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尾関高のFXダイアリー

自動売買と助言業について改めて考える

■比較


自動売買モデルにもいろいろあるがその一つのモデルに対しては助言を取るという流れが当局から示されたという話を最近あちこちで聞く。実際のところは知らない。実体を見ると果たして助言ということばがピンとくるかと疑問に思う点もあるが、こういうことはこれに限った話ではない。

自動売買を分解すると以下の4つのポイントがある。

1)売買判断
2)発注行為
3)注文約定
4)口座管理

「助言」という言葉を聞いたときに普通の人が想像するのは、(1)売買指南は受けるが、それを(2)発注するのは自分であり、それを(3)執行するのは業者(第一種金商業者)であり、私以外誰も(4)口座のお金を動かせないと考えるはずである。現在見渡す限り、4)については他人が触れるモデルはないのでここでは議論しない。

上の(1),(2),(3),(4)に昔と今をあてはめて比較すると、下のような区分整理ができる。80年〜90年代に流行っていた助言のサービスと、最近のシステム売買のモデルの比較である。



違いは、(2)の発注行為である。“ここで買え、売れ”という指示(助言)が出たときに、自分で発注ボタンを押すか、あるいは自動的にシステムに発注させてしまうかが決定的に違う。顧客の納得(合意)するポイントは、かつての一つ一つの売買判断(助言)ではなくて、どのシグナルを選択するかという点に移っている。シグナルを選択した時点で、個々の発注に自分の同意がなくとも包括的同意があるものとして、一つ一つの売買判断に同意・不同意の意志判断を不要とするというプロセスが含まれている。また、それを実行する業者が売買判断から発注、そして約定行為まで、実際のシステム運営が別々でも契約上は同じ執行業者でまとめられているか、あるいは別々(助言のサービスと約定執行サービス)かの違いがある。突き詰めれば違いはここだけだと言っていいし、まさにここが重要だと考えられる。


■対価


 売買の判断と発注をする助言者と注文約定をする業者が独立した存在である限り、相反や顧客資金の濫用リスクはないという考えは、助言のサービスの対価がどのように発生し、支払われるかによる。

助言者と執行業者が違えば濫用リスクは低くなると考えがちであるが、実際はそうでもない。助言サービスの対価をマークアップで業者が得て、それを助言サービスをするASPや助言業者に支払う場合、注意が必要である。たとえば今月収益が悪いと思えば、自動売買のシグナルがたくさん出るように調整するということが仕組み上可能であり、その事実が隠ぺいしやすいとなると問題である。これは(1)、(2)と(3)が独立していようと結託すれば同じ事である。なので、個人的には、その点が確実に中立的であることが保証されるような運用とか枠組みを期待したい。業者が、実質的に一つ一つの売買シグナルが異常な売買を発生させていないかどうかを何らかの形で監視する義務を負うのは必然である。そういう意味で、現在執行業者側が助言業を取ることを義務付ける流れになっていると解釈しているが、業者自身に悪意があれば“ざる”になるリスクは排除しきれない。誤解のないようにつけ加えるが、今のところ私が知る限りそういう悪意のある業者は見当たらない。むしろこういうコンプライアンス的な姿勢として日本の業者は“くそまじめ”にすら見える(いい意味で言っている)。

一方ソーシャルトレードと呼ばれる海外で流行のモデルはこの悪意のある助言者=一個人投資家を業者側が監視し排除しきれないというリスクが大きいのである。個人的には、このモデルが一様に現在の助言業として同等に扱われることになると厄介だと考えている。現実論を度外視すれば、フォローされる個人トレーダーは対価を得るには助言業をもつ業者と委託業務契約もしくそれに似た契約をし、業者からのDue Diligenceを受ける義務を負う形にしないと助言の枠にはまらないのではないかと思っている。なぜそう思うかというと、助言かどうかという以前に、投資家保護の目線からして、誰だかわからない相手に人気があるからと言ってフォロワーの取引高に応じてリベートを支払うというのは、金融としてはまだこの国では成立し得ないだろうという私の勝手な常識がベースになっている。ゲームや、他のソフト等の商売と違って直接個人資産に結びつく商売なのである。そう簡単にはいかない。


■メリット


 システム自動売買モデルはさらに進化をしてゆくと考えている。その理由は、?売買高が裁量の顧客よりも安定的に増える。言い換えれば証拠金が有効に活用されている。?統計的に、業者がうまく提供するシグナルの評価を行う限りにおいて、顧客資産は増える、もしくは裁量にくらべて“長生き”する。?投資信託やヘッジファンドとほぼ同等のサービスであり、かつそう考えると飛躍的にコストが安く透明性が高く(パフォーマンスがガラス張り)、流動性(すぐ始めていつでもすぐ止められる)が高く、安全(口座残高はいつでも見られるし、保全されているし、解約もすぐできる)。ポンジースキームの入り込む余地はない。?は業者にとってありがたい。?は業者にも投資家にもいい。?は投資家にとってとてもいい。ということで業者投資家双方にとっていい話に見える。あとは、単純に勝つシグナルを提供できるかどうかである。


■課金体系


 助言という言葉の持つ意味はだんだんとそれが書かれたときの前提からずれ始めた。いずれ書き直すか、新たな用語とその定義が法文に足されることになるのだろう。大切なのは、提供される売買モデルが真面目に開発メンテされているのかということと、結果を考えずに売買頻度を上げるような操作をしていないかどうかである。このサービスを購入する投資家は結果だけが大切なのである。まちがっても売買頻度ではない。

それをわりと担保してくれるモデルは、売買ごとにチャージするのではなくて、結果に対してチャージする、いわゆるファンドの手数料対価モデルである。月間12分の2%の運用手数料と、期間で儲かったらその超過収益の20%(成功報酬)をいただきますというものである。一見高そうだがこの方がよりフェアであり、シグナルを作る側も儲からないと収入がないので真剣さが増す。間違っても売買頻度を上げようとは思わない。個人的には自動売買モデルというのは本来この課金モデルが理想である。結果儲かろうと損しようと、売買ごとにいくら支払うというのは、安そうに見えるがサービスの目的に対する報酬という意味では整合性(相関性)がない。その点だけ気がかりである。しかしこれも考えようによっては、売買ごとにチャージしている分は、運用費用の対価であり、つまり成功報酬は請求しないのだ、と主張されれば、私も何も言えない。ああ、そうかと退散する。がしかし、成功を求めるプログラムを開発する人にとってそれと連動しない対価しかでないシステムでどれだけ質の高い売買プログラムが開発運用されるだろうかと考えるとあまり釈然としない。すでに、スプレッドチャージ型と成果報酬型のそれぞれのタイプの売買シグナルモデルは海外で展開されている。今のところ前者の方が目立つが、後者のほうも相対的に質は悪くない印象がある。日本でどちらのモデルも提供されるようになれば、あとは投資家自身の判断である。

かくして、FXがコモディティ化し、ここにヘッジファンドや投信のようなサービスモデルのコモディティ化も自動売買というモデルを通して始まったかに見える。それは、投資家にとっていいことであるが、長期的に見た場合果たしてどうだろう。それはこれから先の評価である。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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