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尾関高のFXダイアリー

ビットコイン(後篇)

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■金(キン)との違い


金は、装飾品としての需要と、半導体を基盤に接続するための導線としての需要など、あらゆる産業分野で使われる。金よりも伝導率が高く(電子が通過するときに熱を発生しない)、さびない物質が化合物として製造できる技術が開発されたりすれば当然金価格は暴落するだろうが、今のところ金(Au)の地位はゆるぎない。

ビットコインにはそうした物質的な需要を求める可能性がない。あくまでも仮想コインである。そうでありながら、物としての意義を問うとなると、つまりどういう魅力があるのかが問われる。今のところ、国際通貨間決済と投機的魅力以外想像はつかない。個人的には、決済手段としての価値以外は見いだせない。


■国際間での決済手段としての価値(ストックとフローの観点)


若干私のテリトリーに引き込んだ話である。アメリカのネットショップでビットコイン決済ができるからビットコインを取引所で買ってそれを使って決済をした。その結果、クレジットカードでやった場合とで比較すると、ドル円の交換レートと別途チャージされる為替手数料が発生するクレジットカードのほうが結果的に使った円の額でみるとやはりビットコインのほうが安かった、という書き込みを見ることがあるが、これは一つ気にするべき点が抜けている。クレジットカードの決済はその売買が行われた後の為替相場を利用して交換レートがクレジットカード会社側の任意で決まる。一方ビットコインは、すでにそれをもっているかもしれない。つまり、決済代金について前者はフローで処理され、後者はストックで処理され(う)る。なのでそれらのコスト比較がそもそも難しいのである。

これから円安になるぞと思えば、先にビットコインを買い込んでおく、という防衛手段をとれるので、ビットコインはその点ストックとしての扱いができるから便利である。では同様な効果を通貨で出せるかといえば出せるような時代になってきている。たとえばマネーパートナーズは、取引口座でデリバリーした通貨残高をクレジットカードでダイレクトに決済に使える。つまり、上述のクレジットカードは商取引が終わった後のレートが適用されるという大原則に対して、今や、あらかじめ将来使うであろう通貨の残高をより有利なレートを相場を見ながら見極めて自己責任でその通貨資産を取得しておくという行為が可能になりつつある。マネパだけでなく、シティバンクのマルチ通貨や、他の邦銀でも多通貨の残高の保有が可能になりつつある。あと一歩といえるのは、マネパのように、取引口座(銀行なら預金口座)の多通貨通貨残高をダイレクトにクレジットカードで決済に使える仕組みが一般化していないことである。


日本でビットコインが使えるお店は、
http://jpbitcoin.com/shops
みたいなサイトを見ればある程度検索することは可能だが、むろん国内でそれを使う人はまずいないだろう。国際間決済で使うことに意味がある。

クレジットカードはリスクが大きいというが、適切な初動処置をすれば原則被害はカード会社が持ってくれるので、あまり心配はしていない。


■究極のマルチ通貨サービス


預金口座と取引口座が連動することである。住信SBI銀行などは、これを「ハイブリッド口座」という名前で呼んでいる。取引口座も預金口座もマルチ通貨決済できること。両者口座間で24時間自由に振替ができること。マルチ預金口座を決済口座としたクレジットカードを発行できること。そのクレジットカードのルールは、決済通貨がドルなら、まず決済指定されている普通預金口座の同じ通貨の残高から決済に使用していくというルールを提供し、その通貨残高を使い切ったら、マーケットレートプラス手数料分のスプレッドを乗せて(それは通常ドル円なら1円とか2円のっかる)指定した通貨順番で決済を繰り返す。普通当該通貨残高がなくなればあとはマザー通貨(=日本ら円となる)で残額を決済する。こういうサービスが出たら完璧だと思う。少なくとも決済目的でビットコインを欲しがる動機は消える。


■取引所の信頼


Mt.Goxの事件のようなことが起きる可能性は以前から指摘されていた。それが事実となった今、取引所の信用性というものをどう担保するかが大きな課題になる。ビットコインそのものをどこかの国の施政下に置くことは不可能であるとしても、取引所の経営、財務内容を管理監督することは、法人としての取引所を施政下に置くことで、十分対応可能である。そのために、日本を例にとれば、この取引所はどの省が管轄すべきかという議論になる。金融庁か、経産省か、あるいは警察庁かという議論をネット上で読むことがあるが、利用者から見ればどこでもいい。対応が必要になるのは、財務諸表の公開義務(上場していなくても金商登録をすれば開示義務は生まれる)と、臨店検査権限(証券監視会や金融庁)、ネット技術に関する監査権限(これも金商法や取引所法で対応できるか?)、罰則規定等であるが、これらが一番なじみそうなのは、やはり金融庁じゃないのかなと思う。何せ取引所法しか今のところ使えそうな法律はない。それを持つのは金融庁(金商法)と経産省(商品取引所法)ぐらいしか思いつかない。間違っても賭博法(警視庁)ではない。正直この辺の議論(持論)には自信はない。


■安全性と匿名性


最後に安全性について。ビットコインを買ってそれをとりあえず保管するときそれは自分のパソコンの中に保管することになる。当然そこには鍵をかけておかないと他人が盗む可能性もある。ビットコインには所有者は明記されないので、裏書のない株券と同じ。盗んだ人がそれをほかの誰かに売ってもばれない。匿名性の短所である。

また、取引所で交換してそのまま取引所においておくと安全かというと、Mt.Goxでそうしていた人は手痛い目にあっている。自分のコインにひとつひとつ自分の名前を書けないそれを保管する口座(ネット上にいろいろあるが)も法的には誰も保証はしてくれない。結局自分のパソコンにしまうのが一番となる。ただしそのパソコンが壊れたりしたら、再現不能となるし、不要にネットにつなぎっぱなしにしておくと盗まれるかもしれない。いわばタンス預金していたお金が家事で焼けてしまったり、空き巣に入られたようなものである。お札なら半分以上燃え残れば日銀は交換してくれるが、そういう“保証”や“補償”がビットコインには一切ない。

あとは、ブロックチェインの問題が大きい。この仕組みにどうにか透明性を持たせたり、すべての参加者は善意がある、もしくは欲にかられても競争による合理性と公正性という微妙な担保をもう少しキレいにすっきりさせてくれる追加技術はないのかと思う。


■まとめ


ビットコインは、とても自由な決済手段であるが、その分安全性においてはいろんな意味で極めて脆弱な代物だという印象はぬぐえない。とてもド素人が扱える代物ではない。すくなくとも私にはこれに手を出す需要がないし、自分の技量でビットコインと安全に付き合う自信がない。ペイパルで十分である。

決済手段として検討するなら、総合的に判断してクレジットカードと、ペイパルぐらいで十分である。ビットコイン相場の投機的醍醐味を楽しみたい人はリスクテイカーなので、逆に安全性など、はなから期待していない人たちだと思っている。彼らには何の保護も必要ない。

当局(どこがという話はさておいて)的目線でいえば、上記の理由からビットコインそのものを真面目にコントロールしようとか考えるのは時間と税金の無駄だと思う。唯一この『国際的決済ツール』の規制に大義があるとすれば、それは上記の匿名性からくる最大の問題でもある、マネーロンダリング(国際的不正送金含む)に使われるリスクへの対応である。しかし、これとて本来の国家通貨においていくらでもマネロンは横行しており、まずはそっちからどうにかしないといけない。優先順位としては低い。あとは上でもふれたように、取引所法の適用を義務付け、取引所の金の流れを透明にして、いかがわしい計画倒産まがいの事件や収賄事件が起きないようにすることぐらいであるが、これもキレのいい解決策があるようには見えない。


技術的な目線で見れば、ビットコインは“コイン”と称するからイメージややこしくなるのであって、あたかも通貨のようなイメージがかぶってしまうが、要するに“ポイント”であり、仕組み全体から見ればそれはポイントの“記録台帳”であると考える。そしてそれが、投機的需要によって交換価値が変動する。どの国の通貨にもペッグしていない。たとえばTポイントが1ポイント=1円です、と言ったらこれは1:1で日本円にペッグした地域通貨である。ビットコインはどの国の通貨にもペッグしない。そういう意味で自由だ。なのでいくらでも暴走するし、誰かの悪意によって相場操縦は可能となる。

私としては今のところ、そうした通貨や決済手段としての価値よりも、そこに使われる技術のほうが興味深い。一つのコインがいかにして生まれるか、そして生まれた後、そのお金がどういう経路で譲渡されてきたかがわかり、それが本物か偽造かを認証する技術理論はとても面白い。たとえて言えば、今1グラムの金貨を手にした時に、裏側を顕微鏡で見ると、そのコインがいつ、だれから誰に渡り歩いてきたかがコードとして書かれているとする。誰というのは世界中の中の実在する人物の名前ではない。あくまでもコード値だけである。しかしそれをたどることで、確かにそういうコードからコードを渡り歩いたという歴史が記載されているし、そのレコードはそのコインにあるのではなく、世界中の不特定多数の人たちが共有していて、必要に応じて彼らに確認を求めることができるのである。なので、偽物が生まれない、あるいは偽物かどうかがすぐに(せいぜい10分程度で)わかる。この技法で担保される情報が、人間というエンティティ情報である住民基本台帳の概念とリンクしたらどういうことになるか。あるいは、パブリッククラウドの欠点を補う手法として使えないだろうか。そういうことを考え出すと、どっちかというとつまらないなと思っていたビットコインもがぜん興味がわいてくる。

そう考える私にとってビットコインは、コインではなくて、ビットブック(台帳)である。


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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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