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尾関高のFXダイアリー

欧米との比較におけるバイナリーオプション

OTCのバイナリーオプションはギャンブルかそれとも金融商品かとうい議論はいまだにある。この手の議論は必ず以下のような概念上の枠組みに分けて考えられる。


まずは、法規制上どう扱われているかという点である。現在金融商品として認めている国は、私が知る限り日本、キプロス、マルタの3か国。米国は取引所(NADEX)取引のみ認めているが個人投資家向けのOTCオプション取引は禁止している(CFDも禁止)。イタリアは全面的に禁止している。つまり国や地域(EU等)によりその法的解釈、規制当局の対応はまちまちなのである。

ただし大きな流れとしては、いかにしてギャンブル的な扱いから金融商品としての扱いに変えていくか、そのためにはどのような法的整備が必要なのかという方向に傾きつつあるようにも見える。日本はいち早く、これを禁止することなく金融派生商品として認めたことはある意味欧州よりも一歩先に行っている感じがする。ギャンブル(賭博)については欧米よりもコンサバなお国柄の割には大胆な決断だったともいえる。


次に商品の仕様というか構造的な側面から見てどうかという点である。これはギャンブルとしての独特な特性は何かとか、金融商品として最低限必要な要素とは何かという分析の仕方をすることになるが、結論としてはそれが明確になったからといってもそれ自体が法的な扱いの決め手にはならない、あるいはなっていないと思われる。


ギャンブルとバイナリーを単純に比べてみればそれらの共通点は多い。一つの将来の事象に対して当たるか外れるかにベットすること。親は負けた客から得たお金を持って勝った客に払い戻すゼロサムゲームになっていること。カバー先があるとはいうものの、実質的にカバーを受けています、というCPに会ったことはない。現在のガイドラインにおいて「カバー先を持つこと」とまでは言われているが、「しなさい」とは言われていない。また、バイナリーのポジションをバイナリーでカバーしろとも言われてないので、ガンマヘッジをスポットでやるといえば、通常のFXの取引につかうカバー先をもって便宜上カバー先はあると解釈されているように見える。これは現実的には詭弁と言われても仕方がない。実際海外の連中に説明すると不可解な顔をする人は多い(あるいは苦笑いをする)。


私の論点は、これが違法だとか不法だということではない。カジノだって性悪説は根強くても経済合理性とかなんとか言い訳をつけて法的に一定の枠をはめることで合法化されるように、なにがしかの枠をはめることで合法化することは問題ないと思っている。ただし、その過程において成熟した議論が行われていないと、結果的に将来おかしなことが起きるのではないかという懸念があるということである。


現在の日本のバイナリーに対して課せられた制約で主なものは、


1.カバー先を持つこと
2.ワンセッション2時間以上の間を置くこと
3.ペイアウト率と顧客の損得の比率を公開すること
4.客は購入後セッションが終了する間際まで転売できること(業者がその流動性を保証すること)

である。


カバー先を持つことを義務付ける意図は、仮にすべての客がワンサイドにまわり、業者側が何億もの損失を対顧客に出した時にカバーがないと、業者が倒産する可能性があるからそのリスクをヘッジするためには必須であるという考えが見える。しかし実際にはそういう機能は開示されるCPに対して持っていない。これが詭弁と映る部分である。この問題に対応する一番いい方法は、バイナリー業者が本当にカバーを取れるCPを立てることである。大部分の銀行はいまだ2時間のハイローバイナリーを最小単位1000円というスペックでは到底相手にならないと考えているが、それらを束ねて受けて、反対側でインターバンクCP相手にオーバーナイトのバニラのストらドルかストラングルを買ってガンマヘッジを行うようなB2B業者を設立するというのは十分検討に値すると考える(この話は前にもしたことがある)。


2時間というインターバルが妥当かどうかなど決めた人の感性でしかない。これが10分だろうが6時間だろうが、ギャンブルか金融商品かという議論の論点ではない。金融商品としての論点は、その流動性(売りたいときに売れ、買いたいときに変えること)と価格決定に使われるプライシングモデルの正当性と他の原資産市場との整合性や裁定可能性であると思っている。たまたま米国のNADEXが2時間だったからそれに準じたとしか見えない。NADEX自体は2時間というルールをどういう基準で決めたのだろうか。


公開については透明性の観点から喜ばしいことであるが、それより私が知りたいのは、具体的にプライシングに使っているモデル式である。みな一応にブラックショールズとなっているが、そんなわけないと最初は思った。ブラックショールズの解は一つである。価格Xより上なら同じペイアウトになるプレミアムの解をひとつだけ与える式ではない。しかし実際に見てみると、ヨーロピアンバニラのモデルを適用しているようにも見える。時間が短いのでその辺の正確さを必要としていないと考えてのことのようにも見える。


規制の目的は個人投資家が被害をこうむらないようにすることであり、それは業者がつぶれるようなことがないようにすることでもある。モメンタムが明確になると客は勝ちやすくなるので、そうなるとペイアウト率が100%を超えることもあるだろうと、前にも言ったが、その通りになった。GMOクリック証券のラダーのペイアウト率は昨年12月で100.25%と公表されている。仮に裏側でガンマヘッジを行っておらず何のカバーもされていなければ、0.25%損したことになる。これがまだ、ときどき100%を超える程度で、年間累積で見て100%未満であり続ける限りはいい。それが一気に120%とかにスパイクするとまた新たな議論が始まる。そういうのが私は好きではないということである。予測できる危険な芽は最初から摘んでおいたほうがいいのは当たり前な話である。
現状そうならないようにする安全弁として、一人当たり、一回当たり200口までとか、何かあったらセッションをキャンセルするとかの条件で抑え込んでいるし、実際のプレミアムを見ると、ボラが高そうな時間帯はどんなボラをプライシングモデルに入れているのかなと思うようなプレミアムに跳ね上がる。プレミアムの売値、買値はともに業者の任意で決定されるものであり、複数の投資家がよりあつまって形成される市場ではないから、その価格決定ロジックはある程度開示されないと業者側はいいように操ることができてしまう。その点がグレイで、それも私は好きではない。つまり価格形成の透明性が確保されていないのが現状である。できればプライシングモデルは開示して、使っているボラ等(手数料分があるならそれも含めて)のパラメータも開示するのがいいと思っている。以上、実際数社でやってみた感想である。現状そうは言っても個人投資家が遊ぶ商品としての目線で見る限りさほど不満はない。夜になると軒並みプレミアムが上がるのが“どうだろ”と思うのと、売りから入らせてもらえないことが不満に思うぐらいである。


売りから入ることも前にも言った通り、ペイアウト額全額(受け取るプレミアムも加算して)を証拠金で拘束すれば業者もリスクゼロで、客も追証になることもないので安全である。なぜやらないのかと思う。IG証券だとそれができる。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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