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尾関高のFXダイアリー

IT革命後の追証の考え方

まず、前回の「追証の復活」の中で2点訂正があります。以下の通り訂正しお詫びいたします。


『仲値で判断するほうがビッドアスクで判断するよりも早くロスカットが発動するが、その分カットに使われるレートは仲値より少し早くなる。』
逆でした。ビッドアスクで判断するほうが仲値で判断するよりも早くロスカットが発動する、の間違いです。

『株の世界のように、追証ラインを回復する分だけポジションを落とせばいいという解釈はないものと理解している。』
これも間違いです。株の信用の世界も、部分決済で回避できるということはなく、むしろ追証額全額の差し入れが基本でした。

経験上、追証の原則は、追証額の請求を受けた時点で、期限までにその額を振り込まなければ当該口座で保有する全ポジションを強制決済するというものである。しかし、ポジションの一部もしくは全部を本人が決済することで、それにより減少した必要(維持)証拠金額分を入金すべき追証額として合算できる。これが現在の私のクリアな理解である。

一方で最近ではさらに規制が柔軟になり、追証額が通知されても、本人が部分的に決済することで追証ライン以上に純資産が復活すると追証が解除されるルールが認められているような噂を耳にしている。まだこの目で確認をしていないので、断定的なことは言えないが、それはそれでありかなと思う。リアルタイムで純資産や必要証拠金を計算できる時代なのだから、IT革命前の古いルールは見直されてもよいと思う。

特に株の場合、為替と違って取引時間が24時間ではない。これはつまり、ボラティリティが無限(ボラティリティの喪失)になる時間帯が毎日あるのと同じである。それを考えると、追証の発動もリアルタイムでいいし、それを解除するためにポジションの一部決済もありだと思う。投資家に対してリアルタイムで追いかけるリスク管理上の注意喚起のメッセージに対して、リアルタイムに呼応させるほうがより正しいリスク管理であり、投資家保護である。翌日までに追証額支払わないと・・・という条件は無用に時間的リスクを拡大させるだけである。よくある最悪シナリオとして、たとえば30万円の追証通知が午後5時ごろ届いて翌日午後3時までに振り込んでくれないと全部業者任意で決済しますよと言われて、翌日朝9時になったらさらに相場が自分にとって不利な方に動き、30万円を振り込んでもまた追証になるというパターンがある。だったら、追証判定をリアルタイムにしてもらって、場が開いている時間帯に教えてもらって、追加の振込ではなく、その場でポジションを減らすことで、追証を回避するという手段が認められても何ら問題ないはずである。むしろその方がより投資家保護になる。しかし、そこで追証解除には入金しか認めないという条件にこだわると、その客は最初からポジションを一部決済するオプションを頭から外してしまう。結果その場でポジションを減らしていれば、実際の損失は抑えることができるのに、である。

追証制度というのは電話でしか取引できず、客ごとの証拠金状況を一日数度しか再計算できないような昔のシステムを前提としたルールに見えて仕方がない。1990年代以降急速に進化した金融システムやルールの変化(時価会計とかも含む)を前提とすれば変わってしかるべきである。どう変わるのがよいかを改めて言えば以下のようになる。

リアルタイムで純資産(有効額とか評価証拠金残高とか言われるもの)の値洗いができる限りにおいて、追証発生はいつでも発動する。一日一回ではない。発動した時点で追証通知を行い、その時間から24時間以内に、4%以上に純資産を回復しないと強制ロスカットが実行される。4%以上に復活する条件は“なにもない”。値洗いがリアルタイムで追証判定計算もリアルタイムであるなら、余計に複雑な追証解除条件など不要である。

いったん追証が発動した後、相場が自然に復活したら追証解除で構わないではないか。そうなると一日に何度も追証が出たり引っ込んだりするが、それはそれでいいではないか。そんな日があればその客はそれをちゃんと認識すればいいのである。“やばいな”と。あとは追加の証拠金を入れるか、ポジションを減らすかの判断をその客が自己責任で判断すればいいだけのことである。そのリスク管理を意識づける効果は今の追証制度と何も変わらない。そういうシグナルを放置した場合、最悪の事態は、最後の追証通知がきたあと、一度も4%回復することなく純資産は減り続け、結果その24時間後、もしくは一般的になりつつある2%タッチで強制ロスカットされてしまい、追証通知を受け取った時の額以上の損失を出すというパターンである。

株の信用の場合の恐ろしさは、追証通知を受け取ってもその場で相場が開いていない可能性があることであり、翌朝まで待たなくてはならないことであり、さらにその相場は日本の夜中で欧米の昼間の株式市場に大きく影響されるものであるということである。さらに言えば、そうした性質を持つリスクへの一番いい対応はポジションを減らすことであり、追証額を入金することではない。追証額を入金することはリスク管理手法としては健全ではない。追加資金には限界がある。相場が一方向に不利な方へと行き続ければ、追証通知は無限とも思えるほどに繰り返される。やがて資金が尽き、ギブアップとなり、強制決済させられてしまう。それよりは、追証がかかった時点でポジションを減らすことを優先的に行うほうが損失は限定的になる。こう整理するとポジションの縮小よりも追証を優先する発想は投資家寄りではなく業者(取引所)寄りな発想に見えてしまう。

要するに、昔の追証制度はもう抜本的に見直していいと思う。投資家保護の観点からもっといいアプローチはある。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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