日本の外為店頭市場がどれくらい世界の外為市場に影響をあたえるのだろうか
世界で取引される“インターバンク市場”が絡む為替直物の一日の取引高は、諸説あるものの最近のボラティリティを前提として3兆ドルとする。一方、金先協会発表の日本の外為証拠金取引店頭市場の取引高をドルベースにして一日あたりで換算すると2千28億ドルぐらいとなる。比率としては、世界のインターバンク:日本の外為証拠金店頭市場=100:6.8となる。
では、そのボリューム全部が実際にインターバンク市場に流れ込んでいるかといえば、そうではない。日本の店頭外為証拠金取引市場で生まれるフローのおよそ60%から80%は業者のブックの中で消化されると推定している。いわゆるマリーと呼ぶ行為である。逆の言い方をすれば、20%から40%程度がインターバンク市場へと流れ込む。その比率に応じたインターバンク市場でのプレゼンスは上の表のとおりで、マリーされずにインターバンクのCPに投げられる取引高が顧客から生まれる取引の10%のときは、それがインターバンク市場に対して約0.7%の割合となる。すなわちそれだけの分インターバンク市場に“影響を与える”ということになる。ただし、ここではインターバンクの各CPの中でマリーされることを考慮に入れていない。
実際にどれくらいの割合がインターバンク側に流れているかは、正確な統計資料を手に入れていないのでわからない(そもそもそんなものがあるのか)。ここに金先協会が出している資料がある。それによると平均カバー率として45.5%が計算されている。個人的には30%〜40%がカバーされていると思っている。また、カバー自体は行っているとしてもそのほとんどが日締めのタイミングで一日一回だけ吐き出すというやり方をしているところだと、市場に対して“まろやかな”インパクトは与えず、たまったものが噴き出すような動きが散見される。最近のインターバンク市場ではその動きが午前6時や7時に見られるような気がする。そういう癖が顕著になるとインターバンクは見逃さない。意識的にプライスはずらされることになる。これを悪いことだなんて思ってはいけない。そういうことがあるから相場は動くのである。大量に攻めてくると思えば腰は引けて当たり前なのである。リクイディティプロバイダーはそうして自分のブックを守る。
実際何%であれ、最大全部出しているとして6.8%と考えても、すごい数字だと思うが、一方でこういうことも真実として頭に入れておきたい。今自分がある業者で1千万ドルとか5千万ドルを何度も取引していたとしても、その業者がマリーしていれば(NDDでなければ)あなたが見ている=取引に使っているインターバンクレートには何の影響も及ぼさない、ということである。つまり「見ている市場と使っている市場とは実質的に別物」ということである。仮にどでかいファンド並みの額を思いっきり業者経由で買いに行っても、その業者がそれを中で“食べてしまえば”見ている相場には何の影響も出ないということである。現実的にはそんな規模の取引を一人の顧客に業者はさせてくれないだろうし、自分で抱えられない量になると速やかにカバーに走るので、みるみるうちに相場が上昇するだろう。そういう意味である業者がインターバンクの気配とずれたレートを出していたとしても私は“あり”だと思っている。局所的に買いが集中しながらも、その業者が堪えて売り続けるのなら、その分オファーは上がってしかるべきである。しかし、それがインターバンクの金融機関なら許されても、リテールを相手にする業者ではよくないこととして認識されるようなので、結果インターバンクとずれたレートを出したくなるならその前にCPでカバーしなさいよ、という話になるのである。
金融業界では、透明な中心的市場から遊離しかつ孤立した非開示の市場を“ダークプール”と呼ぶ。反対に、取引所のように約定の履歴が開示されるようなところは“ライトプール”と呼ばれる。日本の店頭外為証拠金取引市場はほぼダークプールである。ただし強調させていただくが、欧米に比べてダークプールでもきちんとしている。日本の業者のコンプラ意識については世界一だと私は思っている。金融庁、金先協会の方々のご尽力もさることながら、業者業界自体がこの商品の健全性を守りたいという意識の表れでもあると思っている。
大切なこととして、ダークプールであっても疑われないようにその中身の健全性を担保する努力は必要である。一番いい手段は、それぞれの業者が積極的に約定ルール、レートの生成ロジック、カバーに行くときのロジックを開示することである。むろん中には他社にまねされたくないヒミツのロジックもあるかもしれないから全部とは言わないが、結果として大切なのは何%CPでカバーしているかではなくて、投資家に“ここでの取引はフェアで安心できる”と思ってもらえるかかどうか、である。