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尾関高のFXダイアリー

売りから入るハイローバイナリー

 今のところハイローバイナリーはどこも買いからしか入れない。なぜ売れないのか。オプションは売りのリスクが無限で危険だから?そうじゃない。バイナリーはペイアウトだから、売る側も買う側もリスク限定である。買った側は払うプレミアムが最大リスク。売る側はペイアウト額が最大リスクである。例を挙げて話そう。

 今1000円のペイアウトに対して300円を支払えば、買った人の最大リスクは300円である。一方売る側の最大リスクは1000円である。ただし、売ることで受け取るプレミアムが300円であれば、行使されたとき差額700円だけが自分の財布から出ていくことになるので最大リスクは700円になる。

 さて、そこで業者が安心して個人投資家に売りをさせたいのであれば、この700円を証拠金から拘束すればそれでいい。実際には、売値と買値は違うので、もう少し現実的なものに上の例を展開する。今、ストライクKに対してのマーケットを業者が280円-320円とクォートしているときに、それを買う客は320円を支払う。一方、売る側は280円を受け取れるので、差額720円が口座にあれば売れることになる。この時の業者を守る大事な機能としてこの売り手の売ったオプションが満期を迎えるまでは総額1000円の出金ができないようにする。これらの買いと売りが同時に成立すれば、ノーリスクで差額の40円が手数料として業者の懐に入る。金融商品として、かつ店頭取引市場としての原則からすればこのほうが健全である。今のような客に買いだけしかさせない「市場」というのは業者にとってリスクであり、そもそもいびつである。日経225先物オプションのようなハイリスクな商品に売りを許しながら、このハイローバイナリーでは許さないというのは論理的に矛盾している。実際、禁じているわけではないのだろうが、業者の業界での空気としてオプションの売りは無限リスクだから投資家には売らせないという本商品に限っては非論理的な誤解が支配しているように見える。また、システム開発的に上記の仕組みを追加することが困難なわけがない。

 では、そうした場合の業者側のお勝手場はどうなるのかについてである。現在の買いのみしかさせない、という仕様の場合、業者側は常に売り手に回る。つまりオプションのポジションは常にショートになり、ガンマ、ベガは常にショートである。どういうことかというと、ヘッジ目的上スポットが上か下に動けば動くほどより多くのスポットを買い増す(売り増す)必要が出てくるという意味になる。仮にすべの顧客が全員ハイに賭けてきたとすると、相場が下がり続けて終わればヘッジすることなく丸儲けだが、上がって終われば全額を支払わねばならない。その支払うべき額を手当てするにはスポットを買い上げていくしかないが、それがうまくできるのなら世界中のオプションディーラーの仕事は天国になる。顧客全員がハイにかけてそれが当たってしまった場合、業者はヘッジをしようがしまいが、顧客に支払う額は、上の例でいえば差引720円x購入枚数分+顧客から受け取ったプレミアム全額=1000円x購入枚数分になる。当然ヘッジしてその720分以上を稼ぎたいと思うのだが、それをヘッジするために与えられた市場はスポットしかない。同じオプションをインターバンクのCPは業者に提供しないからである。そうなると、業者はヘッジしたければ相場が上がれば上がるほどにスポットを買っていかなくてはならず、それはほとんどの場合ロスカットを意味する。また、上がり続けるとも限らず、上がったり下がったりする動きに翻弄されながらヘッジのかけ外しを続けると、大体の場合は往復ビンタを喰らうことになる。

さて、ここで客に売りも買いもできるようにすると、業者のネットポジションはショートになったり、ロングになったりする。あくまでも売りをする客が相当数存在する前提ではそうなる。さらに、そのうち、売りと買いがぶつかる分はその枚数分だけは上述の例でいう差額40円xその枚数分がリスクフリーの売買利益として懐に入る。業者側にとってネットポジションがロングになれば、ガンマを取引することは、理論的には可能である。

 小難しいことを書いたが、要するにハイローバイナリーにおいては、客に売りを解放することはこの商品の不完全性(非対称性)を改善するものであり、業者側にしわ寄せされるリスクを低減する効果を持つ。個人投資家から見ても、買いばかりではなく売りから入りたいという需要はあるはずである。ボラが低ければ余計にそう思う。バニラオプションとちがって売りが無限のリスクを背負うことがないという最大の利点をなぜ商品仕様に反映させないのか。私にはよくわからない。私が業者側だったらとっくの昔にリリースしている。法的にもなんら問題があるとは思えない。一口1000円で10枚を単価300円程度で売っても、証拠金として振り込むべき額は7000円である。さほどの額でもない。プレミアムとペイアウトの比率的に見ても何十倍とかにならないので、間違っても日経225先物オプションのローデルタを売るような恐怖感はない。

今まで何度も書いたが、どこの業者もこのペイアウトオプションにブラックショールズを使っていると開示している。最初はえっと思ったが、時間的価値が2時間しかないからそれでもワークするということは大体分かった。これが一か月とかになるとそれでは機能しなくなるのだが、それはそれとして、使っているボラがヒストリカルである点も気になったものの、結局そこから計算されるプレミアムに乗せられる手数料分が大きいのでこれも議論する価値がない。相場が揺れ始めたら、その度合いに応じて客に提示するプレミアムが高くなるようにすればいいのであってそのためであればヒストリカルでも構わない。要するに「今」の動きに反応すればいいのである。金利もない。作り手としてはモデルが簡単になる。ただし難しいのは、やはりどうヘッジするかということになる。デルタやガンマは計算しましたからあとはディーラーさんお好きにどうぞと言われても、上述の通りそうは簡単にはいかない。結局一切ヘッジしないか、明らかにどっちかに振れると確信したときに、そっち側に振れるとハイとローの掛け金の差引で負けるという場合は、さっさとスポットを買い切るというのが想像するに一番ありそうな運用に見えるが、業者側がロングにもなりうるとなると、そのヘッジの戦略やルールについてはもう少し選択肢が増える。それらをちゃんと理解してかつ実運用に持って行けるだけのディーリング知識、経験はある程度必要かもしれないが、それとてたいしたものではない。

 本商品が出始めの時は、すぐに売りが解放されると思っていたのにいまだに誰もやらないので、ついついここで書いてしまった。

 ちなみに、欧州系のいくつか私が調べたFX業者のプラットフォームは最初から売りからもできるようになっている。


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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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