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尾関高のFXダイアリー

本来の意味でのリクイディティプロバイダー(LP)

LPのほとんどはグローバルにビジネスを展開する銀行である。たしかにLucidやLMAXといったECNもいるが、彼らはあくまでもアグリゲーター、あるいはリサイクラーであり、本来の意味でのLPではない。

ここでいう「本来のLP」とは、誰もプライスを出さない時でも自分の判断で出すということができる銀行を指す。つまりリスクを背負える銀行ということである。3.11の後の月曜の朝、誰しもが売り一色になるとわかっているときでもちゃんとビッドを“最初に”出すような連中をここではLPと呼ぶことにする。


そういうLPは、一日24時間世界中の客を相手にプライスを出し続けている。アジア時間、欧州時間、米国時間、それぞれにおいて、その売り買いの流れは微妙に違うものである。そうした違いをうまく利用して利益を追求してゆくすべを持っている彼らにとって、アジア時間で放り込まれたポジションをどれだけうまく欧州時間(=市場)や米国時間でさばけるかというのも一つの戦略としてある。
かりにその戦略がとられているとした場合、デイトレーダーとか数秒単位で売買を繰り返すスキャルパーというのは扱いづらい。客に放り込まれたロングポジションをこれから先の数時間じっと抱えて、相場が反転するのを待ってから売りさばくというようなシナリオを考えた場合、数秒で利食いをされて消えて行かれるばっかりの客は相手にするにはコストに合わない。毎回損切りばかりをする客なら結構なことだが、かならずしもそうではないし、全体としてのチケットコストは上がりこそすれ下がらず、チケット単位での利益率は下がる一方である。



3.11の翌月曜日のオープンのとき、そこで売ってくる人たちはほとんどが損切りであるという予測は簡単に立つ。つまりそこで売った人たちのほとんどはショートメイキングではないのでそのあとさらに下がったら買い戻すという行為をしないというシナリオが考えられる。逆に、パニック売りにより売られすぎという判断から、下げ止まったところで買いを入れてくる人も多いだろうと判断すれば、LPとしてはひたすら買い下がるという手はありである。しかしそれには勇気がいる。実際、あの時プライスを出し続けたLPは数行しかいなかったのではないかと思う。ほとんどのLPはレート配信を停止していたか、かなり頻度も、スプレッドも、量も絞っていたのではないだろうか。結果、勇気を出して買い下がり続けたLPはそれから数時間後にはばっちり利食い体制に入れたはずである。その時抱えていたロングをさばくには十分な買いが生まれていたわけで、簡単にさばけたことだろう(ポイントはその時買ってきた人はその前に売った人ではないという点であるが、この概念はオープンインタレストとかの用語に慣れた人でないとわかりづらいかもしれない)。実際のところそれが勇気によるものなのか、システム上の制約によるものかは知る由もない。


有象無象の個人投資家をたくさん抱えた業者から区別なく飛んでくる売り買いに対して、業者を一人の客としてしか見ることのできないLPにとっては、このFX業者は客として分析しづらい相手である。一般に法人の客なら相手が今ロングかショートかは見えているが、業者自体が一つのダークプール化している状態では、今買ったのに平気で損切りをしてくるというようなことが一日中繰り返される。受ける側としては受けたポジションをホールドするか、すぐどこかのLPを呼んで(多くはEBSで)さばくかの判断のよりどころがない。つまり一つの業者に対するプロファイリングが不能となる。
さらに最近は自動売買のせいで、毎時0分とかにまとまった売りや買いが押し寄せる。これは逆に“読める”部分が多少あるが、読めたからと言ってそれで儲かるかどうかはわからない。儲かったとしてもチケットコスト的に利益率がままならないかもしれない。やたらと細かいアマウントで大量に打ち込まれると、チケットコストが上がってしまうのである。だからできればまとめて発注してほしいという苦情も出るし、サーバーのキャパシティの問題もある。

スプレッド競争によって、1銭を切るようになり、リテール化のせいで1000ドルでも受け付けるようになったLPにとって、システムの維持費は高くつくわりに収益性は上がらないのかもしれない。その結果この業界から撤退するLPも出ている。逆に、ここぞ攻め時とばかりシェアを伸ばすLPもいる。過去15年の歴史を見れば、この業界のCPとしてトップシェアをとる銀行の名前は一定ではない。時とともに入れ替わりはある。いまやその気になれば20以上のCPと契約することも可能だが、本源的に流動性を出してくれるのは片手程度の銀行ではないだろうか。それ以外はおおもとのコピーである。私の視野にはその程度の数しか見えていない。業者がCPを選ぶときに大切な視点の一つとして、単なるECNやリサイクラーだけでなく本来の意味でのLPを混ぜることは大切である。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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