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尾関高のFXダイアリー

追い出される投資家〜スキャルパー

取引システムがより使いやすくなり、投資家が利用できるツールが充実して、そのうえでスプレッドが極端に狭くなると、いわゆるスキャルパーが台頭してくる。スキャルピングの定義は特にないが、イメージとして頻繁に売買を繰り返す人たちを指す。昔なら一日に数回程度の往復売買でもそう呼ばれていたが、最近だと一日で数百回はざらというスキャルパーもいる。それを手で画面をたたいてやるか、あるいはシステム的に自動化してやるかはいろいろ議論を呼ぶところであるが、以前からこうしたスキャルパーを追い出す業者がいることは知られている。では、どういうスキャルパーが追い出されるのか。



まず、いわゆるハッキングではない前提でまともにやっているスキャルパーがいる。彼らは業者の画面をひたすら頻繁にたたき続ける。売買の判断を何に求めるかはまちまちだが、他の業者の価格を比較しながらゆがみを狙うケースもあると聞く。そういう彼らが業者にとっては結構な取引高を生み出してくれるものの、彼らの取引が早すぎて、業者側のカバーが追い付かない場合、業者としてはその客の取引によって利益が損なわれる。
一方、ハッキングまがいの投資家もいる。業者側は画面から手動でのみ取引してもらう前提なのに、システム上の裏をかいて自分のプログラムにつないで自動的に発注しているケース。手で画面をたたいていては、1秒間に5回も売買できないのにデータ上そう見える場合、ほぼまちがいない。


前者の場合、業者はその客を追い出すことができるだろうか。確かに、いかなる理由であろうと、業者側が気に入らない客に退場を求めることはできるような気もするが、その理由が、「いつもあなたは勝ち続けるから」では理由にならない。もしくは「あなたの取引頻度が高すぎてシステムに悪影響を及ぼすから」といえば、そもそもそうなら発注後は数秒間次の発注ができないように作り替えるとかの対応をその是非はともかく業者側がするべきである。あるいは「あなたの新規から決済までのスピードが速すぎて、こっちのカバーが追い付かず、ディーリング損失につながっている」という理由だったら(これが、業者が追い出したくなる最大の理由になる)、それこそ客にしてみれば知ったことではない。それでも、ならばいったん新規を立てたら数秒間は閉じることができないとかの機能を付けるとかの対応をすればいい。しかしそうすれば、時間的リスクをむやみに客に押し付けることになるし、スキャルピングしない客にしてみればいい迷惑である。個別にこっそりそういう仕掛けを講じれば公平性の観点からも問題になる。


後者の場合、そもそも業者が想定していないハッキングをしているのだから、それをやめない限り追い出すというのはありだと思われる。問題はそれを証明できるかである。

前者、後者どちらでも、こういう問題が出てきたそもそもの原因はスプレッドが狭くなりすぎたということである。それに付随してプライスの更新頻度も高まり、買った瞬間に0.2ポイントぬけるプライスに変化するというようなことが割と起きるようになっている。そうなればスキャルパーはそこを狙ってひたすら売買を繰り返し、一回当たりの利益が100円程度であってもそれが一日で100回勝てれば、1万円となる。実際にはもっと大きな規模で行われているかもしれない。

客の注文を成立させてからディーリングデスクが最短でカバーに行く時間のインターバルよりも狭い時間間隔で客への提示レートを更新すればこういう事態が起こりやすくなる。そういうことをわかったうえで配信レートの間隔や約定プロセスの要件が定義されているだろうかと疑問に思うことは多い。


誤解のないように言い直すが、業者の立場として(全部がそうとは言っていない、むしろ一部の業者が)結果儲かりまくる客を追い出すということではなく、客が損失を出そうと利益を出そうと、カバーパフォーマンスがうまく出ないような取引をする客は出て行ってほしいのである。客が買った瞬間に、今なら0.2抜けるという前提で客の約定を付け、さてカバーに行こうかという前にその客が利食いをして決済してしまえば、ディーリングデスクは何もせぬままに客に抜かれていく。結果客が儲かろうが損しようが、デスクとしては損を出すということが頻繁に起きてしまう。こういうケースのことを言っているのである。


いかなる結果になっても、業者側が与えた環境と条件の範囲内でフェアに取引がされる限り、結果的に客が儲かったからとか、その客に対するディーリング(カバー)が損ばかりになるからと言ってその客に口座閉鎖を強制することは、褒められたものではない。米国なら民事裁判に訴えられ負けてしまいそうな事例である。

一番まっとうなのは、上記のハッキングは例外として、まともに使って売買している客がどこまで取引を繰り返そうが、カバーディーリング上のパフォーマンスを損なわないような仕組みを作ることである。ここでいう仕組みとは、システム上のそれだけではなく、スプレッドをある程度広くすることも含む。たとえば、一日100回以上売買をすると翌日からその人だけスプレッドをワイドにしますということを最初にうたったうえで口座開設してもらう分にはフェアである。それがいやならそういうスキャルパーは口座を開けないか、その分だけやる。口座ごとにプライスを変えても、それが一つの“コース”として業者側も客側も分別されていれば問題とは思わない。あくまでも事前の開示と合意の問題である。


ここまでスプレッドが狭くなればディーリングのカバーが追い付かなくなるのは当たり前である。さらに、いわゆる先付という、カバーが完了する前に客の注文を成立にしてしまう仕様(ルール)の場合、相場の動きが早くて一方向のときは、サーバーの性能に大きく依存することになり、それが良くてもスタートが客より遅いのだから負けやすくなる。そうした試行錯誤を繰り返すと行き着くところはNDDとなる。カバーのリスクは全部客とCPに押し付けるのである。カバーが取れたら客の注文を成立させる、店頭(相対)と言いながらも実質CPとの取次モデルを採用することである。カバー先が約定拒否をかえしたら、その客の注文も不成立にしてしまうので業者は設定したマークアップだけはがっちり確保できる。そのかわり、約定拒否率が上がるので客の受けは悪くなる。この拒否率は私の経験上普段で数%である。相場が荒れたときは最大瞬間風速的には20〜30%にもなる(特殊な時間帯数分間だけを観察した場合の例)。NDDモデルにした業者にとってはスキャルパーが最大上得意顧客になってしまう。したがって、マリーする業者を追い出されたスキャルパーはNDDモデルを標ぼうする業者の門をたたく。


やりすぎのスプレッド競争はとりあえず限界を見た感がある。次は約定率100%について考えて行かなくてはならない。市場には必ず流動性というものがある。値段には常に、ロット数の根拠がある。1個でも100万個でも一個の値段は100円ということはないし、買いたくても在庫がなければ、一個の値段は上がる。つまり不成立というのは起こりうるし、それは成行きだけでなく、指値においてもありうるのである。上場株を取引している人ならよくわかる話である。

銀行が提供する取引システムはプライスを出す前提として、取引高を入力するスペースがある。そこに違う額を入れるとスプレッドが反応して動く。たとえば

100,000  100.25-26
5,000,000 100.24-27
20,000,000 100.22-29

というように、額が増えるとスプレッドはワイドになる。一つの値段が持つ流動性には限界があるという前提に立った取引システムは今後求められていくのではないだろうか。すでに一部海外のプロ向けには当たり前のようにそういうプラットフォームが提供されている。1万ドルでも5百万ドルでも同じ値段というのは土台無理がある。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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