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尾関高のFXダイアリー

自動ヘッジアルゴリズム

 FX業者が行う自動ヘッジの仕組みには大きく分けて2種類のアプローチがある。一つは、いかにカバーまでのプロセスを高速、効率化するかというオーダールーティングの質を研ぎ澄ますという方法。スマートオーダールーティングの頭文字をとってSORと呼ぶこともある。ここでもそう呼ぶことにする。もう一つは、アルゴリズム。アルゴリズムは相場の流れと、顧客から放り込まれ刻々と変化する自分の保有するポジションをインプットパラメータとして、最適なカバータイミングと量(額)を決定してゆく仕組みである。アルゴリズムトレードはよりよいSOR機能の上に成り立つ前提で実装されるため、これら2つの方法は排他的に存在するのではなく、SORだけでやるか、あるいはSORにアルゴリズムを乗っけるかどうかという選択肢になる。

前者SORは相場観とかモメンタムとか、ポジションを放り込んでくる客の筋という観点は関係がない。あくまでもカバー行為をいかにスマートに執行するかであり、それにより時間軸上の影響を受ける流動性に対する市場リスク(要するに素早くCPでヘッジするときにそれにもたついて失敗、取り逃すリスク)を極限まで減らす行為である。EEモデルの場合、ひたすらこの機能のパフォーマンスを追及することになる。一方、アルゴリズムというのは、自動売買機能である。これは多くの投資家がEA等を使って自動で売買タイミングを計算するロジックとその行為においては同じであるが、そのアプローチにおいて、個人トレーダーと大きく違う点が2つある。

一つは、個人のように自分の気に入ったタイミングでポジションをとることができないという点。業者として顧客にレートを提示し続けているのだから、自分の欲しい時だけポジションをとることが許されない。相場が上がると思ったとしても、客が買ってくれば自分は売りポジションを持つことになる。また、その時に客と交わしたレートは自分のシステムが作り出したレートであり、そのレートは必ずしも自分がカバー取引できるCP側のそれらと完全相関している保証もない(ここではIEモデル業者を前提としているためこう言いきれる)。もう一つは、その業者が比較的大きな業者である場合に、一回のシグナルが出たときにCP側のレートとたたく量(額面)が大きいことである。インターバンクの気配レートは常にそこにレートを提供しているインターバンクのCPたちが把握している関連市場等に自分のポジションを加味して出てくる。そこに大口の業者のカバー取引が突然放り込まれれば気配レートはなにがしかの影響を受ける。そのため、バックテスト環境のレートと実際にアルゴが動きただした時のレートは本質的に違うものになる。もう少し具体的に説明すると、アルゴリズムの評価は常にバックテストで行われるとするなら、実際に自分のアルゴリズムが売買シグナルを出してインターバンクにカバー発注したら、その時点でその市場のモメンタムに少なからぬ影響を与えることになる。そうなるとバックテストで使っている過去のCPレートは使いものにならなくなるのである。バックテストシナリオ自体がそういうことまで考慮して作られているならいいが、大方そういうところまでは考えていない。考えてもそれをロジックに実装するには非現実的な想定が必要になってしまう。つまり正確さの根拠が求めづらい。また、実際にその業者が手にすることができる流動性をバックテストエンジンはどこまで反映しているかも疑問である。提供される業者ごとのCPの面々は違う顔ぶれであることが多いので、それぞれの業者に適したシナリオ設定が必要になる。

つまり、何が言いたいかというと業者が利用できるアルゴリズムを評価することはとても難しいということである。仮に5秒後の相場が今よりも上か下かを55%以上の確率で当てるアルゴがあるならそれは錬金術の完成と言える。余計なことを考える必要はない。しかし、現実にはそう簡単にはいかない。うまくいくときもあればいかないこともあり、結果使い続けて損を出すというのが大体のパターンである。その業者がCPで3本ずつ10回買い続けた時のCPのレートがそれらを何もしなかったときのレートと同じ動き方をしたという前提が成立するはずがないと思わなくてはならないはずなのだが、前述のとおりそれをバックテスト用のデータに仕込むことはとても難しい。よって、テストではいい感じの結果が出るようにチューニングされたアルゴも実践に投じるとうまく働かなくなるものなのである。大きなロットを振り回す業者であればあるほどそうなる。

そもそもそういうテーマはインターバンクの方々が20年来ずっと追い続けてきたことなのだが、結果的にそういう装置を使っているというCPをいまどき聞いたことがない。もしそのようなアルゴが存在するなら、すでにそういうものが動いているはずである。しかし私が聞く彼らのヘッジロジックはそういうものではない。もっと原始的で泥くさいものである。

その結果というか現実的に使われるアルゴリズムは、いかにもうけを増やすかという観点ではなく、いかに市場リスクをコントロールするかという視点から開発実装されるものがほとんどになる。それは健全な発想でもある。その結果のディーリング収益が、設定するマークアップから計算される理論上の収益を凌駕してくれていれば、とりあえずOKと言える。それじゃあすくないと文句があるならスプレッドを広げるしかない。


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プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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