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尾関高のFXダイアリー

金先協会の会報No.102を読もう

金先協会の会報 平成26年10月号がウェブに掲載されている。本協会が出してくれる情報はいつもかなりマニアックで好きである。マニアックゆえにとっつきにくい面もあるかもしれないが、業界人ならそうでもない。では、今号を読みながら私なりに気になるところをつまみ食いしてみよう。

▼金融先物取引業協会・会報 平成26年10月 No.102(PDF)


■ビジネスモデルパターナライゼーション


かなりの細分化がされ、6パターンに分けられているが、個人的に注目するのは以下の2つ。

モデル1:約定判断自社(IE)、約定先付、複数のカバー先、最良レートで顧客レート生成
モデル6:約定判定外部(EE)、約定後付、カバー先は1社、カバー先レートが顧客レートソース

結局は、この2つのどちらかに収斂されていく。日本独自路線のモデル1と米国規制の制度対応を盛り込んだシステムをホワイトラベルで使うモデル6である。将来的に日本の規制当局が6のモデルへのすり寄りをしない限りは1がマジョリティであり続ける(意図的にほぼ断言口調)。そうであってほしい。どっちがいいかは一概には言えないが、これだけは言える。6のモデルにはビジネスを創造する余地がない。特に日本にはヘッジファンドもいない。そこが、6のモデルで突っ走れる米国とそうでない日本の違いである。そこんとこ私として強調しておきたい。アメリカでいいものが常に日本でもいいとは限らないという当たり前な話。モデル1のほうがGDPへの貢献度は高いはず。


■出来高別にみて・・


モデル1が上位、モデル6が下位。日本においては自社のシステムで約定をつけ、顧客のから放り込まれるポジションを適宜マリーしながらカバー先でヘッジし、顧客への配信レートは、契約CPからもらうレートからベストレート等を計算して生成するモデルである点が共通している。一方、取引高が少ない業者とは、上位の業者のようにシステム投資ができないところが多いので、自然とシステムはホワイトラベルになりがちで、そうであれば自然とCPはそのホワイトラベル提供業者のみとなる。

ここ5年ぐらいの傾向として、以前はホワイトラベルと言えば欧米系の数社だけだったものが、今や7社も国内業者のホワイトラベルを利用している。これは日本のシステムベンダーがそうした機能を充実させてきたことと、海外業者のシステムを使うことへの嫌悪感が要因・原因となっていると思う。以上のデータに意外性はない。


■プライムブローカー


50社ぐらいある中で、17社が使っている。まだ半分までは行かないが、複数CPを使うモデル1,3,5の合計が24+4+10=38社でその中の17社が使っているというのは大きな比率である。日本という狭い市場で、17社もPBを使ってやるだけの意味があるというのもすごい。間違いなくPB利用業者数でも日本は世界一である。このモデルは2001年ごろ私がひまわり証券時代にクレディアグリコルでやったのが第1号なのだが、そのときはここまで一般化するとは思っていなかった。PBフィーがかなり下がったことも拡大の要因であるし、信託義務化されてからバンクギャランティー(要するに与信)が必要になってくるとがぜんこのスキームが効果を発揮する。


■自動売買ツール提供


21社もある。印象としてはそれだけだが、最近の一方的な相場の流れでは、それまで有効だったシグナルはまずほとんど死滅しているだろうなと。まよわず110円台からロングしっぱなしの人が勝者である。だからといって廃りはしないモデルだとは思う。もっとEAが簡単にかける(easy languageとはいうもののそうそう簡単とは言えない)ようになったら、結構行くかも。カブコムが提供するようなシストレナビゲータのように最初はUIから選択しながら進んで行って、その後そのプログラムコードを自分で読んで理解して、じかにエディットするという流れができるとより学習スピードは上がるし、とっつきやすくなるが、今のところそれは見たことがない(MT4ってそういうUIありました?)。


■顧客へのAPI提供


これはホワイトラベルで提供する業者により、そのホワイトラベルの中にその機能がある場合がほとんどだろうと推測する。
APIを提供してもらえなくても、HTMLで画面提供すれば発注コマンド等等のAPIは丸見えなので、そのAPIをダイレクトにたたくことでほぼAPI提供されているのと同じことになる。最近そういう投資家が増えてきて、業者の間では頭の痛い問題になっている。こうしたツールのハッキングは違法ではないが、取引約款で“駄目よ”と書いてあれば、業者はその客を追い出す権利は保有している。しかしその事実をリモートで把握することは難しい。たしかに1秒間に10回連続して発注してきたら、そりゃAPIをプログラムでたたいているというのは明白であるが、だからといってAPI発注したという直接的な事実ではないので争うことになりがちである。よくウェブサイトで何かを登録するときやログインするときに写真画像にある数字を打ち込むことがあると思うが、これらもロボットエントリを防御するためにやっている。おんなじことを発注のたびに取引ユーザーにさせるわけにもいかない。頭が痛いかもしれないが、解決策は極めて単純である。それはまた別の機会にしよう。今日は会報を最後までなめるテーマなので。


■通貨オプション


もう10社もやっているんだ。びっくりした。これにはハイロー単品業者と海外系のいろいろ取り揃えたオプションが足されているのだろう。


■参考情報


51社中上位3社で取引高シェアが54%!上位10社で83%!
なんだかんだ言って、米国10社、日本も10社、である。


■外部流通量


対顧客取引高の40%がインターバンクへと流れ出ている。さて、このテーマについては一家言ある。スポット取引としてのインターバンクへの流通量が40%というのと、日をまたぐキャリーポジションは別である。

どの業者もほとんど日をまたいで客のポジションを持たないようにしている。それはつまり、顧客の建玉残高は100%インターバンクに出て行っているということになる。一日の中で日計り、デイトレ、HFTといった言葉に象徴される連中による膨大な取引高が生まれてもそれは市場の相場方向、モメンタムに与える影響は少ない。中長期的に市場の相場レベルを動かしていくのは、“キャリーポジション”である。取引所的な用語でいえばオープンインタレストである。それがどんどんと積みあがって行けば相場はそっちの方向へと動き出す。たとえ見た目動かなくても動かそうとする力としては働いていく。
建玉を見るためにはこの会報ではなくて協会ウェブサイトにある open_position_with_mc.xlsを見る。とてもありがたいことに建玉を通貨ペアごとではなく、通貨ごとにまとめてくれている。(ただし気になるのは、通貨単位にばらす前の通貨ペア単位でカウンターアマウントはコストで計算されているだろうか?値洗いで計算されていないだろうか?ちょっと気にはなるが、そうだとしても、ここでの推測レベルにはさほど影響はないのだけれど。スワップ金利の分も含めてあればなおさら影響は軽微になる。言っている意味が分かりづらいかもしれないが、その説明は改めて機会があれば)。

以下にこの協会の建玉データから円の持ち高だけをそのまんまのものと、11か月の移動平均のものとをグラフ化した。



月単位で見ればデコボコしているが、移動平均化すると、結構ないいかんじで円ショートがつみあがっている。月末の建玉残高なのでどうしてもデコボコする。日次のデータで連続させればもっと滑らかになるはずである。なので移動平均を使う。で、直近9月の数字が1兆3千億円分である。10月ががくんと下がって7300億円。これは利食いがかなり入ったということか。想定元本であってもなくてもこれだけの金額がインターバンク市場に流れ込んでいる。いったんインターバンク市場に入ればそれは想定元本でもなんでもない。それは資本=“お金”である。これだけの円が対USD, AUD,NZD, GBP等の外貨と交換で流れ出ている。

ちなみに最大に積みあがったのが2014年6月の、3兆4800億円である。上図青グラフの頂点の数字である。

これだけの円ショートが今の円安を引き起こしているわけではないが、それなりに正方向に貢献している。すくなくとも邪魔はしていない。
ここんとこ大事なので、もう一度まとめると、あくまで相対的に、かつモデル的に見てだが、日をまたぐキャリーポジションは相場の方向性に影響を与える。

一方で、デイトレ系の取引の増加は、インターバンクが出すレートのスプレッドに影響を与える。しかし、インターバンクのスプレッドは最近ワイドになりがちである。それは日計りの取引量が増えたというよりは、一方的な円安のせいである。


余談だが、これだけ円安が進むとインターバンクのディーラーの(実際ディーラーというよりはディーリングシステムとブックを管理する)方々は大変だろうなと察する。一般の人にはわかりづらいが、想像してみてほしい。自分がドル円を買う。それは業者を通してインターバンクのCPから買っているとして、そのオファー(売値)を出している相手がいるから買えるわけで、じゃあ、売ったお方はそのショートポジションをどうする?しばらく我慢して円高になったら利食いをいれて、、、というシナリオがとても実現しづらい状況で、それでも買いたい人には売り上がりながら売り続けている。それはインターバンク=リスクテイカーの矜恃として売っているだけのことで、売らなくていいなら売りたくはないだろう。そう考えると彼らの立場からすれば、そろそろ円安の流れも調整が入り始めないといけないのかなと思う。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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