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尾関高のFXダイアリー

iFX EXPO in マカオ 2014-01レポート

昨年の日本でのIFXに続いてマカオで開かれたコンベンションに行ってきた。3日間のうち2日目だけしか参加しなかったが、今日はそのご報告。


会場であるマカオのベネチアンリゾートに到着すると、そこはご存知カジノホテルである。巨大な施設のその一階はほとんどがギャンブル場であり、夕方になると多くの客を魅了する。到着は朝だったので人もまばらなその中を抜けて会場へと向かう。

受付を済ませて中に入ると、多くのブースが立ち並ぶ。それらをひとつずつ見て回る。何周もした感想として、まず日本の業者もシステムベンダーもブースは出していない。来場者の中にも日本人はまばらにしか見当たらない。むろん出店者側にはそこそこ日本人もいたが、一般来場者としては数社いた程度。


ブースの中で、私の興味を引いたものをいくつか挙げる。


■KCG HotSpot
http://www.hotspotfx.com/
長年インターバンクのスポットのアグリゲータとして活躍。競合としてCurrenex, Integralなど。面白かったのはAPIには、スタンダードと日本向けの2つあるという点。日本向けはやはりこの市場の特殊性を考えた銀行系CPがそれ用によりタイトなスプレッドを出していた(ライブフィードを見たが、スタンダードのドル円が0.2のときに0.1だった)。日本のシステム業者のメジャどころは自前のシステムにアグリゲート機能を搭載しているのでこうしたシステムは今や不要となっているのであまり興味をひかないだろうが、面白いのは、CP側が欧米系レートフィードと独立させて日本用のフィードを持ち始めたことである。それほどに日本市場は特殊であり、無視できない市場となっていることをこういう形でも実感する。


■Spotoption
http://www.spotoption.com/

デザインも新たに、より簡単なUIを構築。スプレッドベッティング機能も追加。簡単に言うと、エントリーするときにロスカットポイントを指定することでその分の証拠金しか拘束しない仕様である。この実現性を私はすでに調査したが、現状の25倍レバ規制により不可能との見解を持っている。この仕様は取りようによっては日本でもスプレッドベッティングとして解釈されうる。彼らは日本でもどうだ、みたいに鼻息を荒げたが言下に否定しておいた。ただし、今後日本においてもこの程度の仕様は何らかの法的解釈もしくは改正によって認められてもいいと思う。なぜなら、計算上レバレッジが25倍以上でもストップロスを絶対金額で指定している限り、その損失リスクは原則有限である。むろんスリッページのリスクをどうコントロールするかのテーマは別途議論が必要だが、投資家保護のスキームという点では十分ありな話である。


■Solid Payment
http://www.solidpayments.com/

イスラエルの会社。決済サービス。クレジットカード決済システム経由。欧米は資金振込みにクレジット決済機能が使われる。アメリカではそれを禁止する動きがあるが、欧州はその点鷹揚である。


■Leverate/Sirix
http://www.sirixtrader.com/ja/

SNSを組み込んだ取引システム。見た目、ZuluやeToroと大して変わらないようにも見える。現在コピアーは業者からフォロワー数に応じてキックバックをもらう仕組みはないそうだ。たとえそれができても日本ではすぐには使えない。


■Think Liquidity
http://www.thinkliquidity.com/

リスク管理からヘッジ取引代行まで請け負う。日本の金融機関もクライアントになっているとのこと。FX業者向けには、カバー取引におけるパフォーマンス分析からリターンを最大に引き上げる分析、最適化のサービスと、実際のカバー取引の請負ができるらしい。実績はあるし、信頼もある。彼らのサービスの内容は学に値するのかもしれない。


■Robotero
https://robotero.com/

たとえば、過去のCPIのときの相場の動きを一発クリックでチャート表示。
次のCPIの予測値を調べる⇒4.5%よりも大きい数字だったら相場が上がると判断する⇒そのように設定する⇒発注ベンダーを指定する(複数のブローカーを登録できる)⇒実行という仕組み。経済指標をイベントとした自動発注。今後何か珍しいのはないのかと聞かれればこれでしょうが、これをしたからと言って効率的に勝率が上がるとは思えない。それほどに最近の指標発表時の動きはだましが多い。


■AgenaTrader
http://www.tradeescort.com/

チャート分析の登録が容易にできる画面デザインがよかった。デモをしようとしたらEXE Fileがうまく起動しないので問い合わせ中。ドイツなので、Eメールもドイツ語でくるという不親切さ。


バイナリーオプション


ブースの半分はバイナリー業者。セミナーのテーマとしても熱い感じがするが、実際フロアで意見交換すると、利益率が悪いので魅力は薄い。これから育てていきたいが、どうなるかはわからないという感じ。バイナリーオプションは、欧州ではフィナンシャルベッティングとの親和性が高い。言い換えればほとんど同じものである。日本でもこの辺の欧州との法的な建付けにある程度理論上のそれを合わせておいた方が良いのではと常々思っている。今のままでは解釈論が面倒で仕方ない。

今もどんどん新たなバイナリーオプションハウスが生まれつつある。その多くはキプロスやマイナーはレギュレーションヘイブン的な国に本拠を置いているものの、キプロスとてEUの一員なので原則MiFID(もうじきMiFID IIになる)の指令下にある。

債務超過の国に業者の本拠を置いておくことのリスクを考えると必ずしもキプロスがいいとは言えない。今もって現地に行けば、目抜き通りがシャッター街になっているとも聞く。


欧米FX業者のアジアへの進出


パネルは2つしか傍聴していないがその一つ、”Where to get extablished?”というテーマのディスカッションを聞いた。パネラーは以下の方々(敬称略)。
FXCM: Drew Niv
Gain Capital: Glenn Stevens
SAXO Bank: Lars Christensen
CITI Bank: Alex Knight
IC Markets: Andrew Budzinski

個人的には、FXCMのニブ氏と、SAXOのクリステンセン氏しか知らないが、ゲインのスティーブンス氏は有名である。以下に、聞いていて面白かった部分だけここでお伝えしようと思う(発言者はFirst name 表記、敬称略)。


Alex「過去10年以上やっているが中国やインドはなかなか進出しづらかった」

インドにはカースト制度がまだまだ残っているし、IT産業では欧米が先んじている部分はない。中国は言語的問題には世界中で英語を話す中国人はいくらでも雇えるので問題はないだろうが、やはり規制との対話が面倒である。また外貨規制には神経質なお国事情があるのでそう簡単には解放とはいかない。


Lars「中国において大変なことの一つとして、雇った弁護士ごと意見が違う」

(笑)


Stevenn「我々はまだ日本の違い、独自性を理解していない。買収したGFTの中をみたがGainと同じ間違いをしている」

上記私の記憶の意訳なので必ずしもその通りに言っていたとは言い切れないが、彼はかなり客観的に自己評価をしていたように思う。他のパネラーもローカライゼーションの大切さを主張していたが、実際日本でやっていることを見てきた私としてはそれが実践されたという印象はない。頭では分かっていても、実際にそれを実行するとなると体が思うようには動かないのは何にでも言えることである。外資系が日本に入ってくるとやたらとテレコールをさせたがっていたのはどこも同じだが、近年さすがにそれはないなと気づいてくれたようである。


司会「HQをアジアに移すとか」
Drew「昨年度のレベニューの50%以上がアジアからだった」

利益の半分以上が生まれる地にHQを移すというアイデアは聞こえはいいが、必ずしもそれで効果が上がるわけではない。大切なのは現地の環境やその変化に根差した情報を正確に得て、それをもとにより迅速な意思決定が行われる仕組みが組織内にあるかどうかである。場所は今の時代関係ない。それらの情報とより正しいと思われる意見を具申できる現地のマネジャーがいるかどうかが大切である。優秀な人材を育ててどんどん権限も現地に移譲してゆくというのは成功への定石なのだが、優秀な人材かどうかを異文化を背負う人間関係の中で見極められるかどうかのほうが肝心なところだと思う。


Glenn「ギャンブルとトレーディングの垣根があいまいで、その定義はいまだ“意見”でしかない」

欧州では、ベッティングは合法である。ギャンブル法とは別に機能している。何が正しいかとか、ギャンブルをどこまで認めるかの前に、何がギャンブル(ベッティング)で、何が金融取引(トレーディング)なのかの線引きをしなくてはならない。日本にカジノが出現するような空気になっているが、そこらを契機に、真面目に法体系を考える時期なんじゃないのかと思う。金融においては、FXはCFDの一部であること、フィナンシャルべティングを定義し解放すること、前回も触れたがPAMM、LAMMの機能があることを前提とした助言や顧問(一任)の枠組みを見直すことを期待したい。


Lars 「マルチアセット化が進むにつれCFDは成長する」

日本のCFDは単にコモディティと一部の海外株式指数を取引する需要にこたえている程度で大した存在感はない。日本人にとっての最大の株式指数先物は日経225オンリーであり、それは証券口座でやっても大して取引コストは変わらない。FXと同一口座で取引もできないので利便性に欠ける。さらに、CFD化する時点で日経先物もセクター指数を作るとかの創造性も業界ではまだ見られない。本気で育てようというエネルギーは感じない。欧州ではCFDは印紙税がかからないという面もあって結構取引はされている。その点欧州系のブローカーとは目線が違う。


(誰が言ったか忘れたが)「Non-bank-to-non-bank、Client-to-client取引が増える」

今は、個人投資家は店頭において業者もしくは間接的にインターバンクプレイヤーを相手に取引しているが、これから客と客がぶつかり合うという市場へと発展するだろうという話。今でも、ECNの世界ではそうである。ただしECNを活発に使う欧米のプロは素人とは一線を画す。法人同士が銀行等の金融機関を通さずに為替取引をする環境はすでにできつつあるが、それが個人投資家まで下りてくるにはまだ時間がかかりそうな気もする。そこまでも流動性は個人投資家市場だけではありえないので、インターバンクやプロたちが混ざった(ただしどっちがマーケットメイカーとか関係ない取引所的な)プラットフォーム(つまりはPTSみたいなもの)へと変化する。すでにアメリカはその流れである。
それをもくろんでいるかの如く、米国当局は業者への縛りをどんどんきつくし、今やRFEDに名を連ねるブローカーは10社しかいない。実質的にFXCM,ゲインキャピタル、オアンダの3人勝ちである。新規に参入しようにも資本規制で2千万ドルないと入れない。


Drew「アジアにおいてさらに規制は強まる。そのスピードは速い。FXCMの韓国でのマーケットシェアは18%あったが取引高が増えたにもかかわらずシェアは5%に落ちた。」
「アジアは欧米よりも実践的で変化が速い」

限界利益を犠牲にしながらシェアを上げるしか戦略の取りようがない。なぜならFXとしてのサービスはこれ以上新たな付加価値を発見できないし、それなくして他社との差別化が図りづらいからである。自国でのシェア合戦は地の利があるから動きやすいが、他国でそれをやるにはハンディを背負う。どこまで意思決定組織のローカライズができるか、それをするための信頼できるパートナーと出会うかが鍵なのではないだろうか。


中国を狙う欧米系ベンダー(業者)は、FXCM, SAXO, Gainが目立つが、IGマーケッツはすでにインドネシアのICDX取引所を獲得している。今後アジアにおいて香港、シンガポール、韓国への進出活動はより活発化する。中国国内ベンダーもその資本力を以て活発に動きだしている。どこの中国マネーがどの海外ベンダー(業者)と組むかは見ものであり、それが始まるのはそう遠くない。あとは金融当局との交渉力の強いところが先陣を切るだろう。中国で解禁された市場を取るということは、現在中国のオフショアでやっている資産も狙えるという意味を持つ。


欧米系の業者はそのすべてがプラットフォームをホワイトラベルで提供できる。つまり流動性もセットで提供できる。システム使用についての初期費用も月額固定費もないところが多い。業者側にネイティブチャイニーズスピーカー(チャイニーズアメリカン)を雇うことは容易であり、NYにおいてはすでに当たり前なことである。プラットフォームはすでに多言語化されているので帳簿等のローカライズが必要となるだけである。ただ、一般にリリース後の面倒見やメンテナンスの品質は相対的に低い。そこに日本のベンダーが戦いを挑むとしたら、どういう形で臨むことが一番勝率を上げる要素となるだろうか。日本にも日中の懸け橋になる人材は多い。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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