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尾関高のFXダイアリー

[第224回] 10月7日午前8時過ぎのポンドドル8%強の下落

日本時間10月7日午前8時過ぎ、Hard Brexitが示されたとの情報から、1.26あたりでうろついていたGBPUSDが急に売られ始め、最大1.15台まで売られた。海外でも千ポイント(8%)急落により1985年以来の水準になったとして当然ニュースにもなっている。

ザガーディアンのウェブサイト に載っているチャートは1.18までしか示していないが、記事の中では1.15台まで下落していると伝えている。私自身も1.15台の約定は目視しているのでこれは事実である。せいぜい4分程度の間だったが、最大1000ポイント、8%もの下落をしたというのは心やすい話ではない。その後1.24台まで戻したことが余計にこの1.15台の約定の扱いに議論を巻き起こす。そこには流動性とはどうとらえるべきなのかという問も含むし、以下で述べるFX業者の対応の評価基準はどう評価するべきなのかという問も含まれる。



このときの動きはどうであったかをいくつかの日本のFX業者のチャートの高値安値をみて比べて以下の表にした。B,D,Eにおいては急落が始まるとそれから10分前後レート配信が停止していたのだろうか、チャートに窓が開いている。そのためその間の下落の動きが反映されておらず、当日の安値が1.21よりも上の数値で表示されている。配信停止をしていなかった(間引きはあったかもしれないが)と思われるA,Cにおいても分単位で見るとつながっているように見えるが、実は一時的にレートが停止していたのではないかと思えるような安値になっている。



GGは私が得た、市場で実際に約定したレートである。時間は日本時間。
大体想像つくのが、このときのマーケットのスプレッドは1.17-1.21(そしてその直後に1.15-1.18ぐらいへとスライド?)ぐらいのワイドなものになっていただろうことと、少ないサポートプライスにつけ、それぞれが離れた、ワイドなプライスをだしていると、1.17で約定するとその後ろには1.15しかいないということになり、かつロスカットなので「成行き」で売ってくるから2%も下のレートでもシステム的に、自動的に売ってきてしまう。だいたいそういうことが起きていると推測しても問題ないぐらいのわかりやすいデータではないかと思われる。


記事の中でBank of Englandも喚起しているように、

「The Bank of England has previously highlighted the impact of trading algorithms. “Some markets appear to have become more fragile, as evidenced by episodes of short-term volatility and illiquidity over the past couple of years,”」

問題なのは、その直後に1.24台までレートが回復していることである。あたかも1.15台などという水準はバグであったかのような言い訳を助長するような動きである。しかし実際に市場でレート1.15台の取引は行われているのでバグではない。

こういう事象の発生原因は2つの要因がある。一つはメイカー側の問題で、普段流動性を提供しているマーケットメイカーが、ニュースがでた瞬間に一斉にレートを消してしまうか、あるいはとてつもなくワイドなレートを出し始める場合である。そしてもう一つがテイカー側の問題で、そういう人間が判断するならロスカット等の理由で無理して売るのをためらうレートであってもシステムが、アルゴリズムが容赦なく売りを執行してしまう場合である。これら2つの要因が重なると、こういう異常な、約定ベースでの急激変動が起きる。上のチャートだけを見るなら、1.26台から1.23台に下がっただけの動きとしてスムージングしたくなる。そういうことを踏まえて、日本の業者が出していたポンドドルのレートの動きを見てみると、私が見た限りのほとんどの業者は1.20台近辺でレート配信を停止したのだろう。これによって強制ロスカットが1.17や1.15台で執行されるような現象を防いだことになるのだろうか。これが意図的だったかどうか私は知る由もないが、結果として1.20以下の強制ロスカットは発生しなかったのだろう。しかしそれは1.20以下で買おうとした人からそのチャンスを奪うことにもなる。1.17で指値買いを入れていた人からすれば、ロイターやブルームバーグで1.15台までついていたという事実を知れば、なぜ私の指値が約定していないのだという主張もしたくなるところである。こういう相場(“short-term volatility and illiquidity”)の動きの頻度が上がり、かつそれに対してこういう業者の処理の仕方(非相関処理)がある限り、その矛盾を説明するにはまず流動性=サイズ(量)の概念を約定判定の論理モデルの重要なパラメータとして認識しないと話はなかなかきれいにまとまらなくなる。あるいは、そのレートをバグとして排除するときの定義も明確化した運用が求められるかもしれない。そうすることでたとえ外でどれだけスパイクしたレートが取引されようとも、私のお店ではこういうルールに基づいてそれをはみ出たレートはバグとして排除すると言いうようなモデリングは検討に値すると思う。しかしその非相関処理自体業者はそれなりリスクを抱えてのことになる。

ちなみにこの記事のなかで、HSBC Strategist, David Bloomという方が、ポンドは2017年終わりまでに1.10になるであろうと予測しているが、今やだれでもその程度の予測はしているだろう。ポンドドル1.0000、ポンド円100.00といった切りのいいpar price はいつも市場の暇つぶしトークのネタになる。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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