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尾関高のFXダイアリー

[第213回] 外為証拠金市場が生み出す流動性

お気づきだろうか。外為証拠金業界は、個人投資家に対して銀行すら出さない流動性を提供していることを。こういうと何のことだと思われるかもしれないが、要するにインターバンクのカバー先でカバーしないまま顧客に対してつける約定はみな「業者が生み出す流動性」である。流動性を生み出すのはインターバンク参加メンバーだけではない。金融庁のレポートには、業界で40.3%がカバー先に流れているという。これはつまり、投資家に対する約定の59.7%の流動性は証拠金業者が、あるいは証拠金業者と個人投資家が生み出しているという意味である。特にそれが顕著に見えるのは、強制ロスカット(成行き)を実行するときに顧客につけるレートと額である。


これだけのサイズの独自流動性をもった市場なら、さらにそれがインターバンクの流動性と“連携しない”ものであるなら、インターバンクとは“ずれたプロファイル”を見せてもおかしくはない。その妥当性についてだれか考えているだろうか。杓子定規に、“インターバンクのレートを参照して”とか、“基準として”とか、10年、15年前からの受け売りの発想を鵜呑みにしていてはいけないのではないだろうか。たとえば、日本の市場で取引されるZARJPYの取引高はどう考えても実需やインターバンクのそれを凌駕しているだろう。ベンチマークとなりうる市場は他の同類のどれよりも多くの流動性を持っていることが条件だとするなら、こうしたマイナーなかつレバレッジ商品としての人気度が高い通貨ペアはその取引市場が主導権を握ってしかるべきなのだが、今の本業界にはそこまでの力はない。

夢物語として、たとえば、業者全員の配信しているレートと約定履歴(歩み足)が一箇所で見える「場」があったとしたらどうだろう。それは間違いなくインターバンクのマーケットメイカーが無視できない市場情報となる。よく業者が約定したレートがインターバンクの安値よりも低いのはおかしいとかの苦情を聞くことがあったが、業者がつけたレートをインターバンクのメイカーが知りうるならばそれを情報として含めてのレート生成が始まることも考えられる。そうすると気配で上記のような矛盾が生まれないようなレートの軌跡を描くようになるかもしれない。

「市場の透明性」という言葉を聴くとき、ここでいう市場は取引所に限らず店頭も含めた広義の金融市場をさすが、どこまでを含むのかを考えてしまう。いまや日本の外為証拠金取引市場の取引高は、東京インターバンク市場のそれに匹敵しているという。“匹敵”しているならば、なおさら無視できない。インターバンクが主であり、王道であり、上流であり、公式であるが、個人投資家を相手にした外為証拠金取引市場は、それに比べれば「下」であるから、「公式な」市場データを云々するときは対象としない、というような認識が少しでもあるとするならそれは是正されるべきかもしれない。しかしそこまでの扱いを外為証拠金取引市場が受けるためには、もっと中身をプロフェッショナルにしていかなくてはならないだろう。そのための条件として私は昔から配信レートの生成方針、約定の判定基準、約定価格の決定仕様については開示すべきであるという主張を続けている。


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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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