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尾関高のFXダイアリー

ビットコイン(前篇)

今年は世間を騒がせたビットコインだが一般の人にとっては「何だそれ?」う感じだろう。日本のビットコイン取引所であったMt.Goxが倒れて、その後粉飾疑惑はどうなったのだろう。また米国当局に差し押さえられた資産はどうなったのだろう。損失を被った投資家は多少なりともお金は返ってきたのだろうか。

私はこの手の専門家ではないので持っている知識は普通の人と変わらない。ネットで検索して出てくる程度の情報を超える情報は手元にない。しいて言えばこられを専門に研究している人のお話や論文を読むぐらいのものであるが、当然ながら難解である。


■通貨かモノかの不毛な議論


この点まぎれもなくお金というよりはモノである。しかしお金かモノかという議論は議論の目的ではなく、あくまでも実態を正確に理解するうえでの手段である。AかBしかそのグループにおいてはなかった環境に、AかBかよくわからない、どちらの性格も持ち合わせながらどちらでもないというものがそのグル―プに放り込まれた時、意識するのはそにグループで通用していたパラダイムが依然として有効かどうかである。法律がある場合その法律が適応可能かどうかが問われるし、適応できない場合、野放図にしておいて問題があるかないかが議論されなければならない。当然様子を見る観察期間は必要だろうが、その時間はもう十分使ったという感じがする。


通貨にはそれを発行する中央銀行がある。中央銀行は発行する通貨の市場流通量を制御する方法を持っている。この定義だけを見れば、ビットコインが我々が俗にいう「通貨」ではないというのは明白である。
もうひとつ通貨の機能として、決済という機能がある。ビットコインは決済ツールとして使われる。つまり、決済機能は通貨独占の機能ではないということである。たとえば、金(キン)もそうだし、コンビニでたまるTポイントもそうである。決済相手(お店)が限定されているかいないかの違いを無視すれば、ヤマダ電機のポイントも決済手段のツールである。これらは100%日本円に1:1でペッグしている点が重要である。ただし有効期限があると、その時点で“没収”される。これらを提供する会社は発行している分のポイントを円の価値として「未払い金」等の資産負債勘定を建てている。そのため、実体経済として、こうしたローカル通貨はほぼ円と同意義の価値を持つ。よって補助貨幣、通貨=円の一部であるともいえる。

逆に決済手段という機能以外で通貨が持つ機能は何なのか。それはその通貨が流通する国のインフレをコントロールする機能である。これは金利との共同作業で実現されるその通貨の持つ“力”であるが、こういう仕掛けがビットコインのような仮想通貨にはない。そもそもこれを“コイン”と名付けたところに面倒な誤解が生まれているように思える。



■発掘コスト


手元にある資料、『暗号通貨の可能性と課題』(第39回法とコンピュータ学会研究会、早稲田大学ビジネススクール 岩村充教授)によれば、


マイニング産業の総収入として、コイン一個の時価が今400ドルであったとして、
400ドルx25個(Validation競争1回あたりのコイン発行数)x144回(一日のValidation競争回数)=約144万ドル
これに対して、
一日当たりの取引件数=7万件
ということで、ビットコイン1取引当たりの資源消費量は、
144万ドル÷7万件=20.5ドル

となるそうである。

大石哲之(おおいしてつゆき)氏によると、
http://nomad-ken.com/2611
『2014/01/08 - ビットコインの取引所の大手3つ(Mt.Gox, Bitstamp, btc-e)の一日のUSD建ての取引の出来高は、11万8000枚ほどです』『ビットコインは現在1200万枚が流通している』

そうである。


■発掘費用の価格への転嫁


こうしたマイニング費用が価格に転嫁され取引される(=コストが上乗せ譲渡される)のも“モノ”としての特徴である。中央銀行が刷る紙幣にも“印刷代”と“紙代”がかかるがそれは通貨の価値には乗らない。ちなみに1万円札は製造コスト27円だそうである。

通貨であれば中央銀行はその流通量を増やしたり減らしたりすることができる(今日銀はじゃぶじゃぶに円の供給量を増やしまくっている)が、ビットコインはそういう国家の恣意が働かず、一方的に増え続け、やがて打ち止めになる(仮想通貨もいろいろあり上限が決まっていないものもある)。そのデフレ体質に打ち勝つだけの需要がなければ価格、すなわち他の本当の通貨建ての価値はあがらない。


一応念のため加筆するが、ここでいうマイニングは新たな金鉱脈を発掘するイメージというよりは、ブロックチェインの証明・認証行為を行うことに貢献する人に対して報酬として支払われる対価(ビットコイン)である。これは新規に発行される。この報酬として支払われたビットコインも当然一般のそれ同様に供給量の一部となる。よってこれを指して発掘という。ここでのポイントは、新規に発行され続ける(緩和できる)が、逆に流通量が吸収されない(引き締めがない)ということと、その数、発行量には上限がああるということである。


■バリデーション競争に参加できるのは一部のマニアなマイナー(miner、採掘者)だけ


誰でもその気になればマイナー(発掘者)になれるが、そのためのITの知識を得るには結構なお勉強が必要になるし、発掘率を上げたいと思えば、それなりのハイスピードなスペックのパソコンが欲しくなる(必要だ、とは言っていない)。要するにド素人ではとてもできない。


■悪貨の可能性


偽造するためには、一つ一つのコインがもつ履歴を詐称しなければならない。そのためには、世界中の発掘者が持つ過去の“印”を追いかけて、実在する“印”を取り出して偽造する必要があるがそれを一人のパソコンでやると一年かかるという話である。私のような素人が説明するのもおこがましいが、簡単に言えば、一つのコインに対して世界中の複数のマイナーがそのコインの戸籍謄本を持っていると思えばいい。なので、一人が偽造しても、毎回彼らマイナーに照会が行われ、世界中の半数以上のマイナーが、“それは正しい”と言わないと、そのコインはだれとも交換できなくなる、、、、らしい。そしてそういう詐欺行為は、世界中のマイナーの2分の1以上のマイニング容量を自分の支配下に置かないとできない。さらに、それを実現するコストは、まじめにマイニングするコストよりもはるかに高くつく=経済合理性が破たんしている。だ・か・ら、現実的には不可能である。だから悪化は生まれない。そういう理屈だと理解している。つまり絶対値として不可能ではなくて、現実的に不可能だと言っている。ではそれにチャレンジする輩がでてこないのか、と疑問に思うかもしれないが、そういう意味ではほぼ悪化偽造の可能性はつぶされているという見解は納得できる。唯一の可能性はそういう経済合理性を無視したテロリズムだけとなる。


■供給量は日々じわじわ増えるが、いづれは枯れる。


最初から埋蔵量は決まっている。誰が一番多く採掘できるかにかかっている。金(キン)は、どこまで行ってもほりつくしたとは言えない。それはあくまでも今の採掘技術力をもってしては限界だとはいえるが、将来的にさらに深く掘り進むことができるとか、海底でも掘る技術が経済合理的に確立すればまた金の発掘可能埋蔵量が推定され、それが情報として世界に流布されることで、金の価値は下がる可能性がある。原油も同じことである。


Hatenaから検索してこういう記事を見つけた。


Evolution of Means of Payment
http://d.hatena.ne.jp/syncn/20130416/1366121458

『Bitcoin自体はマイニング以外の行為から生成されることはありません。現在から2017年までは1ブロックを生成した時の報酬は25 Bitcoinです。その後4年ごとに報酬は半減していき2140年までに合計2100万 Bitcoinが生成されその後一切新しいBitcoinが生まれることはありません。これは何を意味するかというとBitcoinは本質的にデフレ経済モデルの通貨なのです。』

ほっとけばデフレする通貨なので需給バランスが一定であるとすれば理論的には、価格はどの通貨に対しても下がる(ビットコイン安ドル高という意味)はずだが、最近の中国の例でも分かるように過剰に投機対象になるととんでもないインフレ(価格上昇)を起こす。それは金が1700ドルを超えるのと同期するかのような上昇を目の当たりにした。明らかに中国マネーが雪崩をうって流れ込んだと思われる。それがいったんひいてしまえば、金の価格が下がるようにビットコインの価格も下がる。
わかりやすく通貨ペア記号に置き換えるてみる。ここではビットコインの記号を”BTC”とする。通貨記号には、USDを左側に置くアメリカンタイプと、右側に置くヨーロピアンがある。前者が、USDCAD、USDJPYとかで、後者がAUDUSD、EURUSDとかである。ビットコインはすでにスタイルとしてヨーロピアンである。記せば、BTCUSD、BTCJPY,BTCEURで取引されている。珍しくEURを下に見ているが、これは金(XAU)と同じことであり、コモディティとして見ているということの一つの証でもある。

なので、ビットコイン高円安の場合はBTCJPYのチャートは上昇する。ドル円でドル高(円安)を言うときと同じことである。

究極的にビットコイン相場が固定化されるとしよう。そうなると、USDJPY=120.00の時、BTCUSDがたとえば、400ドルだったとしよう。そうすると、逆算すると、BTCJPY=48,000円となる。つまり、この3者間で裁定が働くことになる。ならばわざわざビットコインを介在させる必要があるか、というと、その価値は、ビットコインで海外送金するほうがクレジットカードやペイパルより手数料が安いという動機だけになる。もしくは無記名である、匿名性があるという点での便利さがあるが、これはマネロン犯罪の温床でもある。個人的には、流通量さえ一定になるなら、この裁定が働いてもいいと思っている。それでも相場を変動させる要素は決済コストとしての他の通貨との相対的優位性にあると思う。それすら大した差ではなくなりつつあるのではないだろうか。

(後編に続く)


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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