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尾関高のFXダイアリー

ビットコインにまつわる話 その2

素人に毛が生えた程度の知識でテーマにするのもおこがましいが、その程度の習熟度でるから言えることもあろうということで再度このテーマでいくつか言いたいことを書かせていただくことにする。

ビットコインのような「仮想通貨」を英語では”cryptocurrency”と呼ぶ。これを日本語に直訳すると「暗号通貨」となる。私は決してこれを「仮想通貨」と訳す発想はない。そもそもビットコインのようなものを「仮想通貨」と呼び始めるからその後無用な誤解やどうでもいい議論が生まれるのだと思っている。もっと言えば、知れば知るほどビットコインは「暗号化された契約等の電文」でしかないように思えてならない。


■通貨の定義


通貨かそうでないかという議論をする人はまず自分の中で通貨の定義をどうとらえているかを考えてから議論を開始したほうがいい。あまりに自然にそこにある(水や空気とまでは言わないが)ため、存在に対する定義をおろそかにしたままこれは通貨かそうでないかという議論をしてもバベルの塔状態にしかならず、話のかみ合わないこと甚だしい。例えば私の通貨の定義としてどういう言う要素が考えられるかを列記する。無用にややこしくなるので金本位制はとりあえず無視する。


【イ】国家単位で存在するあらゆる有形無形財の価値を評価し、交換移転することを可能にする道具である(国家単位はEUROの出現で揺らいでいるが)
【ロ】中央銀行がその市場流通量を管理できる(本当は「当該国の」をつけたかったがEUROの存在によりその定義は外した)
【ハ】またそれにより当該国のインフレデフレの調整能力を持つ
【ニ】一般に紙や金属でできているが、電子的に管理できる
【ホ】銀行に預金することができる
【ヘ】それにより銀行から金利を得ることができる(まれにゼロか支払になることも理論上ある)
【ト】国家もしくはその付託を受けた当該国内に限らない業者が造幣する(たとえば日本の造幣局はブルネイの記念硬貨を造幣している)


ざっと私の定義はこんな感じである。ちなみにWikkipediaでは「国家などによって価値を保証された、決済のための価値交換媒体。政府は租税の算定にあたって通貨を利用する(法定通貨⇔仮想通貨、地域通貨)。」

ではビットコインはどういう性質を持っているか。

【イ】の国家単位という条件は当てはまらない。
【ロ】中央銀行がない。
【ハ】インフレデフレ調整能力はない。
【ニ】紙や金属ではできていない。電子的存在のみ。
【ホ】預金できない。
【ヘ】金利を生まない。
【ト】誰でもマイナーになれるが、実際は結構なハードルである。


■通貨としての本質


こんな具合で、私の定義からすればおよそ大事な「通貨」としての要素を持っていない。確かに、「財の価値を評価」し「価値交換媒体」としての機能を有しているように見えるが、よくよく見てみると、「財の価値を評価」する機能はあくまでもその国の通貨の価値を一定の交換比率で表現しているに過ぎない。例えば、今デパートで見ているこの服が1BTCだとして、それは今の取引所の気配値では260ドルだとした場合、どっちがこの服の値段として基準になっているかと考えてみてほしい。どう考えても1BTCが固定じゃないだろう。なぜかと言えばこの服を製造するコストはすべてドル建てで計算されその結果260ドルという値段が決定している。この服を売って生計を立てるお店の費用はほぼすべてドルで支出されている。店の電気代、店員の給料など一つとしてビットコインで定義される支出はない。であれば、この服に1BTCという『値段をつけた』のでははく、『つけた値段』はやはり260ドルあり、それを便宜的に1BTCでもいいよと言っているだけである。常に本源的に定義されるドル建ての価格をBTC単位に変換しただけのことである。異通貨決済の手間がひと手間増えるのである。


■決済機能


ビットコインで私の目に有益かもと映るのはまず決済機能である。現在の決済に係る費用は内国取引と国際間取引で個別に見るが、内国の場合たとえば楽天市場で買い物をしてそれを代引きで受け取る場合とクレジットカードで決済(自分では払ってない気がするがその分のコストである数パーセントは最初から価格に乗っかっていると思ったほうがいい)する場合と預金口座から振り込む場合で微妙に違う。買い物ではなくても他人に数万円送金する場合200〜300円ぐらいかかる。これを高いと思うかどうかは別としてそれよりもはるかに安い移転コストになるかもしれないという期待感はある。PayPalという対抗馬もいるし、他にももっと違う新たな決済サービスが日本にも上陸しつつある。
海外へ送金する場合は送金手数料と相手国でのリフティングチャージ等合わせて大体3000円から6000円ぐらいかかると思うのだが、海外で買い物をする場合は大方クレジットカードを使うだろう。それだとドルで買い物をしても円で請求を受け、その交換レートがどういうタイミングで決めたかよくわからないレートになっているので結果ユーザーとしては為替の交換レートでクレジットカード会社にどれくらい鞘を取られているかがわからないので気にもしない。実はこれがかなりの利ザヤになっていて米国では訴訟にまでなったことがある。交換レートがあまりにも阿漕(アコギ)だという理由で。


■投機対象


日本でMt.Goxがつぶれたことでかなり悪い印象がついてしまった感じがするが、米国では続々このcryptocurrencyに参入の動きが出てきている。詳しくは金先協会の会報を見てもらえればダイジェストになっているし、ネットで検索してもらえれば大体の情報は手に入る。


■暗号化台帳


流れは二分化しているように見える。一つは取引所が投機商品として需要喚起する流れ。もう一つは決済手段あるいは台帳としての有効性を見極めようとする動きである。さらに言えば、カナダの議会が議事録を暗号化してブロックチェインの中に入れたという記事があった通り台帳としての使い方である。たぶんこの3番目の使い方が一番ブロックチェインの長所を発揮している部分だろうが、投機目的化している仮想通貨としての側面ばかりが注目を浴びている中カナダはよくやるなと思う。

投機商品としては米国規制当局CFTCが積極的だなあと思わせるがごとく、ついにはNadexではビットコインのオプションまで上場してしまった。
http://www.nadex.com/trade-bitcoin.html
個人的には下品だと思うが、アメリカらしい。

他方の決済手段あるいは台帳としての機能については米国ではドイチェ銀行等の金融機関が決済手段としての有用性について研究を進めるといったコメントの記事を目にする。これは現在の銀行がつかさどる送金に関連するサービス対価に比べてどれくらい経済効果があるか、既存のシステムに対して脅威となるかどうか。要するに敵に回すとどれくらい怖いか。あるいは敵にするくらいなら味方に取り込んだ方が有利かどうかを研究しているのではないだろうか。300円もらってやっていたサービスが30円で出来るようになったらそりゃ脅威である。ドイチェだけではない、多くの金融機関はすでに研究調査をしている。

しかし、問題はそのサービスを手にするまでに超えねばならないハードルの高さである。また、台帳としての安全性と透明性という矛盾をどうするかである。個人的にはこの2つのテーマが大きな課題であると考えている。ド素人ゆえ見当違いでなければいいが、少なくともこれら2つのテーマは大きいと確信している。

ブロックチェインのロジックを利用して、台帳やら議事録を作る、管理するという発想が一番公共性が高い。私の理解が間違っているかもしれないが、これを使って議会議事録などをcryptoするということは、電子的に公開すると改ざんのリスクを負うので怖くてできないというようなものを安全に公開できるようになるという意味だと思う。

ビットコインは、ほしければ取引所に口座を開き、円を送金して自分の口座に入れて、それを使ってビットコインを買う。買った後はそのまま取引所においておくとMt.Goxみたいに「盗まれちゃったからありません、ごめんあさい!」なんて開き直られるので、さっそく自分の手元においておきたいから、ネットでビットウォレットなる電子財布なるものを自分のパソコンにインストールする。そもそもパソコンに疎い人はここで挫折する。
パソコンのウォレットに取り込まれた自分のビットコインにあたかも所有者である自分の名前が記録されていると勘違いする人がいるが、それはない。したがって、あなたのパソコンに侵入してそのコインを盗むことが可能になる。こういうとほぼお札の性質をイメージしても当てはまる。お札に自分の名前は書いてないが、お札にはそれぞれ固有の通し番号が印字されている。そしてそれは世界中に二つとないことが国に保証されている。これをビットコインではブロックチェインという技術を使って世界中の不特定の参加者(いわゆるマイナーたち)の多数(民主的です)よって担保されている。マイナー(miner)とは発掘者と呼ばれる人たちであり、かれらはその新たなチェインを作る報酬として新規にコインをもらうことができる。いわば造幣局ともいえるが、必ずしも適切なたとえではない。


■大まかな印象


現時点での私のビットコインに対する印象は以下のようなものである。
現実的に参加するにはパソコンの知識がある程度必要であること、
ビットコインを格納するパソコンへの外部からの侵入に対して用心する必要があること、
日本には現在公的な(金融庁が所管する)取引所はないこと、そもそもビットコインで買えるお店が日本国内では100件にも満たないこと、
海外ではそれなりにあるので使えるがあえてクレジットカードでなくビットコインでやるほどの意味(経済合理性)があるとは思えないこと、
結局ビットコインは投機商品として見ている人にしか訴求しないと思えること、
ビットコインでなくても、海外で買い物をするときに使える決済サービスとして普通の通貨を用いつつ今までの決済手数料よりも安くまた簡単にできるサービスが続々と生まれてきていること(PayPalはまだ手数料が高いと思うけど)、
日本はMt.Goxで冷や水を浴びたせいかどうかは知らないが、米国にはるかに後れを取っているように見えること、
今のところ、ビットコインが欲しければ海外の取引所で口座を開いて取引するか、直接だれからから譲り受けるかしかないように見えること、
国内の取引決済でビットコインを使う需要は皆無だろうこと、


■投機性


投機的にやっている人は過去のチャートを見ると結構興奮するかもしれない。ビットコインは約2100万コインが発行上限と設計されている。これを破ることはできない。そのため、発行量が限界に向かって近づけば近づくほど相場は安定するとされている。私に言わせればビットコインに相場があることが理解不能である。ビットコイン自体には何の価値もない。参加者が1ビットコイン=260ドルで交換するよ、1ビットコイン=31720円(=260USDx122.00)で交換するよと言っているから、またそうした裏打ちがあるから投機家は安心してビットコイン同士を売買し合うことができている。仮に、ドルによる交換が禁止されたら、誰も買いたいとは思わないだろう。逆に、ビットコインでしか買えないものがあるとしたら、そしてそれは誰もが欲しがるものであったなら、ビットコインの価格は上昇するだろう。しかしながら世の中にそんなものは今のところ存在しない。ビットコインは単なる国家通貨同士の交換を代替補完する役割しか担えない。それもあえて必要ではない。

個人的にビットコインで興味を持てるのはあくまでもブロックチェインの暗号技術の部分だけである。今のビットコインは発行量が2100万(大体)と決めているがそれを外して、マイナーと呼ばれる誰でもなれる存在を登録制にして透明性をある程度担保する。コインを保有する人は必ず登録する。ビットウォレットに相当するものは必ず登録される。これは銀行の預金口座と同じくらいの意味のある存在にする。そうしたことをしないと匿名性と安全性の両方を担保できない。これによりそのコインが本物かどうかの保証と、それを今だれが持っているかの真偽を担保することができる土台になる。もしそれがうまくできたら、その仕組みはコインだけでなく、住民基本台帳や、企業の顧客データなど改ざん不能な形にデータの姿を変えて、パブリックネットワーク上を安全に行き交わせることができるようになるのかもしれない。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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