決済損益額の受渡しタイミングはリアルタイムとT+2があるのはなぜか
日本のFXは専業系と証券系でだいぶ色合いが分かれていることはお気づきのことだろう。一番目につくのが、顧客が反対売買したときの決済損益の受渡しタイミングである。これは前者がFXシステム単独で構成されるのに対して、後者は証券バックシステムとの連携がかかわるため発生する現象とも見えるが、実はそうでもない。今回はこれについて深堀りする。
専業の多くは、リアルタイム決済を採用している。つまり反対売買をすると即座に現金残高に反映することを意味する。また、通貨ペアが非対円であっても、すべて円で決済される。一方、証券の多くは、決済通貨は専業同様円であるが、決済損益を2営業日後(T+2)に証拠金残高に反映するルールを採用するところが多い。なぜこの決済タイミングの違いがあるのか不思議に思う人もいるだろう。
そもそも日本で決済をT+2で始めたのは私である。当時はキャッシュフローのリスクがはっきり見えなかったのでCP側の受渡日に合わせてT+2という仕様を導入してしまった。のちにそれは無用の配慮であることを痛感した。私がT+2の仕様で開発したシステムがそのベンダーを通じて他社に普及したことで、T+2が独り歩きを始めたのだとしたらちょっと申し訳ないと思っている。では、なぜ申し訳ないと思うかについて説明をしてみるが、正直財務経理になじんでいる人でないとイメージしづらい内容となっていることをお断りしておく。
CP側で行われる決済はT+2である。ロールはトモネで行うため、毎日大体同じ時間にロールをする前提で、決済される額はおよそ一日分の相場変動分ということになる。ロールは保有するすべてのポジションに対して通貨ペアごとか通貨ごとに同一レートで当てられる。一方顧客側は建ち落ちの決済である。日計りの人もいれば、1年以上持ち続ける人もいる。となると、日々円で仕切り、決済(受渡)される額は双方加重平均レートも額も違う。そうなれば当然両者の日々のキャッシュフローの動きに相関性はない。すなわちキャッシュフローマネジメント上両者の受渡日を同一のT+2にする意味などどこにもない。もっと言えば、客のキャッシュフローは売買損益ではなく、入出金が対象である。売買損益そのものはその業者の帳簿の中の残高との付け替えでしかなく、キャッシュフローとは無縁である。しかし、信託が義務化されてからは実預託額を日々計算して差額を信託とやりとりすることになった。これもT+2である。つまり、リアルタイ決済だろうがT+2決済だろうが、キャッシュフローから見れば信託には客の実預託額(=純資産)がT+2で、CPとは決済損益だけがT+2で、対顧客では入出金のみがT+0とか+1でのキャッシュフローである。相関性の観点からこれらはほぼ無相関である。
投資家目線で見れば、決済と同時に現金残高に反映するほうがわかりやすくていい。「既決済未実現損益」(これは私が最初に使った造語)とか「未受渡損益」という言葉で呼ばれる“決済はしたがまだ残高には反映していないという中間的な損益”が表示されることに大した意義はない。むしろ邪魔なくらいである。また、既決済未実現損益にはT+1の分とT+2の分が含まれるので一日たつと、昨日のT+1の分は今日の残高に合算され、昨日のT+2の分が今日のT+1になり、そして新たなT+2の分が入ってくるので、それを見ていても情報としての価値はない。客にとって大事なのは、証拠金管理であり、強制ロスカット判断が純資産ベースである限りあくまでも純資産である。それはT+0でもT+2でも変わらない。あと必要な情報は出金可能額、ロスカットされるまであといくら余裕がるか、あとどれくらい新規建てができるかである。
欧米でT+2でやっている業者は見たことはない。むろん欧米では証券会社がやるパターンはないので前提がそもそも違う。
他にT+2でなければならない理由を考えるのだが、顧客が決済した利益を出金させる場合に即時出金はさせたくないという理屈も考えづらい。前述したとおり、キャッシュフローの動き方にそもそも相関性がないのだから根拠が不明になる。唯一T+2が絡む部分は、信託保全の口座とのやり取りである。信託口座とのやり取りもほとんどのケースでT+2が採用されている。そのため、業者は、客の純資産の日々の変化分を信託口座とやり取りしなくてはならない。対象は純資産なのでそこには客の評価損益も含まれる。つまり評価の額を現金で当てなくてはならない。しかしカバー取引が健全に行われ、証拠金管理もうまくいっており立替金がほとんど発生していないのであれば、大した問題にはならない。そもそも分別保管が義務付けられている金融商品を扱う限り自前の資金はキャッシュフローマネジメント上必要でありその額は顧客資産が増えるほど必要になるものである。
もうすこし厳密に説明する。客の評価損益がマイナスの場合、それは預かり証拠金で担保されているため、実際に業者が受け取っている現金未満の額を信託に送ればいい。余ったお金(つまり業者の利益となった分)は、CPとの決済に利用できる。それでもCPとの決済に必要な額を満たさない場合もあるかもしれない(上述のとおり相関性がないから)。逆に客の評価損益がプラスの場合、純資産が預かり証拠金残高よりも多くなる。その場合、業者は自分の資金をあてて信託に回さなくてはならない。そのお金はCPとの決済から生まれる(十分かどうかはわからない)。そしてそれはT+2でやってくる。つまり経理の担当者はCPからもらったお金を、足りてる足りてないは別として、そのまま信託口座にその日のうちに送ることができる。この点においてのみT+2の意味があるが、そこに客の口座の決済タイミングの問題は絡まないことがご理解していただけるだろうか。信託は客の口座がリアルタイム決済だろうがT+2だろうが日締めでM2Mされた純資産で仕切るので関係ない。CPがT+2であるなら信託もT+2という部分は上記の客の評価損益がプラスのときのキャッシュのリスクにある程度対応するが、それと客の取引口座での決済タイミングはなんら関係がないのである。繰り返しになるが、客の勘定にある証拠金残高、未実現損益、評価損益はどれも帳簿上の付け替えであり、実際のお金の動きは入金、出金、信託振替しかない。
大きなお金の出金に即座に対応できないリスクを考えるならば、そういうルールを設けるしかない。たとえば1億円以上の出金は2営業日かかるとか、もっと包括的に、原則リアルタイムで出金するが、額によっては、あるいは銀行のシステム等の問題によっては最大4営業日かかる、というような同意を取るという方法である。
投資家の利便性を考えればリアルタイム決済の方がいいのは明白である。またシステムを作る側にしてもその方が簡単で作りやすい、イコール障害発生確率を下げられる。証券の場合で基幹システムの総合口座経由で入出金に対応するところは、客が自分でFXの取引口座からそちらへ振替処理をしなくてはならない。またその振替処理の画面も夜中は使えないこともあるし、つかえても午後5時以降は翌日回しになることもある。それがあるなら入出金についての条件はそっちで管理できる。したがって、FXの取引口座内ではリアルタイム決済にしてもなんらリスクはないというのが私の結論であり、冒頭でそんな仕様をはびこらせた原因が私にあるなら申し訳ないといった理由である。
余談ながら、世の中、受渡(与信)リスクを極小にするべく動いている。銀行はCLSを導入して久しい。債券取引もT+2からT+1にむけて準備している。評価が時価会計になった以上当然の動きだろう。株、信用、先物等、証券の世界もいずれそうなる。ならないのは投資信託等のパッケージものだけか。