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尾関高のFXダイアリー

懸念の一つだった「スイス」がはやばやと火を噴きました

東京時間午後6時半。SNB(スイス中銀)が上限を撤廃した。対ユーロで1.2のレートを守るべく昨年末から預金金利をマイナス0.25%まで引き下げるなど、必死の防衛戦線を張っていたのだが、ユーロの「量的緩和するに違いないぞ」的なムードのなか、その発表の1週間前の昨日、お先にとばかりに、防衛戦線を解除したわけである。その結果、18:30から18:40の間、ほとんどのマーケットでEURCHFのレートは“消えた”ように見える。この間、1.2で“終わった”レートが、18:40に復活した時には、0.9628あたりになっており、さらに、18:42には、0.7592、18:46には0.7495となり、その後19:08には、1.0428あたりで安定している(from NetDania)。同時に金利は0.25%から1.25%までマイナス金利幅が拡大された。

さて、経済教室的な話は他のエコノミストに譲るとして、私の立ち位置からの「何が起きたか」を見て見よう。当然ながら、EURCHFは上記の時間約5〜10分間はインターバンクから消えたと考える。一方その間も他のCHFがらみの通貨ペアの配信はされ続けていたかもしれない。それはなぜかと言えば、USDJPY(ドル円)とUSDCHF(ドルスイス)が生きている限り、CHFJPY(スイス円)も動き続けるからである。しかしながら、インターバンクのディーラー(あるいはその仕事をするシステム)にしてみれば、EURCHFというクロス通貨が震源地となってレートが消えるということはその間、CHFがらみの通貨ペアすべてにおいてレートを止めるべきであるという判断が当然される。そうなると、この18:30〜18:40の間にCHFJPYの約定があった人は、ラッキーかもしれないし逆かもしれないが、現象としては本来あるはずのない取引が成立したことになる。

システム化する前なら人間の判断で、CHFがらみのプライスクォート停止ということはすぐにできるが、システム化されてしまうと、なかなかそうはいかない。ましてやカバーできたら約定つけますというEEモデルでなくて、先に約定つけてしまうIEモデルだと、システムのプライスエンジンが普通に稼働している限り約定をつけてしまう。結果として、その時間帯で客に約定つけたレート近辺でCPカバーなどできるわけもなく、レートが復活した時には10%以上のレートの変動を喰らっていたことは想像に難くない。それが業者にとってラッキーなサイドだったとすると、反対の客は大損をしていたということで、私としてはどっちであってもお悔み申し上げるしかない。

こういう問題を回避する手立てはあるのか、という問いが聞こえてきそうだが、答えは明快である。

“ない”。


IEモデルでやる限りこのリスクは常に付きまとう。それが嫌ならEEモデルにするしかない。あるいはIEをしながらも、24時間スタッフを置いて、彼らを鍛錬し、相場の原理原則を教育して、どういうときにはどうするべきかという訓練を施すしかない。近年そういうことを教えられる経験者は少ない。80年代から90年代にかけてインターバンクの為替、金利の市場をやっていた人でないと教えられないだろう。

ちなみに今回のボラティリティは1990年からFX市場にいる私でも最大震度である。しかし幸いなのはこれがUSDで起きたわけではないということである。もしUSDで10分間で20%を超える相場変動があったらと想像すると3.11を超えるパニックが起きていただろう。

CHFというのは昔からこの手のリスクを抱えた通貨としてインターバンクではとらえられている。業者の人なら知っているかもしれないが、CPと与信契約するときのアネックスに証拠金計算におけるモデルの通貨ウェイトでCHFだけ1.2倍となっているのを見たことがある人もいるだろう。そう、CHFは常にそういうリスクを抱えている通貨だという“伝統”がある。マイナス金利も私が知る限り今回で2回目である。

こうした流動性の枯渇に対してはなすすべはない。これは絶対前提条件である。なにもFXに限ったことではなく株式市場のほうがその現象はもっと顕著である。「レートが消える」という現象は、私の経験でも、NYテロ、LTCMが最大で、あとはゴルバチョフ暗殺のデマが流れた時の記憶もすこしある(ほんの一瞬)。私が業者であるなら、G7通貨がらみでレートが消えるような現象が起きたら、あくまでも余計なリスクを食いにいかないという原則が通じるならば、その時点ですべての通貨のレート配信を停止する。今回でも、CHFのEURに対する行為が、USDへ、そしてJPY,GBPへ、そしてその他の通貨へと影響を与えていく。止めるのは一瞬でいい。ただしその一瞬に、業者の担当者は他の通貨ペアの動きを確認して再開して問題がないかどうかを即座に判断する能力が期待される(求められるとまでいうのは厳しいかと)。そういう能力がないといけないということではないが、今の本業界にはそういう人がいなくなっている点を危惧している(昔から言っていることである)。

サーバーの観点からも、2点ある。ひとつは何がバグレートであるかのロジックが破たんしやすい展開だったということ。もう一つは客のアクセスが集中したことによるサーバーダウンである。これはリテールFX業界だけでなく、インターバンクの銀行のサーバーにおいても起きていたようである。つまり、なすすべ無し、である。そういうことが起きないように普段からサーバーの能力を十分備えておけとは、いう方はラクだが、やるほうはそのコストをだれが面倒見るんだということになる。想定するリスクシナリオを増やせば増やすほどシステム運用コストは上がっていく。今回のような4シグマのさらに外側にあるようなリスクに対して普段から準備しておくというところは銀行にも、リテールFX業界にもないと思われる。ただ、たとえシステムとして万全だったとしても肝心のレートが入ってこなければどうにもならないし、今回のように、EURCHFのレートが消えたときに、たとえばドル円の117.50は業者としては“本物なのか”、という判断と、CPとしては“出してもいいのか”という判断をしなくてはならなくなるが、その正解などどこにもないのである。

やっぱり今年もボラは高そうだ。気を付けたいのはボラが高いことではなくて、“喪失”することである。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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