ディーリング収益を如何に引き上げるか(付録)
1/2,2/2で完結したはずだったが、おまけを一つ。
■拒否の抑制
今までは、先付のSTPを大前提に考えてきた。ここでもそれを踏襲する。その前提で、あと考えられる手法としては、CPの拒否を如何に少なくするかを考える。ご存知とは思うが、CPは注文の約定依頼を拒否する権利を持つ。拒否率はCPによっても、通貨ペア、タイミング、時間帯によって違うが、一か月単位で見ればそこには一定の傾向が見えるし、それを使って対策も打てる。そのベースとなるのがビッグデータ的アプローチである。これ以上はいちいち説明しなくてもわかってもらえることと思うので割愛する。
■CPごとのFIXのルールを熟知する〜S.O.R.
CPごとにレートの提示の仕方や、受注の仕方には癖がある。それらを十分理解したうえでシステムは最良の選択肢を利用しているかを検証する。例えば、シングルクォートを要求するべきかマルチクォートを求むべきか。Tiered Mass Quoteがいいか Stack Mass Quoteがいいか。それらのSizeの組合せはどういうものが自分には一番合っているか。そういうことをよくよく吟味する必要はある。効率性追求ののりしろの多くがここに残っている。簡単に言うとOrder Routingを如何にSmart にするかということになる。これを検証分析する環境を持っている業者は見たことがないが、これこそが利益の源泉であり、その分析環境にこそ投資するべきなのだと私は考える。
■アルゴリズムトレード
客の約定を先にする限り、カバリングは後手に回る。CPのベストスプレッドよりも恒常的に狭いスプレッドを提供しながら、先付STPモデルを稼働し続けた場合、その時の時間的リスクは長期的には論理的期待値(設定しているマークアップ分など)に収斂すると思いたいが、客が一方向に殺到するときの流れを考えると、割とディーリングデスクは正規分布から外れさらに“安定的に”損失を被っているかもしれない。それもこのモデルの“性”であり、損して得とれの精神で割り切るというのも考え方の一つである。年間通して安定的な収益率が維持されているならばとりあえずは合格点。しかし、やはりそういう“安定的に損失を出す部分”と言うのは改良のしがいもあるというものであり、パターン化している分、対応も見つかりやすい。なにより業者はそれを望む。
100%STPを前提とする限りアルゴリズムトレードを議論する余地はなく、出来ることはSORだけだったのだが、その条件を外せばこの議論は、アルゴリズムカバーを可能とする。
世の中にはいろんなアルゴがあり、それを売っている会社もある。しかしどれをとっても業界で安定的に、長期的に高い評価を得ているアルゴと言うのは私が知らないだけかもしれないが聞いたことはない。“うちはすごいよ”と言われても、MT4のEAと同じくらい胡散臭い。実際のデータを5年分ぐらい見せられてもその客がヘッジファンドだったりするとそもそもプロファイルが違うと思ってしまう。FX業者のカバー取引に5年以上利用され、理論上のスプレッド(鞘)を50%以上アウトパフォームしてきたというアルゴがあれば知りたいところである(ないとは言っていない。私はそれを知らないだけ)。
こうしたアルゴ等の新たなカバーのアプローチを評価する場合必ず対象区として設定されるべきは、設定しているマークアップ分ということになるが、CP側のベストスプレッドが0.5しかないのに、客には0.3を提供している場合、これがマイナス0.1になってしまう。それでも現実的にはSTPではないので0.1とかの利益を出している場合、アルゴの対象区はあくまでもマイナス0.1であり、目標はプラス0.1を超えることにある。
外為証拠金取引業者向けのアルゴとして考えられるセグメントは、(1)顧客ごとの投資動向を推測すること。これはかなり精度が高いように思える。昔からこのテーマは語られているのだが、いまだそれをやりました、うまくいってますという話は聞かない。
勘違いしてほしくないが、客のポジションや、証拠金などの情報を使って“個別の客に不利”になるような約定を行うのは少なくとも否定されるべきことだが、それらを使ってCP側でのカバー取引を優位にするというアプローチはむしろやったほうがいいと私は思っている。下流ではなく上流に対して情報分析を利用するということである。
次に(2)マーケットのモメンタムを追いかける。それによって今持っているネットポジションをさらに維持するべきかあるいは切るべきか、あるいはドテンするべきか、するならいくら(量)、といった判断を行う。ある意味これが一番まっとう。
■アルゴの欠点
最大の欠点はお試しがしづらいことと、したところで、した場合としなかった場合を正確に比較する環境を持ちづらいということ。持てたとしてもそれはバックテストの域を出ない。しかしないよりはまし。また、そのアルゴを外のベンダーから買うと結構なお値段になる。大体は利益の配分方式だろうが、%が高い。一方そのアルゴの中身をユーザーは教えてもらえないのが常識的な条件。それなら、自分で作る方がいいという考えもある。さほど難しいことをしているとは思えない。人の発想など大体似たようなもので、それが線形(一次曲線)か非線形(二次曲線)かぐらいの違いであり、結果近似することも多い。むしろ大変なのはその実験場を準備して稼働させることである。ここに積極的に投資しようという業者が出てくるのだろうか。「研究開発費」は何も製造業だけの費目ではない。
さらに、アルゴは異常な事態に暴走する危険性をはらんでいる。その辺の緊急停止まではいいとして、停止してもその後のポジションのスクエアリングまで面倒見てくれるかくれないかもシナリオテストには入れておきたいところである。
▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
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