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尾関高のFXダイアリー

[第209回] 市場の非対称性(1/2)

■対顧客レート


協会の自主規制がまず頭に浮かぶ。「原則固定0.3銭」というような“固定”という言葉を広告で使う場合、1週間に配信したレートスプレッドの95%以上がその範囲内にあることを条件として使ってよいというルールである。どの業者もそれに準じてコントロールしている。
アメリカのようにEEモデルでやっている場合は、多数のCPからのレートからベストビッドアスクを取り出して、それに所定のマークアップを上乗せして配信するだけなので大した議論は生まれない。当然固定レートは出せない。インターバンクCPのレートスプレッドが変動する限り、常に変動スプレッドとなる。例外として、特定の業者が特定のCPと固定レートを出しつづけてもらう約束をすればその限りではない。そう考えると、現在の当局の考え方として、なにかと“インターバンクのレートを基準とする”考え方に若干の議論の余地を与える。このビジネスにおいてパブリックとプライベートという二つの“流動性のお部屋”が存在するということである。とりあえずこれを頭の片隅においておこう。

理論的に、ほぼCPのベストスプレッドと同等の固定スプレッドを95%以上守りながらもディーリング収益を確保することは可能である。それは客の発注したレートがサーバーに到着した時のホストサーバー上の最新の顧客配信レートと比較して逆ザヤになる場合は拒否するという仕様をきっちり稼働させることである。そうすると、ちょっと変動がみられるだけでやたら拒否が続くという現象が起きかねないが、それを緩和するために許容スリッページというサービス(仕様)が生まれている。個人的にはこういう運用のほうが好きだ。なぜなら透明性はこの方が高いからである。通常0.3銭で出ているレートが、ちょっと相場が動いただけで突然3銭とか5銭(10倍)になると、中心価格がどのへんか見当がつかない。例えばこういう場合を想像してもらえればわかりやすい。突然上昇を始めたと検知した瞬間から、顧客配信レートのアスク側だけを大幅に広げた例である。インターバンクも広げてはいるが、そこまでではない。気にしているのは、ビッドアスクから計算される仲値がインターバンクとは大きくずれてしまうことである。以下の例を見てもらえればわかる通り、変動後の顧客配信レートから見える仲値(120.2965)はCPのアスク(120.29)を超えてしまっている。



それなら業者には0.3をキープしてもらいながら、インターバンクの仲値にはついていってもらう。そして、投資家側は許容スリッページを6.0に引き上げる。それによって約定拒否を回避する。あとは、その時のスリッページを付与する「仕様(ルール)」を、透明性と公正性の観点から業者側にきちんと開示してもらう。この方が全体のサービスクオリティとしてはスマートではないだろうか。顧客に無用な疑心暗鬼も生まれない。私もこういう相場の時は、許容スリッページを5銭ぐらい一気に引き上げる。何度も拒否されるほうがうっとおしいからだが、その結果としてスリッページぎりぎりのレートばかりが約定として返ってくると、またちがう猜疑心が生まれてしまう。私として期待する仕様は、たとえば買いの場合、許容するスリッページを加算したレートを最大約定許可レートとして、それ以内に、業者のサーバー側で約定判定として使っている最新のレートが入っていれば(以下であれば)“そのレートで”約定する。より大きければ拒否する、である。こういう問題を指して私は、今までも業界横断的にFXの最良執行方針、言い換えれば約定判定仕様(ルール)の開示があったほうがよいと主張している。

こうした固定スプレッドを変動に変える操作を手動でやっていると後追いになりがちで、どうしても必要以上にワイドにしがちである。その欠点を克服するためのアプローチとして前々のコラム「ディーリング収益を如何に引き上げるか」の中で説明したとおり、ロジックを組んで自動的に固定と変動を切り替える仕様で対応することができるし、仕様として取り込めば執行方針の開示もしやすいだろう。


■流動性の非対称性


こんな言葉は聞いたことはない。私の造語である。何を指しているかは、上段でも述べているので察しがつくとは思うが、改めて以下の例を使って説明する。

今、客が120円で指値売りを入れている。その総額は20本(2千万ドル)である。これが約定するのは配信レートが120.000-120.003の時である。この時、CP側のベストレートが120.001-120.003であったとしよう。見た目、この業者は、客から120.000で買ったポジションを、CPの120.001で売りさばくチャンスがあるように見える。0.001の利ザヤが狙える。しかし実際には、このCPの120.001ビッドで売れる額は5百万ドルしかないとしよう。そうなると、1千5百万ドル分ロングを持ち続けるか、それより悪いレートでさっさと売りさばいて損失を確定する(傷を浅くする)かというジレンマに陥る。この額の違いを指して私はここで流動性の非対称性と呼んでいる。

このずれの問題を克服するために業者はいろいろ知恵を絞らなくてはならない。米国のようにEEモデルにしてしまえば一切悩む必要はない。しかし「指値スルー」の問題は生まれる。上記の例がEEモデルで起きると、最初にその指値を入れた人から順に5百万ドルまでは約定するが、残りの1千5百万ドル分の注文はこのタイミングでは約定しない。その後チャンスが再来することなくレートが下がりだすと、取り残された指値は未約定のままとなる。これを私の言葉では「指値スルー」と呼んでいる。前々職社内で使っていた用語である。仕様上仕方のないことであり、これが現物株式の取引所取引なら毎日起きていることである。違いは、取引所は上記例のCP側の5百万ドルという額が情報として投資家に画面上からでも伝わっているという透明性があるが、OTCのFXではそれがない。ないものは開示できない。“この値段は注文額いくらまで受け付けます”という宣言がないという点で、取引所取引と同じ現象が起きるだけだからいいじゃないかとは言えないという意見もある。「指値スルー」という仕様を100人の投資家に説明しても100人とも納得してくれるとは言い難い。だったらいくらまでという“アマウント”を表示しろと言われてもおかしくはない。

さて、日本はほとんどIEモデルなので、業者の裁量で約定をつけることができる。実際上記の例では2千万ドル約定してしまう(だけに少しでもレート変動が始まるとそっち方向のビッドかアスクを開きたくなる)。あとはどうやってうまく2千万ドル分のカバー取引をするかである。CPベストビッドが120.001の時に2千万ドル分を成行で売りに行けば、間違いなくその平均約定価格は120.000を割り込むだろう。つまりディーリングは損をする。したがって、業者はそのポジションをいったんはブックにためて、徐々に相場の変化をみながら細かく売り抜いていくという手腕が求められる。あるいはそもそもそういう適宜カバーするという運用はしないで、がっつりため込むというモデルにしている業者もあるかもしれない。この手の非対象性リスクをうまく緩和しながら、かつ無用な時間的市場リスクを取らないでスムーズにカバーをするロジック(一般にSOR, Smart Order Routing)を搭載するシステムが世の中にはいろいろある。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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