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尾関高のFXダイアリー

スワップポイントは業者に利益をもたらすのか

読者の方から以下のようなご質問をいただきました。真摯にご回答させていただきます。


ご質問要約: 
FXダイアリーをいつも楽しく読ませていただいております。FX会社(証券会社)が『スワップポイント』をどのようなモデルを使い収益源としているのかをテーマとして取り上げていただけないでしょうか。
スプレッド(手数料)やカバー取引の巧拙がFX会社が収益源となっている事はこれまでのコラムで何度も取り上げられていましたが、従前より?スワップポイントがFX会社の収益に貢献しているのか??スワップポイントの決まり方や管理手法(アルゴリズム)はどのようになっているのか?について疑問に感じておりまして、この度要望させていただく次第です。

回答: 
ご質問の視点のレベルは高い。しかし、実際の運用のレベルはさほどでもない。顧客に付与するスワップ金利の源泉はおっしゃる通り業者がCP側と行うスワップ取引から生まれる。近年のその運用はほぼ100%トモネ市場を使って行われている。しかし、私がやっていたころは、対顧客でもつキャリーポジションの底溜り部分が安定していればその分はなるべく有利なマーケット(たとえばOneWeekとかOneMonthとか)を使って運用していた。たとえば、対顧客のドル円のポジションが日々500本を下らず、650本、700本、620本、という具合に推移しているならば、500本ぐらいは利回りのいいマーケットでロールしたいと思うのが普通である。

そこでトモネのマーケットが仲値ベースでディスカウント0.2だったとしたとき、月末超えの1週間物で、ディスカウント1.9だったとしよう。つまり1.9÷7days=平均0.27となりこっちのほうが有利である。そう判断すれば、底溜り分の500本はその1週間物でスワップを掛けて、残りの浮動分はトモネで実行する。そういう運用をかなり積極的にやっていたが、最近は、そうした能動的かつ攻撃的な運用をしている業者があるとは聞かない。その理由や背景としては、(1)CP側からもフォワードのテナーはトモネだけとか1週間だけとか与信の縛りがきつくなったり、(2)業者内部にそうしたフォワードマーケットの運用経験のある人がいなかったり、(3)あるいは利用するFXのシステム自体がそうしたイレギュラーな運用を前提としないためそうした取引をインプットできないからやらない、など理由はいろいろと考えら得る。


さらに上記のアクティブ運用は、日々対顧のポジションが対CPで100%かほぼ100%カバーされている場合を前提とするやり方であり、対顧のポジションの一部分しかCPでカバーしないまま日をまたぐ運用をする業者の場合、対顧ではロングなのに、対CPではショートということだってありうるだろうし、そこまで極端でなくとも、対顧で500本ショートで、対CPで200本ロングの場合、客に支払うスワップ500本分をCPから手に入れようとしてもそれはできないといった事象が発生する(※)。その場合、不足分の300本は自腹で客に払うことになる。
※単に取引としては可能だが、経済合理性がない。


さてここでご質問への回答に入っていく。まずスワップの収益のモデルは、アルゴリズムというほどのものではない。これは単純に、対顧のスワップ対象ネットポジションと対CPでもつスワップ対象ポジションが同じであるとして、その額をAmt1としよう。対顧については、その額はグロス(買い持ちと売り持ち別々)となり、客のロングをAmtLong, 客のショートをAmtShortとしよう。ここで、ドル円を想定して、客はロング300で単価10円もらい、ショート200で単価12円払うとしよう。対CPではフルカバーしているのでネットポジションは100ロングとなる。かつ、対CPでおこなったスワップで得た計算上の利益は単価で11円だったとする。
利益の計算式は=AmtLong(300) x単価(-10)+AmtShort(200) x単価(+12)+ Amt1(100) x単価(11)=-3000+2400+1100
=1700


対顧スワップにおいて、ロングとショートでのスプレッドをワイドにすればするほど上記の式でいうところの3000と2400の差が開き、その繰越ポジションの売りと買い同額分が利益になる。これを私は“あんこ”と呼んでいる。仮に、客のロングとショートが同じ額であったとき、対CPのポジションはスクエアということになるのでスワップするポジションがない。それでも対顧客のスワップはロングに10円支払、ショートに12円受取にすれば1単位当たり2円が利益になる。
TFXはこのあんこを放棄しているし、近年低金利時代になってからというものほとんどスワップで稼ぐ人を当てにしていない。みたところ、ドル円やユーロ円、ユーロドルといった取引高の高い、通貨ペアのスワップスプレッドは“せま〜く”して、時にほぼゼロにして、それ以外の通貨ペアではまあまあ利益が出るようなスプレッドにしているようにも見える。
一方、明らかにインターバンクの中心値からずれた単価を出しているところも見たことがある。滅多に相場の中心値は動かないと過信していると痛い目にあう、と言いたいが、それはサイズ次第で、大して痛くもないかもしれないし、客引き目的であえて逆ザヤをやっているということもある。そういう業者にとってスワップ金利は、スーパーの特売卵みたいなものかもしれない。


結論的に、昔私がやっている頃は、スポットのディーリング収益の約1%程度相当分がスワップからの利益だったが、その時のドル円のスワップ単価は今の10倍はあった。今はたぶん0.1%未満だろうと思う反面、スポットの収益力(限界利益率)も下がったので意外と比率は変わらず1%分ぐらいかもしれない。その辺の具体的な数字に関しては今の私は情報を持たない。いずれにしても個人的な感覚として、近年はスワップディーリングから得られる収益は全体の収益にほとんど影響を及ぼさないレベルになっていると思っている。日米の短期金利差が昔のように3%とか5%に上がれば、もっと真面目にスワップディーリングの機能を充実させるだろうが、今の市場レベルでは、そこまで気合を入れるだけの価値が見えないというのが実態だろうか。現実的には、スプレッド競争をする業者はスワップの収益はあてにしていないように見える。場合によっては客寄せのため赤字で出しているときもあるように見える。そうなるとその赤字は実質広告宣伝費である。


以下余談。

ちなみにディーラーが上述のようなテナー(Tenor)を考慮したアクティブファンディング(ファンディング=ポジションの繰越)をしようとおもったら、一応、オフショアの代表かつ基礎的マーケットであるデポ、フォワード、スポットの三つの関係についてわかっていてほしい。
また、スワップの源泉となる市場、フォワードマーケットが数時間のうちに数十倍に上がり、そしてすぐに数倍まで下がるということも経験している私としては、今業界で当たり前になった、小売りをしてから仕入れるという順番の仕様に若干の抵抗感はある。

たとえば、今日火曜日の朝、取引日が変わった7時過ぎに口座を見ると昨日から繰り越したポジションに20円スワップがついていたとする。それは理論上、水曜の受渡日が木曜に移った(つまり金利市場でオーバーナイトの運用がおこなわれた)ことによって得られる金利差金である。このとき実際その20円の源泉となる取引をディーリングデスクはまだしていない。かれらは一般に火曜の朝8時〜10時ぐらいの間に前日から繰り越したネットポジションを計算してCPとスワップの取引を行う。この時、相場が動く可能性がある。朝一番に客につけていた20円は昨日の水準である。今日突然インターバンクのフォワード市場が混乱して、300円になったとする。この時、ディーリングデスクは、先に顧客に20円をあげてその後、300を手に入れたということでおもいきり儲かったことになるが、客にしてみれば本来10倍以上もらえて然りのはずが、そうならないという不満は残る。逆は逆でまた起きうる。スポットはインターバンクの数値からあまり乖離してはいけないというソフトな指導があるのならスワップの水準にもそれは当てはまるのかという疑問はずっとあるが、この点にまで当局や協会の注意は及んでいないようにも見える。

ちなみに客に先にスワップを付与してからCPとスワップ取引するというのは、さんまの小売りをしてから築地に仕入れに行くようなもので、市場リスクが高いがそれでもそうする理由は、システム上、日中にスワップを付与するバッチを回すのが気持ちよくないという理由が大きい。取引日が更新されるタイミングで実施される日次バッチ内でスワップ付与をするのが安心なやり方であるのと、投資家から見ても、バッチ処理が終わってログインすると当日分のスワップがついているほうが見た目わかりやすい。そういう理由で仕入れと小売りの順番が逆転している。私が始めた2000年ごろは、ちゃんとインターバンクでスワップ取引をした時の約定数値をもとに、客のスワップの単価を決めて、そのバッチを日中、早くて午前10時ごろから回していたが、システムを変えるタイミングで日締めのバッチに移行した。今やみなそうしている。

TFXは取引所なので、スワップの鞘をとることはいけないと考えてのチョイスプラスだと理解しているが、それはTFX固有の特殊な話。SGX(かつてのSIMEX)がDeferred Spotを上場していたころはスワップの鞘はとっていた。取引所だからと言ってチョイスにしなくてはならないという法律があるわけでない。

結局、スワップとスポットどちらで得とる?というだけの話で、理論的な合理性とか整合性とか、ましてやご質問のようなアルゴリズムなどは関係なく、およそどんぶり勘定でやって、ずれた分足が出た分は広告宣伝費だと思って飲み込むというのが大方の運用方針ではないだろうか。しかし、そういう軽い扱いができるのは低金利時代の今であって、日米欧の短期金利差が5%以上にもどったらそういうことはやっていられないだろう。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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