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尾関高のFXダイアリー

[第210回] 市場の非対称性(2/2)

■カバーモデル


熟練したディーラーに任せてどんぶりでカバーするやり方とシステム自動化によって市場リスクを細かく排除するやり方の2通りに分けられるが、前者はたいしたシステム化を必要としないことは説明を要しない。後者は考えれば考えるほどいろいろなファクターがあり、いろいろなアプローチがある。どっちを採用すべきかという議論において、まず大切なのは経営として市場リスクをどうコントロールしたいかという基本原則を明確にすることである。どういうリスクは取れるが、どういうリスクは取れないか。またどこまでならリスクをとっていいのかが明確にならないと、モデル、仕様のデザインができない。ディーリングの経験者ならある程度その辺は整理してモデル化できるだろう。あと大切なのは、契約するCPごとに提供される流動性の癖を熟知することである。これが結構難しい。これら2つの相対する要素を結合してSORはデザインされるのが理想である。

SORを作るということと、アルゴリズムとは別の次元である。カバーすべきオーダーが発生した時点から、その瞬間のCP側の流動性を判断してベストなCPカバー発注を行うのがオーダールーティングであり、それが賢くできるようにするのがスマートオーダールーティングである。その前にそもそもどういうタイミングでカバーオーダーを発生させるかという仕事がアルゴリズムの役割になる。広義としては、客の注文を約定したら速やかに、1:1でCPカバーをするというの(最近の呼称としては「先付STP」)もアルゴリズムのひとつである。EEモデルもそうである。それらの対極にあるのが、たっぷり市場リスクをとって、客から放り込まれることによる刻々と変わる現在のネットポジションと市場の動き(モメンタム等)を分析しながら、適宜CPカバーを実行するというアルゴリズムである。あるいは、顧客ごとに向かうべきか向かわざるべきかを判断するのもアルゴリズムである。つまり大別して、川の上流の動きに対するアルゴと川下に対するアルゴがある。ただし、顧客ごとに配信するレート(※)や約定判断のルールを変えるというのは許されているとは思わない。それは不公平、公正性の欠如にあたると認識されると思っている。


※一つの業者の中でも、最近は少ないが優良顧客には優遇レート提供と言うようにそもそもコースを複数設けて、その中で違う配信レートにするというのは問題ないと考えている。最初から分けられ、そのサービスの差と内容が告知されているからである。

この市場流動性の非対称性をCP側から見れば、日本の外為証拠金取引市場において取引される量の40%程度しかインターバンクにはダイレクトには流れ込んできていないというのが協会の統計からわかる。分布としては当然0%〜100%ということになる。それこそIEが主流の市場である。個人投資家のポジションの圧力の60%程度を業界の業者が緩衝剤となって受け止め、その調整後の圧力がインターバンク市場に流れ込んでいるともいえる(*末尾参照)。にも拘わらず、業界は投資家に提示するレートにおいてはインターバンクのそれに原則従属しなくてはならない。“緩衝”せずに100%ストレートに流していたら現在の120.30から120.45近辺まで上昇していたかもしれないが、それがないために120.30のまま動かない。そういう事象もあるかも(あったかも)しれない。逆に、強制ロスカットが走るときはほとんどの場合、それを業者は飲み込まない。ほとんど即座にCPカバーに回してしまう(むろんカバーするべき流動性がないときなど例外はあっただろう)。私が市場の非対称性と指摘するのはこういうことである。

非対象軸は一つだけではない。日本の外為証拠金取引市場はそれ全体がひとつの巨大なダークプールになっているということである。このインターバンクとは扱う流動性において非対象なビッグでダークなプールを安全にコントロールする術をまだ我々は会得しているとは思わない。脅すつもりはないが、憂いは備えをする気にさせる最大のモチベーションであるから、一つだけ例を挙げる。1998年10月に起きた、LTCM破たん処理に伴う(もっとさかのぼれば、アジア通貨危機⇒ロシア危機⇒LTCM破たん宣言前の断末魔の叫び)市場流動性の喪失ともいえる暴落と同じレベルの現象が起きたらどうなるか。それは今年のスイスショックやチャイナショックの動きと似通っているが、インパクトはもっと大きいものである。事象として、122円から110円まで30分で動いたら、ということだけではなくてその間気配だけで、CPカバー注文が一切約定しなかった場合である。30分後にやっと成行のカバーが約定したので価格を見ると、111円だったとしたら。果たしてダークプールの中身はどうなっているだろうか。私は外為証拠金取引業者としても98年10月のこの相場を経験しているので、すぐそういう心配をしてしまう。

リスクを広くとればとるほどコストが上がる。いくら崇高な理論や理想を掲げても、現実的にみてリスクの1シグマは面倒見られるが、2シグマは出たとこ勝負。それは昔も今も変わらない。たぶん未来も変わらないだろう。7メートルの堤防を津波が越えると次は10メートルにする。決して20メートルを作らない。あらゆる場所で同じことが起きているから、ここだけ(金融の、それも末端で)例外はないだろうなということである。


※こういうことを考えるときいつも頭には水田を思い浮かべる。外為証拠金業界は水田である。降った雨水が水田でいったん保たれるからこそ、洪水が起きないという機能もある程度果たしているように思える。EEモデルではそれはできない。最近指標発表時に、いったん円高に行ったかと思うと、一気にその倍ぐらいの反対行動が起きる。12/4もそうだった。この最初のドル売りは、水田の機能がなくなっている状態に見える。あのニュースでそんなに売るかと思いながら、私は栗拾いをしようとがんばったが、4回ぐらいクリックして1回拾えるぐらいの状態が続き、落ち始めるときの水準以上になってから普通に拾えるようになったが、その水準ではもう一回ぐらいで十分おなかいっぱい、もういらない。この指標の発表後の動きで、インターバンクのベストスプレッドは私が見ている限り、0.8だった。私のパソコンで同時に見ていた複数の業者は結構開いていたので、そもそも買いたくなるようなオファーはあまり見なかったし、売りたくもならなかった。インターバンクが0.8なら、せいぜいその倍ぐらいの2.0以内にいてほしいというのは一個人投資家としてのわがままな願いである。やっぱりこういうときは指値を最初から置いておくべきだと思って事前に、下も上も準備していたが、遠過ぎてどれも入らなかった。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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