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尾関高のFXダイアリー

[第221回] ロスカット判断する基準は「仲値」か「ビッドアスク」か

評価損益を計算するときにビッドアスク方式を用いることは実際の資産・負債額の計算としては正しい。したがってそれに現金残高や未収未払等の債権債務も相殺した額が「実預託額」として計算され、日々の金銭信託口座との差額のやり取りの計算根拠となる。

「資産」、「負債」額を計算する目的において顧客の評価損益はビッドアスクでこれを行うのが当たり前になっているが、その場合ビッドアスクが極端に開くとどうなるか。例えば、10万ドルの両建てをしている人がいたとして、今ビッドアスクが109.998-110.002 だったときは評価損が400円なのだが、ビッドアスクが突然108.00-112.00になった時は評価損が40万円になる。したがって、後者の場合強制ロスカットになる危険性がある。ポジションはスクエアなのに、である。以前にも提唱したが、こういう事態を避けるには、『強制ロスカットの判断をするための評価損益額計算は仲値を使う』というやりかたが考えられる。

例えば、上の例に現金部分の残高が50万円あったとして、10万ドルのポジションの必要証拠金が45万円だったとしよう。両建てにはMax方式とするので、45万円の必要証拠金がかかる。気配が108.00-112.00の時にビッドアスク方式だと、上述の通り評価損が40万円となる。これが仲値方式だと買いも売りも110.00で評価するのでゼロになる。気配が108.00-112.00の時の状況をまとめると以下のような表になる。



では日締めのタイミングが上記の表のとおりだったらどうなるかと問う人がいるかもしれない。経理処理されるのがビッドアスク方式なので、表の左の数字となり余剰がなく、マイナスである。これだけ見るとこの口座は強制ロスカットされていなくてはならないのになっていないという矛盾が見える。すなわち法令違反にも見える。しかしその隣に仲値方式の情報を併記すればその意味は分かる。そしてロスカットの判断基準は票の右の数字を使うというルールを採用していればそれはそれで通る話であると思っている。

意味は分かってもほっといたことに問題がないか、ということになるが、ここで現実をよく考えてみよう。日締めの時のレートは取引所の清算処理に似て数字を合理的に編集することができる。たとえ上のような108.00-112.00という途方もない気配で終わったとしても、それを妥当な水準に編集することが可能である。

ちなみに取引所の清算レートはそもそも一本値である。

またもっと言えばそういう恐ろしくスプレッドがワイドな状態で市場がクローズの時間を迎える可能性は、〇〇ショックが起きる頻度未満である。少なくとも私の経験ニューヨーク同時多発テロ以外起きていない。

スイスショックの時のような超ワイドなスプレッドは逆に現実的な気配ではないのでそれをロスカット判断に使うのもどうかと思う。広がりすぎたスプレッドは必ず時間の経過とともに縮小・収斂する。

最後にこれが一番議論を呼ぶところだろうが、「強制ロスカット」を発動する基準が常に対顧客の「実預託額」計算の式と同じものを使わなくてはならない、というルールはない。

こうした証拠金管理上の課題・問題まで含めたうえでの「合理的モデル」はもっと柔軟に対応してもいいのではないかという提案である。

普段、業者があえてカバー側のベストスプレッドよりも狭いスプレッドを客に出しているとしても、いざ市場(CP)がリスクに耐えられなくなって大きくそのスプレッドをワイドにしだすと、途端にそれ同等かそれ以上にスプレッドをワイドにするようなオーバーラン的な振舞いがあるとした場合で、顧客配信レートをワイドにしたことにより大量の強制ロスカットが発生したとき、本来ならそのスプレッドの変更の根拠と妥当性もレートの水準の妥当性と同等に追求されるべきなのだが、もしそれがされた場合その追求にどれだけ耐えられるだろうかとふと疑問に思う。

実際、ビッドアスクで評価損益計算をし、それを加算した純資産を対象にロスカット判断をするという仕様を用いる限り、業者はそのスプレッドコントロールにおいては抑制的でなくてはならない。CPのレートから作成されるベストスプレッドに左右少しだけサヤを乗せたレートで出しているなら、その責任を全部CPにかぶせることができそうだが、過去の例をみてもそれだけで済むわけではない。異常なまでにスプレッドが広がったとき強制ロスカットになっても、「仕方がない。それが事実です」という対応ができるのは取引所だけで、店頭の場合大方修正を施している。その修正作業たるや業者スタッフは徹夜で対応し、客はストレスを募らせるだけで誰も得をしない。さらに修正方針に対して誰もが納得する手段はない。買った側がうれしいと思うことは、売った側にとってはうれしくないものである。だったら最初からそういう事象が起きにくいモデルを合理的に構築することは両者にとって利が大きいと思う。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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