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尾関高のFXダイアリー

特許と外為証拠金取引

めんどくさいので避けていたが、あちこちから、ちらほらと意見を求められることが増えたので、ここで私の意見をのべさせていただこうと思う。

 特許を申請する権利は誰にでもある。それは我々の当然の権利である。問題は特許として認められるためにはどういう条件が必要かということと、その条件は時代とともに変わるということと、それら条件とその変化が透明ではないし、輪郭もはっきりしないため、素人にはわかりづらいことである。

 私がH証券でFXを始めて間もなく、たしか1999年だったと思うが、電話取引からWEBシステム化するためにFNXというアメリカのシステム会社に依頼して開発を開始した。その時に実装した発注仕様としてイフダンはいくらでも連鎖できるようにした。つまり、Aが約定したら、Bを自動的に発注し、Bが約定したら自動的にCを発注し、Cが・・・というように際限なくIfDone-Thenをつなげることができるようにした。
むろん当時特許申請など考えたこともない。なぜなら、そもそも金融取引に特許はなじまないと考えていたからに他ならない。指値を考え出した人、逆指値を考え出した人、CFDを考え出した人(イギリス人)、歴史的にだれもそれを主張してこなかった。

醜聞であるが、我慢していただきたい。本論の流れ上あえて書くことにする。私も日本で初めて外為証拠金取引を開始しただけに日本初とか世界初というものがある。注文の有効期限でGTDHを世界で初めて実装したのは、私が知る限りでは、私である。週末というのもそうかもしれない。当時はDAYとGTCだけだったとおもう(違っていたらすいません)。ポジションにスワップを付帯させ、決済と同時にポジションと一緒に実現損益とする仕様を世界で最初に始めたのも、私が確認する限りでは、私である(これも違っていたらすいません)。他にもある。定率法の証拠金方式を日本で最初にはじめたこと。PBスキームの日本で最初の導入、などなど。

今振り返れば、これらの中でひょっとしたら特許が取れたかもしれないというものもちらほらある。しかしそれを取ろうという議論は当時の私の頭にはなかった。せいぜい「マージンFX」とか「外国為替証拠金取引」という名称を商標登録しようかと考えたぐらいである(前者はとったが、とらなかった方が一般名詞化した・・・(皮肉な))。

金融取引はまさに取引行為であってそれ自体が人間の生活にインパクトをもたらすようなインフラ部分を形成しない。たとえば、カラオケを発明した人は特許を取り忘れたが、カラオケは確実にその国の人々のライフスタイルの中に入り込み影響を与えている。フロッピーディスクを発明したドクターN、青色ダイオード等々、“モノ”や、サービスにおける発明は当然特許としての輪郭がわかりやすい。ところが金融のそれまた「取引手法」となるとその輪郭はあいまいすぎるし、社会インフラとしてのインパクトがなさすぎる。社会資本としての価値をもっているとはとうてい思えない。
また、特許権による発明者の権利を保護し、その研究・開発コストを掛けるリスクに見合うだけの報酬を一定期間独占権という形で守るという思想から言えば、金融取引における発注方法など、いかほどの研究開発コストだっただろうか。平たく言えば、そういうものに特許を取ろうとするということにおこがましさを感じていたから、取ろうとしなかった。

いったい金融商品の発注方式における特許として認められうる価値基準はどの要素に対して与えられたのだろう。与えてはいけないという言う意味ではなく、単に好奇心として特許庁がこれに特許を認めると判断したコアとなる基準とか条件を知りたいという思いはある。

こうした機能の要素を私なりに分解すると、
1)発注方法自体は昔から一般的にある手法である。
パーツごとに分解すれば、結局発注⇒約定の仕方(Method of Market Entry)は、「指値」と「成行」しかない。ストリーミングオーダーは許容スリッページの範囲での指値であり、その範囲自体が指値である。強制ロスカットは成行である。要するに値段を一つだけ指定するか、レンジとして指定するか、あるいはまったくしないかの違いしかない。

2)それを『連続』して、『自動的』に、『多数の注文』を『一気』に発注するか、『繰り返し』発注するかという仕組みである。こういう注文を総称して英語でContingent Orderと言ったりするが、それはつまり『状況、条件に応じて発動される注文』ということである。そういう風に概念を抽象化して表現すれば、上述の通り私はすでに1999年あたりに実際に顧客に提供していた事実が(実際それを多用した客を見た記憶はないが)ある。一回だけ連続して注文するのがイフダンと呼ばれる注文タイプ。そしてそれは自動的に何度でも繰り返しうる。需要さえあればどの業者のシステムでも簡単に繰り返しを無限にすることができる機能である。

3)特許申請時点において、申請者以外で、同様もしくは酷似した当該商品等が社会一般に普及していないこと。
酷似なのか類似なのか、法律的にどうかは知らないが、その辺の“似ている似ていない”的な水掛け論の温床である。

4)その機能(仕様)を実現するコンピュータシステムでの開発が完了している。そのプログラムコードが“モノ”として認識されうる状態である。

こうして特許申請対象の中身を分解した時に、これらの要素のどの部分が該当したがゆえに特許として認められたという理解をすることで、当該特許に抵触しないで、結果的にそれと類似した商品やサービスを作ることができるのだが、今のところ私にはそういうことがよくわかっていない。今回の特許の対象の、『特許としての本質』がどこにあるのか。特許申請した書類を取り寄せて熟読するということをまだしていないので、何とも言えない。

誤解されそうなので繰り返し強調するが、特許を申請する権利は万民に等しくある。大事なのは、それを認める側の基準であり、その“基準”の合理性や、透明性、そして社会性ではないだろうか。

素人なので、よくわかっていないだけかもしれないが、個人的な印象として、金融商品を取引する仕様、手法、ロジックに特許が認められたというのは青天の霹靂であった。この手の仕様で特許が取れるなら、いくらでも考え付く。医薬品や発光ダイオードのような基礎研究と違って、研究開発費もかからない。しかし、つまるところ自分の中で問題になるのが、それで権利を囲って、客を独り占めして喜べるほど、独り占めできる客がたくさん来るほど魅力的かどうか、独り占めした結果、そんなに儲かるかどうか、という疑問である。間違っても青色ダイオードのようなことにはならないと確信するわけで、そういう疑問が結局、自分自身の特許申請するモチベーションを萎えさせるのである。それに打ち勝って、特許庁の門をたたいた者に、神は多少微笑んだということだろうか。

いろいろ考えをめぐらしては見るものの、正直外為証拠金取引業界が抱える問題としては、相対的には矮小なテーマである。今のところ私としてはそういう受け止め方でしか見ていない。ついでに言うが、日本人が始めたハイローバイナリーなどは、間違いなく特許を申請するだけの意味があっただろうにと思う。だからと言って特許がとれたかどうかは知らないが、こっちのほうがよっぽど個性的である。

まとまった暇が見つかったら金融x特許をテーマに勉強してみようと思います。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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