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尾関高のFXダイアリー

ディーリング収益を如何に引き上げるか(1/2)

■シェーディング機能


配信レートをシェードさせる目的は、CPのレートよりも左右に意図的にずらすことによってより有利なSTPカバーを行いたいということである。前提として、先付のSTPである。EEの場合は、設定したマークアップ分が確保できなければ客の注文を拒否することになるので、その時点では損はしない(顧客による業者の約定率の評価は別の問題)。先付STPの場合は、既に客の約定をしているので、そこから如何にして期待するマークアップ分かそれ以上を確保するかが業者としては一番気にするところである。システム上それを実現するには、(1)業者のシステムが“遅滞なく”CPに対しカバー注文を投げること、(2)CP側のレートの質として、拒否率が“きわめて低い”こと、(3)業者の判断として、CPのベストレートとデプス(板)から考えて“妥当な狭さの”スプレッドを顧客に配信していること、言い換えれば無理な固定スプレッドを客に配信していないこと。


(1)の“遅滞なく”、(2)の“きわめて低い”、そして(3)の“妥当な狭さの”あいまいなレベル感をどこまで局限化できるかは業者ごとの、システムごとの特性に依存するので具体的な数値は言えない。

さまざまな要因により、先付STPの結果を個々に見ると、カバー取引が結果的に損切になっているケースは多々見られることだろう。ではそれらにどう対処すればいいのだろうか。業界で出てくるアイデアを例に考えていこう。


■シェードの判断基準として客の指値注文を利用する


シェードの判断基準として客の指値注文を利用する場合、実は矛盾がある。例を挙げる。
ドル円で現在インターバンクが、122.45-.47だったとする。今、客の指値が122.50に一定量あったとする。業者としては、客の122.50の指値売りを約定するタイミングで出来るだけそれを遅らせて、CPのベストビッドが122.50よりも高くなっている状態で客を約定させたい。先付ルールの場合そうでないと、結果利ザヤが得られないリスクが高まる。

CPのレートが122.51-53の時に、客への配信レートが122.50-54であれば、STPで処理しても0.01のディーリング収益を確保できる。ただし、CPが拒否しなければであが、保証はない。なので安全に利ザヤを確保したいのであれば、もう少しサヤを増やしたい。すなわちこの指値の例の場合、シェードは、マイナス(-0.01)に働かせることになる。

客の122.50の指値売りがトリガーされる瞬間において、
シェードしなかった場合、
客のレート:122.50-54, CPのレート122.51-53 ⇒利ザヤ0.01
シェード(−0.01)していた場合、
客のレート:122.50-54, CPのレート122.52-54 ⇒利ザヤ0.02
となりシェードによる理論上の期待超過期待収益が倍になる。

この時、客の指値のカバー処理において、業者はより安全に0.01〜0.02を抜けることになるが、一方では、この瞬間に別の客が成行(ストリーミング含む)で“買ってきたとき”、スプレッドが変わらなければ、利ザヤが0となってしまう。上の例を見てわかる通り、業者は客に122.54で売って、同値でCPから買い戻している。市場が荒れているときや、相場がきれいな数字の大台をまたぐとき(124.00, 125.00, あるいは124.50など)は、売り買いが入り乱れるものである。そんな時にスプレッドを調整しないまま固定で、シェードだけすると、寄せた側では安全に利ザヤが確保できても、反対側でその分を捨てることになる。さらに言えば、注文タイプのうち、指値は10%未満である。ほとんどは成行(ストリーミング)なのだ。

そういう“南”で勝つけど“北”で負ける的な状態を防止するには、シェードをするときは、−0.01するならビッドだけを下げ、+0.01するならアスクだけを上げるという処理をしないと、上記の反対サイドに突然入ってくる注文処理について、せっかく指値の分,bid側で得た利益をask側で放出する(あるいは期待する超過収益がなくなる)ことになってしまう。これはもうシェードではなくてワイドニングである。

私の見識として、シェードをするなら、客の指値などという限定的な「客側の」事象に依存して判断するのではなく、あくまでも「インターバンク側の」事象を観察しながら変化させるほうが合理的であり、システム的にも整合性がとれて安定的なシステム運用も可能になるので、そちらをお勧めする。
またシェーディングによって収益の棄損を回避したいという発想は、要するにディーリング収益率(限界利益率)を向上させたいという大題目に即して考えるほうがよい。細かい事象を捕まえてそれだけに対応する仕様を開発しても、その効能と開発コストを天秤にかけた時、はたして“割に合っているだろうか”。また、その仕様がシステム全体に与える悪影響も十分考慮すべきである。


■インターバンクのシェード


インターバンクにおいてシェードするという操作は当然ある。そがあるから相場は動くのである。しかし、彼らは客の注文板をそのまシェードの判断材料としていない。理由は上記説明のとおりの短所がわかっているからである。それよりもシェードをする前提として、彼らはそもそもSTPを想定していない。想定する観察・評価期間中に(数秒、数分、数時間、数日であることもある)、売るときはできる限り高いコストで売りポジションを持ちたい、また買うときはできる限り低いコストで買いポジションを持ちたいという前提に立って必要なシェードを行う。それとその後のポジションをどうヘッジするかは、インターバンクはカバーだけでなく異なる市場でのヘッジが可能なので別の話になる。ではどうやってするか。

インターバンクプレイヤー(LP)のシェード判断のしくみとしてまずありそうなのは、自分のASKが買われたら買われた分だけ一定量右(上)にずらし、自分のBIDが売られた分だけ一定量左(下)にずらすというものである。より多く買われれば、より大きくずらす。実際その動きが相場を形成している。同時に、スプレッドもそのボラティリティに応じて広げたり狭めたりする。常に、価格x量で判断する。なぜなら市場リスク(損失可能性)=価格x量だからである。価格だけで判断するのは片手落ちなのである。

ブローカーの場合、自分でレート(価格)を生み出すということが事実上不可能である前提で、価格の操作として許されるべき限界は、“インターバンクのベストの仲値を飛び越えてシェードしない”であるはずである。例で説明すれば、今複数CPのベストビッドが、121.50-51であれば、客に配信するビッドは121.505以下であるべきで、アスクは121.505以上であるべきということである(チョイス121.505は許す前提)。それを無視して、121.52-54とかを出すと、少なくとも協会ガイドライン目線でいえばNGかな?となる。つまり“やりすぎ”ということ。しかし、個人的には、相場が荒れているときは、参照するCPが業者ごとに違う限り、それらをなれべてみればかなりのずれが出てくることは間違いない。CP同士くらべて逆ザヤになっているときにいったいどこが仲値と言えようか。

実際業界上トップ10の5社を並べてみたことが何度があるが、普段の凪の状態でもそこそこ違うし、夕方ロンドンが入ってきて相場にモメンタムが生まれだしたあたりになると、しょっちゅう業者間クロスベストで逆ザヤ現象がみられる。感覚的には中立的だと思える業者と多少シェードしているなと思える業者に区別される。シェードをしている理由まではわからないが、その仲値同士をインターバンクの有名どころ8社ぐらいのベストプライスの仲値と比較すると、それを飛び越えているように見えることもある。ただしそこには時間的なずれもあるので、サーバー上ではずれていないのかもしれない。正直0.3のスプレッド固定というサービスを前提とするとその程度のずれや仲値飛越しがあっても個人的には気にならない。それぐらいはあって当たり前とすら思う。あとは投資家側の知識と見識の問題だろう。
>>ディーリング収益を如何に引き上げるか(1/2)に続く


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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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