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尾関高のFXダイアリー

[第219回] 金融庁、仮想通貨を「貨幣」認定

こんな記事を見かけた。


2016/2/24 2:00日本経済新聞 電子版
『金融庁が国内で初めて導入する仮想通貨の法規制案が23日わかった。今までは仮想通貨を単なる「モノ」と見なしたが、法改正で「貨幣の機能」を持つと認定することで、決済手段や法定通貨との交換に使えると正式に位置づける。仮想通貨の取引所は登録制とし、金融庁が監督官庁になって、仮想通貨の取引や技術の発展に目を光らせる。(以下省略)』

「仮想」ということばがよくないなと思っている。本来「仮想」とは“実際には存在しない”という意味がある。英語ではVirtual となるが、仮想通貨の英語はCrypto currencyであって、cryptoは“暗号”を意味する。どうせ呼ぶなら「暗号通貨」と呼んだ方が実態をイメージしやすい。

さらに、一般の我々が通貨として認識する物は、「中央銀行」が発行し、一定の「国家」の管理のもとに流通するが、暗号通貨を管理する主体もなく、発行するのは「中央銀行」ではなく「マイナー(miner)」と呼ばれる発掘者なので、そういう意味で言えば「無国籍通貨」とも呼べる。さらに、国家が発行する通貨は中央銀行によってその流通量をコントロールし、物価の調整を行う機能があるが、暗号通貨にそれはない。そもそも発行量は有限であり、そういう概念が当てはまらない。


金融庁がこれを通貨として扱うと決めたのは、そうでもしないと野放図に乱用され社会不安の原因にもなりかねないと危惧したからであろう。マネーロンダリングの懸念などまさにその一例である。そうなるとモノなら経産省をイメージはするとはいえ、やはり金融寄りなモノだから「金(キン)」と類似した通貨として扱うほうが規制のしやすさからいって妥当という判断はうなずける。

欧米の金融機関は積極的にこの暗号通貨をうまく利用しようと、その可能性を追求している。今まで国際的な銀行間決済といえば、スイフト(SWIFT)やターゲット(TARGET)が牙城を築いていたが、これからはこうしたP2Pと暗号技術をベースとした国際間決済サービスが今までのそれよりも安価にかつ安全にできるようになることが期待される。最近は“フィンテック”というキーワードが先走っている感があるが、その概念の中にもこの暗号通貨は入っている。日本のメガバンクもすでにこの暗号通貨の可能性を調査検証するフォーラムやコンソーシアムに参加していることはよくフォレックスマグネイトでも記事になっているのでご存知の方も多いだろう。


例えば今メガバンクの口座から海外に送金しようとすると、ネットでできるだろうか。私は、今どうかは知らないが、私の少々古い経験からすると、銀行の2階に行って、やたらと書類を書いて、一時間ぐらいかけて送金を行い、挙句の果てに3000円とか5000円の手数料を支払っていた。一方、私がアメリカにいたときに日本の銀行にチェース銀行から送金するときは、ウェブ上で、SWIFTコードと支店名と住所、そして自分の口座番号をいれるだけで送金できた。手数料は確か13ドルだったと思う。こうした手間や手数料がより短く、簡単で安くなるのならそれは消費者としてはありがたい。それとビットコインに代表される仮想通貨の売買とは切り離して考えるほうが良いと思う。

投機対象となっているビットコイン等の「仮想通貨」は、あたかも中国マネーの独壇場かと思わせるような情報ばかりが耳に入る。チャイナマネーが金を大量に買っているという噂と同列に、チャイナマネーがビットコインを大量に買っているとか、マイナーの大手は中国本土にあるとか、最近は彼らが撤退しつつあるとかの情報は、この通貨を扱う気持ちを萎えさせる。というか、最初からあまり手を出したいとは思っていないが。

それでも食わずに批判も分析もできないと思い、私なりにかなりやってみた。実験対象としてBTCBOXとBitwalletを使ってみた。最初は3つの確認をとるのに10分ぐらいということだったのがあれよあれよという間に2時間以上かかるようになってしまった。噂によるとそろそろマイニングの報酬の半減期を迎えたそうで、これからは同じ労力をかけてもマイナーが手にする報酬は今までの半分以下になっていく。そうなると大手のマイナーが撤退するのもわかるし、確認時間が長くなるのもわかる。今すぐ送金する必要性の高い取引には対応しきれるものでもない。あるいはそれは私が使っているBitwalletに限ったことなのだろうか。

ビットコインで海外のサイトで買い物をしたとき、ビットコイン建ての金額が指定されメールが飛んでくる。QRコード付きの請求書みたいなものである。それをカメラで読み取ってBitwalletから送金する。その間もビットコインの対ドル相場は動いているので15分しか待ってくれない。その間に送金は完了できるが、3つの確認をとるまでに2時間かかる。それでも相手のお店が待ってくれればとりあえずは取引成立になるが、その分お店側はリスクを背負うことになる。
結局ビットコインで売る側もその商品の仕入れはドルでやっていると利益率を確保するには「価格は3ビットコイン」として固定することができない。裏側には必ず3ビットコインx400ドル=1200ドルが本来の固定された売値だということが透けて見える。そのためにあえてドルではなくビットコインで売買するメリットはクレジットカードに比べて何があるかと考える。まず思いつくのは匿名性、クレジットカードの情報が盗まれるというリスクがないこと。それくらい。手数料的にははっきりとビットコインのほうが安いという感じはしていない。ビットコインに交換する取引所に円を送金するときに銀行に送金手数料は取られる。ビットコインに交換するときのスプレッドもコストである。また、余った円を銀行に戻すときに銀行と同等の手数料がとられる。それらもろもろ合わせてもそれほど手数料についてはインパクトを感じない。ただし銀行経由で海外送金となると上述のような手数料がいまだに取られているなら「インパクトあり」である。クレジットカードもまれに情報が盗まれることがあるが、一応カード会社が補償してくれるという安心感はある。

総じて、私の経験からするとクレジットカードで海外での買い物をするのと比べればビットコインでするよりも快適である。そもそもビットコインを使うまでに乗り越えなければならないハードルは高い。まずPCとスマホは必需品だろう。そして数ある取引所から一つを選んで口座を開き、これまた数あるビットコインのウォレットから一つを選んでスマホにインストールし、銀行から取引所の自分の口座に円を送金し、相場を見ながらビットコインに交換し、それを自分のウォレットに送金(送信?)し、そこからお店に送金する。どう考えてもクレジットカードのほうが便利な気がしてならない。昔のクレジットカードは外貨交換レートがかなり悪かったが、最近はそうでもない。スポットで交換されるクレジットカードと、自分で相場とにらみ合いしながら円でコインを調達する努力を含めて考えて、さらにビットコインで買い物をしたいという欲求は失せる。あくまでも個人的な経験による感想である。

話を「仮想通貨」から「暗号通貨」に戻すが、規制を受ける銀行の管理下に置かれる送金手段として暗号通貨を利用することには何ら疑問を感じない。またそれは暗号通貨というよりは、ドルや円の送金手段として受け止めている。近い将来、海外送金や国内送金ですらこの手法(技術と言った方がいいかもしれない)が使われるようになる勢いを感じなくもない。

ちなみにビットコインで支払いをしていると最後にどうにもならない端数が残る。これがなんとなく損した気分になる。有効桁数の扱いが割といい加減な気がしてならない。

ところで最近、そのビットコインを(たぶんCFDで)取引できるFX業者が株式市場で超人気になっている。連日ストップ高でこのPBR1.0割れあたりまえの株式市場で1.5以上とその期待感は群を抜く。ビットコイン=フィンテックという発想だけではここまで買い上がる意味がわからないから、単にビットコインがらみで人気を博しているだけではないだろう。信用取引でよければすでにそういう取引所はある。違いはすでに金商登録業者であるか、“また”そうではないかの違いぐらいだろうか。証拠金でやっても信用でやっても取引コストはさほど違うようには見えない。どういう違いが出てくるか。今後に期待したい。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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