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尾関高のFXダイアリー

日本のFXの進化の特殊性

 今回は、日本のFX(外為証拠金取引に限定するが)の歴史において注目すべきこととしてどういうことが挙げられるだろうか。



一言でいえば、金融商品としては異例のコモディティ化を成し遂げたことである。それがいいことかどうかは別にして、この変化によって、あらゆる階層にまで浸透した。その母数というのは株に比べてまだまだ小さいが、参加者のデモグラフィとしては多彩であると言える。では、コモディティ化とはどういうことなのかを分解してみる。

まず、証拠金ベースの取引としては株の信用の3倍程度にくらべて数百倍にまで突き進み、そして現在は規制がかかり25倍であるが、それでも一般投資家が25倍でできる商品というのはほかにない。レバレッジをかけるということがどういうことかを一般個人が体験し、習得したのである。


次に店頭取引に慣れたことが挙げられる。それまで個人ができる金融商品は取引所上場ものばかりであった。しかしこれは店頭として始まった。それ以前にも店頭商品という意味ではいろいろあったが、ザラバで取引できる店頭の金融商品はなかった。同じような商品でありながら店によって値段が違う。だからどこが一番安いか、そして安心できるかという感性は、いわば主婦がどのスーパーの大根が安くて安全かを考える行動に似ている。一見わかりにくいような店頭取引も、そもそも取引所取引の方が特殊なのだという見方を与えることで、あ、そうかとなる。


あとから入ったネオ系と呼ばれる業者は徹底的にスプレッド競争を仕掛け、一般の商品と同じようなキャンペーンを次から次へと打ち出した。年がら年中キャンペーンが行われ(少なくとも米国ではこの手のキャンペーンは見たことがなかった)、スプレッドは極限まで狭くなり、流通業界であったような革命的な変化がもたらされた。これは既存の金融という文化を大事にする人にはなかなか踏み切れない変革だったと言えるだろう。いまでも格式ある金融会社はそこまでのコモディティ化にはついて行っていない。そこにはプライドや信用という意識が見え隠れするが、結果として見えるものは、最近の消費者=投資家はそういうものをなんらリスペクトしていないという事実である。

 こうしたコモディティ化を後押ししたのがネットでありスマホであると私は考える。どういうことかといえば、金融商品も、モノも表現媒体として同じネットやスマホの画面上に乗ることで、同じ技術やソフトが転用され融合してきたということである。アフィリエイト、ゲーミフィケーション、デバイスOSやソフトの進化、通信インフラの飛躍的向上など、そうした一つ一つの新たな仕掛けをこの金融商品は貪欲に吸収してきた。その結果、誰でも、どこでも、いつでも、親しみやすく市場に簡単にアクセスでき、その取引になにがしかの楽しさを与えるというサービスが実現したのである。加えて市場そのものが24時間であることがさらにその効果を株式市場に比べれば3倍のレバレッジで成し遂げたともいえる。


 市場の性質は何も日本だけではなく世界均一だが、欧米と大きく違ったのは、より小さな資産にまで業者が細かく手を入れてきたということである。1000ドル単位取引、初回入金制限なし、ひたすら続くキャンペーン、食べ物が送られてきたり、旅行が当たったりと(それまで銀行や証券会社の店頭でもらえる景品が何だったか思い出してみよう)、金融とは何の関係もないものとの関連づけ、FXをそれだけのものとせず、他の商品と如何に関連付けるかという業者の試みなど、業界は一部の富裕層よりもひたすら投資家のすそ野を攻めることに躍起になった。これは欧米ではなかなかはっきり見られる現象でもない。またそのための広告宣伝も、とても金融とは思えないようなセンセーショナルな手法が使われる。証券会社が自分の商品をモデルに「よくわからない」と言わせっぱなしにする宣伝が流れる時代なのである。一昔前なら絶対にありえなかった(昔は、よくわからない⇒丁寧に説明します、となっていた)。よくわからないのに口座を開かせたのかと真顔で言われそうだが、今の時代それを笑いのネタにしてしまう。むろん見ている側は、実際そんなわけないだろうと思っているので、真面目に批判すれば逆に空気が読めないやつと冷笑されそうである。


 日本では証券口座と先物口座が同じ証券会社で扱えるため、それらの相乗効果を狙う動きは以前からあるが、米国では株と先物は別ライセンスなので相乗効果を狙いにくかった。では実際そういう相乗効果はあるかというと、10年前に比べればあるように感じる。しかしその中身は全部株からFXではなく、FXから株の流れもあるのではないだろうか。特に若い世代でFXから投資を始めた人も多いだろう。

 こうしたコモディティ化の流れがたの金融商品にも波及していくだろうと仮定した場合、果たして10年後の日本の金融商品というのはどういう存在になっているのだろうか。いってみればこういう商品は金融業界のファストフードである。対極にあるスローフードが証券会社の店頭で分厚い目論見書を読みもしないのに渡され、入金してから運用開始まで1か月もかかり、解約も同等の日数がかかるような投信みたいなものだとすれば、このファストとスローの位置関係とかその中身はどのように変化していくのだろうか。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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