
●ビットコインCFD取引(C)
この業界においてビットコインCFDをFX取引業者が始めるというのはわかりやすい話である。また、なんだかんだ言っても一番需要がありビジネスとしての具体性があるのはこれである。しかし、この辺の話になると金商法の対応はまだ終わっていないので現在のところは無法地帯とでもいおうか。そのため今のところ金商法上の登録業者はおとなしくして手を出さず、逆に登録していない業者が思い切りやっているように見える。
●ビットコインを証拠金として扱う(D)
ビットコインCFDを扱うとなると、そもそもビットコインを証拠金として受け入れるかとか、デリバリーサービスをしている業者ならビットコインもデリバリーするかとかの議論が生まれる。いったん入金(ビットコインを“入金”とか“出金”と言うこと自体違和感がまだあるけれど)したビットコインを証拠金として扱うのはシステムの中では簡単な拡張作業で対応できるだろう。いったん数字になってしまえばほかの通貨と同じである。しかしひとたび、入金、出金の話になると中身が重くなる。結局これはEにつながる。
●ビットコインを送金する(E)
個人が、証拠金業者でCFDポジションのデリバリーをして証拠金取引口座内で受け取ったビットコインを自分のスマホのウォレットに送る、あるいはビットコインをそのままFX業者の取引口座に送金(送信)する、という場合はFXのシステムにデリバリー機能があることと、ビットコインの「送信受信」を可能とする仕掛け(ウォレット)が必要になる。
システム的に何をすればいいかは大体わかるだろうが、FX業者がこれらのサービスを実現するにはそれ以外の条件整備(ハッキング対策等)やその先の信託保全のスキームも点検が必要になる。むろん法的な問題もクリアされての話である。
業者として一番お手軽なのは、CFDとして取引はするがデリバリーも証拠金としての扱いもしない円決済のみというモデルである。これはレートのマーケットデータだけどこからかもらってこれればそれでOKだし、カバーはそのデータをくれる取引所でやればいい。その場合業者としてのビットコインを扱う仕組みすらもいらない。ただしそれで取引所に勝てるサービスになるかどうかは別の話。取引所も信用取引を提供しているからレバ取引であることに変わりはない。また、レバレッジを何倍にするかの問題もある。
B2B向けビットコインのマーケットメイカーはすでに活躍している。これは世界中のビットコインの取引所でヘッジができる環境を整えればあとは簡単なビジネスモデルである。結果として儲ける力があるかないかが生死の分かれ目になる。それはビットコインに限らない。この手の話になると、中国、ロシアあたりの裏情報に精通している人が得意そうな気がする。まちがってもドメドメな日本人ではない。
●ブロックチェインビジネス(F)
これはFX証拠金業から離れるテーマになるが、一部関係はある。特に可能性を感じるのは、ブロックチェインを利用した法廷帳簿や顧客の報告書の作成と保管である。毎日バッチ処理で法廷帳簿をPDFで作成する作業は昔から無駄だと思っている私にとってはとても面白そうな道具に見えるという話は今までにも何回かしたと思う。帳票を作成する元データの保全性(改ざんリスクがないこと)が保たれるならPDF帳票など不要である。いるときにその帳票作成プログラムを走らせれば済む。日々のバッチ処理がなくなるとシステム障害リスクを大きく減らせる。上記のようなPDF化したファイルよりもこっちのほうが改ざんリスクは小さいと思うが、どうだろう。
ブロックチェイン技術を使った送金サービスは今後爆発的に増えていくだろうからそれを利用しての「通貨」の国内外送金が今より安く、24時間もっとスピーディにできるようになるだろう。そうなると既存の銀行による送金サービスビジネスがとってかわられることになる。それが全銀ネット、日銀ネット、SWIFTといった決済ネットワークとの戦いとなるのか、はたまた協力的融合となるのか。
個人的にはビットコイン等の暗号通貨はやはり通貨として見るよりも、金(キン)同様限りなく通貨に近いコモディティとして扱うほうがしっくりくる。発行国がない、発行額を管理する中央銀行もない(2100万コイン出しきったら供給量はそれで終わりであり、逆にだんだんと減ってゆくはず。なぜなら入れていたパソコンが壊れたとか、入れていたUSBメモリが壊れた、なくしたとか、ハッキングの過程で盗んだ人が使えなくなるとか、失う可能性はいつまでも続く)、金利はない、保管コストはかかる(電気代とパソコン代)、無記名である、誰にでも譲渡可能である、世界的に(ほぼ)いかなる通貨においても交換レートが存在する、つまり世界中で一定の価値が認められている。そういうことを挙げ続けるとどんどん通貨よりも金と似た性格が見える。大きな違いは、採掘量の上限があること、受渡の行為においては金よりも安く早く誰でも、世界中を相手に行えることだろうか。逆に、工業品としての使い道はないし、装飾品としての芸術性もない。
暗号通貨の実態を想像する。私から見ればそれはただの数字であり、テキストである。例えばLINEのメッセージとさほど変わりない。最初に発掘したした人から始まった1コインが誰かれのスマホを渡り歩いて転送につぐ転送を繰り返したメッセージと同じことである。マイナー(miner)Aが発掘した1コインを山田さんのスマホに譲渡するというメッセージが送られ、そこから今度は田中さんのスマホに0.5コインだけ譲渡するというメッセージが送られ・・・という転送の履歴が特殊な方法で暗号化され、世界中の人にCCされている。そういうイメージ。そこにあるのはすべて情報でしかなく実態はない。世界中からパソコンがなくなるとビットコインもなくなる。
ちなみに現在コモディティとした場合、その取引に対して消費税がかかりそうなものだが個人的経験上明示的にとられたことがない。日本は金取引に消費税をかける国であるのだが。早晩こうした矛盾等は関連法の改正が追いついていくことで解消してゆくことになるはず。しかしこの間、事業者はやりたい放題になるので投資する側・使う側は自己責任で用心深くいかないと国は守ってくれない。守る義務がない。いかがわしい投資詐欺もこの暗号通貨を使って暗躍しているからご注意を。
ちなみにビットコインは今年中に80%(1680万コイン)まで採掘されるとう予測が一般的な常識らしい。これがこれからの相場にどういう影響を与えるのだろう。
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