[第220回] マネーショート (原題:The Big Short)
若干ネタバレになってしまうので知りたくない人は読まないでください。
六本木の映画館で「マネーショート」を見た。同時上映で「ブリザード」をやっていた。そっちは満席だったがこっちは80%ぐらいだろうか。お堅いテーマの割にはよく入ってるな、と思いつつ中に入った。
いわゆるリーマンショックが起きた原因を奇麗に説明してくれる映画だが、最初”Money short”というタイトルに違和感があった。しかし、原題が”The Big Short”とわかって納得がいった。配給会社には失礼だが、”The Big Short” を”Money Short”という邦題に訳したのはどうかと思う。Money shortだとなんとなく「お金が足りない」と言っているように感じられるのだが、The Big Shortなら「大暴落」とか「すさまじい売り」という意味にとれるのでリーマンショックのイメージとよく合う。ちなみに原作のタイトルはストレートな訳で「世紀の空売り」だ。ついでながら、Shortという言葉には、「短い」、「足りない」という意味だけでなく、金融で用いる場合、「売り持ち」「空売り」という意味がある。
映画の中でMBS, CDS, CDOといった専門用語が繰り返し出てくるが、これらも面白く例え話を使って説明が入っている。悪者扱いされるMBSをCDSによってショートする(実際にはオプションの売る権利を買っている)理屈がうまく説明されているようにも思えるが、はたしてどれほど理解されるだろう。この辺は一般の人にはかなり難解かもしれない。
リーマンショックについては2009年5月12日のコラムでも触れている。リーマンのCEOだったリチャードファルド氏の公聴会での発言を紹介している。彼は「そこにあるリスクに気づきながらも当時(私に)何が言えただろう」とつぶやくように繰り返す。自分の船が氷山に向かって進んでいるかもしれないと気づきながらも、その船が巨大であるがゆえに、どうすることもできなかったという言い訳にも聞こえる。いつか崩壊すると気づきながら、その引鉄を自分が引くのは誰でもためらう。それは大企業のCEOでも例外ではない。そんな時果敢にその虚像に挑戦するのは常に権威と対峙する少数の輩である。だからと言って彼らは船を、乗客を救うわけではない。むしろ氷山にとっととぶつけに行っているというか、ぶつかることを想定して先に救命ボートに乗り込んでいるだけなのだが、それをこの映画はよく描いている。皮肉なのは見ていた映画館の隣に映画に出てくる実際の米系、英系銀行の日本支店があることだった。
S&P(ムーディーズだったかな?)に出向いて「屑同然の証券(MBS)をラッピングした証券(CDO)に混ぜてAAAを付けていることをわかっているのか、正気か?!」「実際の債務者の多くは無収入ばかりなんだぞ(私の意訳)」と詰め寄るところは見ているこっちもかなり興奮する。個人的な印象だが、本来信頼の源泉となるべき格付け機関がずさんな格付けを行っていた事実と、それが指摘されたときに「あくまでも民間企業の評価」でありこれはある種の「意見表明」であると言い逃れをするのを聞くにつけ、そんな評価に金を払う価値があるのかと今でも思うし、そんな“私的見解”(彼ら本人が言ったのである)をよりどころにして価格形成の基準にする危うさというものをこの金融システム全体に感じざるを得ない。特にCDSのような企業の倒産リスクを数値化し、そして価格を形成する過程においてはその客観性とか妥当性がどれほど担保されうるのかと疑問に思うほうが自然な気がする。ちなみに、FX業者が行う取引先リスクの計算には「格付けのある金融機関かどうか」で、その掛け目は0%から25%まで違う。そう金商法(内閣府令含む)で定められている。実際格付けがなくても優良な金融機関もあるだろうし、格付けがあっても危ないところもある。1997年に破たんした山一証券も最終的には投資不適格レベルまで下がったとはいえ当然格付けはあった。
このCDSはリーマンショックで消えたわけではない。今でも取引は続いている。新たな与信リスク管理手法であるCVA(Credit Valuation Adjustment)の中でもCDSは利用される。新たなカウンターパーティリスク管理手法もしょせんCDSを利用したものであるならば、CVAの効果や如何に。その商品の中身が透明で、価格形成プロセスさえ適正であれば問題ないという声も聞こえるが、いったい誰がそれを適正だと評価できるのか。そもそも「適正」って何だ?リーマンショックで捕まった連中も、ロンドンのライボー操作疑惑で捕まった連中も100%納得がいっていない部分はそういうところじゃないかと思う。
▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
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