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尾関高のFXダイアリー

価格・流動性はどこから来るのか

ブローカーが提示する対顧レートはインターバンクからもらっているレートを加工し、一定の利ザヤを乗せて生成しているという定義はもはや有効ではない。なぜならインターバンクよりも狭いレートが対顧レートとして提供されるようになっているからである。あえて利ザヤがあるというならそれはマイナスの値がセットされることも含むことになる。この点日本の市場は世界的に見て特殊である。

そもそもインターバンクからもらうレートというのはどういうものか。よく聞かれるのは、ブローカーは客から放り込まれたポジションをCPでカバーする。ならばCPはどこでカバーするのか、あるいはどうやって儲けているのかというごもっともな質問である。まずはこの辺の話から始めて、結論は次号へと展開するつもりである。

インターバンクの参加者は主に銀行である。近年リーマンショック後のドッドフランク法により銀行が取れる市場リスクが締め付けられるようになり、グループに証券会社を持っているところは証券の名前をもってインターバンク市場に参加しているところも多い。ここではそれらの区別はあまり意味がないのでCPとだけいう(主に銀行だが証券を含む)。

CPの中でも自らプライスを作るところと、他のCPからのレートを参照しながら、自分の顧客(法人、ファンド、個人富裕層等)と行った取引を速やかに他のCPでカバーするところ、いわゆるブローカーディーラーをするCPとがある。これは表立ってわかることではなく、付き合いがあって初めて見えてくるものである。市場リスクを取りたくないというCPはブローカーディーラーに徹するだろうし、市場リスクを取りながら利益の最大化を追求するCPもある。本源的に流動性の提供者(liquidity provider)と呼べるのは後者であり、インターバンク参加者すべてというわけではない。ではLPはどうやってリスクを利益に変えているのか。


1) 金利市場


CPは客とやった外国為替取引を“お金”として持つことができる。例えば、USD/JPYの買い取引をすれば、これはドルをもらって、円を渡すということになる。一例だが、ドルはNY支店の口座に集中させドル金利市場で運用し、円は東京支店で運用することができる。そうした運用の利回りという収益源もある。いったんNY支店に回されたドルは、ドルがベンチマーク通貨になるので、円でいくら払ったドルなのかという評価は消える。


2) Dark Pool


CPは裏側で多くのヘッジファンドと付き合いがある。一口にヘッジファンドといっても客としてCPからレートをもらいたい(buy side)側としてのファンドと、銀行に流動性を与えたい(sell side)ファンドがある。Sell sideのファンドは俗にダークプール(Dark Pool)と呼ばれる。彼らの取引は秘匿され公開されないのでdarkという。反対に取引所取引のように取引が公開される市場はlight poolと呼ぶ。市場リスクを取りたくないCPはこうしたDark Poolも利用して客の取引を横流しする。市場リスクがない分利益幅も小さい。Dark poolはもらったポジションを利用して細かくインターバンクのCP相手にカバーをしながら利益を積み上げるのが一般的であるが、私の知らないやり方をしていることも当然ありうる。


3) グローバルな地理的時間的戦略


CPの多くは東京、ロンドン、NY等の各国支店でディーリングデスクが稼働し時間体制をとっている。これをグローバルブック(制)と呼ぶ。かれらはそうした地理的特性を利用することが可能である。日本を含むアジア地域におけるアジア時間帯の相場の動きと、欧州時間が始まってからのそれとに大まかな相違(無相関性や逆相関性)がある場合、たとえば東京時間ではやたらと円売りが多いが、欧州時間になると欧州から円買いの注文が増えるという傾向(逆相関)が見えるなら、東京時間ではひたすら客からほうり込まれるポジションを溜め続け、欧州が始まってから売り払うという戦略もとれる。むろんこれはリスクが高いし、数年スパンで見て必ずしもあり続ける相関性とは言えない。


4) 年間を通しての勝負


CPは日々日々ディーリング益が上がればそれに越したことはないが、必ずしもそうではない。年間を通して、あるいは四半期ごとに利益が目標に達するかどうかが最終的なディーラーたちの評価である場合、あとはどこまでリスクを取っていいかになる。それはすなわち、どういうプライスを客に提示するか、積み上げるポジションはどこが上限か、評価損はいくらまで耐えていいか。大体これらの条件がディーラーに与えられるバジェットである。その範囲内でディーラーは、あるいはディーリングシステムを運用するエンジニア的なディーラーは、そのパラメータを調整してゆく。マーケットが大きく揺れ動いているときにさっさとレート配信を止めるCPもいれば、粘り強くワイドながらそこそこのレートを出し続けるCPもいる。原発事故のニュースが伝わった後の月曜の朝は、最後は1〜2CPしかレートを出していなかったらしい。そのCPは“勇気があった”ということになり、そのご褒美としてその時は相当儲かったであろう(数時間で一年の収益計画を達成してたかもしれない)。そういうディーリングは一言では説明できない。いろんなファクターが折り重なって結果が出てくる。利益の出し方は、どこまで市場リスクを取れるか、カバー(ヘッジ)の仕方にどれだけのバリエーションがあるかというCPごとの環境によって選択肢はまちまちである。


5) 日本の市場の特色


ドル円、豪ドル円、NZD円は常に円ショート、ユーロ円はロングとショートを行ったり来たり。急激な円高になると、ロスカットの嵐が吹いてCPに成行の売りが押し寄せる。その後改めてナンピンの円売り(外貨買い)がどっと入る。というのが大方の常識である。CPは当然そういう“習性”をうまく利用して収益力を上げる努力をしていることは言うまでもない。



約定情報の流布


そうした気合の入ったLPが出すレートがEBS等に流れ、それらのレートを参考にしてブローカーディーラー的なCPは自分の客にレートを流している。
業者が一つのCPに対してカバー取引を行うと、その情報は瞬く間にインターバンク市場に影響を与える。見た目与えてないように見えても、それは程度問題であって、厳密には与えていると考える方が妥当である。EBS,ロイター、ブルームバークといったプラットフォームはそうした情報共有の場であるといっても間違いではない。インターバンクのレートはたくさん買われればその分レートを右にずらす(上がる)。売られれば左にずらす(下げる)。それの繰り返しである。誰も買いも売りもしないのであれば、一定の水準からレートは変わらない。この理屈から言うと、外為証拠金取引業界から生まれる約定情報はある意味独立した市場を形成しているともいえる。これを私は「流動性の非対称性」と呼ぶことにする。次号で触れる。


独立した市場


仮に、ある業者が客から50本の買いを受けたときに、そのカバーをCPに取りに行かなかったとするとどうなるか。今レートの水準が120.00としたとき、本来CPに50本もの買いを入れれば、120.03ぐらいに上がるとしよう。その場合、その水準はインターバンク参加者全員が共有することになる。従った他の業者のレートも120.03になり、それをベースにした顧客配信レートが作成されているはずである。しかし、この業者はその50本のポジションを自身のブックの中にため込んでいる場合、その情報は市場に共有されない。相変わらず120.00である。そして数日後に、この業者はもっとため込んだポジション、たとえば200本をまとめてCPでカバーしたとする。その瞬間にインターバンクレートは上昇する。例えば120.10に急上昇する。実際、この手の流れを感じるような動きを見ることがある。日本時間の早朝、ロンドンが入ってくるときあたり。絶対そうだとは言えないが、なんとなくそんな感じがするときがある。それは、いいことかどうかの問題ではない。ただ、そういう動きにCPは対応しているということである。


注釈
CP :大手銀行証券、いわゆるバルジブラケットを中心とした国際銀行系
Dark Pool :ヘッジファンドのうち外国為替レートを出すビジネスをするファンド
Aggregator :Currenex, Integral, FXall など
Facilitator :FXCM, SAXO,など、ブローカーでありながら他のFX業者のCPになるところ


バルジブラケット


CPとして名だたる銀行はどういう連中かという話として、バルジブラケットという言葉があるので、紹介する。日本であまり聞かない、使わない用語だが、英語の世界ではそこそこ使う。伝統的に業界の先頭で生き抜いてきた優秀な銀行たちという意味合いで使われる。当然その分業界を代表して利益を守る活動をしながらも、社会的責任を果たすという矜恃も持ち合わせていることが期待される連中でもある(が、ときどき粗相もする)。ウィキペディアにはこうある。

『バルジ・ブラケット(Bulge Bracket)とは金融業界、特に投資銀行業界で使われる用語で、リーグ・テーブル(業績を基にした投資銀行ランキング)の上位を常に独占し、世界経済に大きな影響を与える一流投資銀行群を指す。2010年現在、欧米の主要投資銀行9社がバルジ・ブラケットとされている。

<語源>
バルジ・ブラケット(Bulge Bracket)とは突出した層と言う意味であり、投資銀行が完遂した案件を一般告知する広告(Tombstone(墓石広告):墓石の形をしていることからこう呼称される)の最上部に社名が記載されることに由来する。最上部に記載されるという事は、案件において主要な役割を果たした証であり、業界に於けるプレゼンスの高さを表す。』

伝統的には以下の銀行がそれにあたる。
Bank of America Merrill Lynch (BAML)
Barclays Capital (BarCap)
Citigroup (Citi)
Credit Suisse (CS)
Deutsche Bank (DB)
Goldman Sachs (GS or Goldman)
JPMorgan Chase (JPM)
Morgan Stanley (MS)
UBS

最近では、UBSの上にBNPを上げるメディアもある。語源から察してわかると思うが、ここに邦銀が入ることは絶対ない。
(ながれとしては次号へ続く)


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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