流動性のボトルネックへの対応〜新しい注文タイプとは
指値・逆指値についてはあまりいじる部分はないが、ワンクリック注文はこれからもいろいろと新たなフィーチャーが開発されていくことが想定される。
業者が苦しむのは、狭いスプレッドで提供するレートは本来せいぜい50万ドル分の流動性しかないのに、一斉にヒットされるとその総額が何十倍にもなることで、同時にCPでのカバーが追い付かないという現象である。一回につき発注可能な最大額を制限するという方法や、最悪大暴れするような顧客には出て行ってもらうという方法でそのリスクを何とか回避しようというアプローチはよく見るが、どちらも根本的な解決策ではない。
たとえば、今102.55−102.555という0,5ピップのスプレッドを業者が出している。本来これほどの狭いプライスならせいぜい百万ドルぐらいしか相手に出来ない。この業者は一回の最大発注額を50万ドルと制限していたとしても、同時に今10人が102.555を買いに来たとすると約定させるべき額は5百万ドルになる。その5百万ドルをこの業者はCP側で102.555よりも安く買わないと損をしてしまう。ところがCP側でも102.555で売りを出している相手を合計しても損瞬間において2百万ドルしかなかったら、5百万ドル全額カバーに行けば残りの3百万ドルは102.555よりも高い値段で買うので損が出る。ならば、そのレートで約定させられるのは総額50万ドルまでと制限を付ければカバーのリスクは減殺されるが、そうすると最初の一人だけ約定しのこりの9人、4百50万ドル分は不成立にしないといけなくなる。それでは客は来ないし、リテール化、コモディティ化した商品としてはなかなか理解を得難い。
こうした問題に対応するのが、SORとアルゴリズムである。SORはSmart Order Routingの略で、取引所取引において発達してきている。同じアプローチがOTCでも適用されている。いかにして、早く、合理的にカバーをするかという性能を磨くアプローチである。一方アルゴリズムのほうは、SORだけではカバーしきれない流動性リスクを、時間的次元で市場リスクを取りながら3次元的に流動性をとらえディーリング収益を向上させる機能といえる。いわばロボットディーラーである。これらはある程度の成果が見られるものの、十分とは言えない感じがする。
■ワンクリック注文に新たなフィーチャー
今後も新たなフィーチャーが出てくると言ったが、それはこういうものだろうということで、改めてワンクリック注文の中身の話をしておきたい。あくまでも私の頭の中では、今のところこう整理されているという話である。
ワンクリック注文はつまるところ成行きの派生ととらえる。旧来の成行きはレートの指定がない。ベストでよろしくという意味で相手に対して信頼しているよ、という前提がある。今この業界でこれは原則禁止である。そこで一定の条件を付与するという派生タイプとして、分類すると以下のものがある。
FOKは、そのレートで約定しなかったら全部キャンセル。一般的なワンクリック注文である。
FAK/IOCはそのレートで一回トライして入るだけ入れて、残りはキャンセル。部分約定あり。
FBOKは、旧来の成行き。レートは何でもいいからベストで頼む。アマウントもベストで頼むが前提としては全部、分割してもいいから全額成立させる。リテール向けにワンクリック注文として提供できるとは考えていないが、強制ロスカットには使われる。
FASは、これから導入が予想される注文タイプだと思っている。ワンクリック注文をするときにあらかじめ、2つのパラメータを顧客は設定する。
(1)許容できるスリッページ幅
(2)残った注文額を何秒指値でおいておくか。
この何秒という部分が私としてはミソである。言っておくがここで(も)開示しているのでよもやだれもビジネスモデル特許を取ろうなどとお考えのないように。
例を挙げよう。1Mで、ワンクリック(by FAS)で(1)=0.2ピップ、(2)=10秒として、ヒットしたレートが買いで102.55のとき、発注したレートは102.552までなら1Mまで買いますという注文になる。このとき50万ドルだけ102.552で成立したとする。その直後、102.552の指値が50万ドル分10秒間だけ稼働する。その間に成立しなければキャンセルされる。
この注文タイプは業者の流動性リスクを多少和らげてくれる。客側も単にキャンセルされるだけでなく一定の時間残り(全部か一部)を面倒見てくれる。ワンクリックで出す注文なのでその一瞬のモメンタムに反応して出した注文であるという前提に立ち、残りを指値でさらすことに有効期限を秒単位で指定するというのが私の考える新たなFASの注文機能である。さて、ここまであけすけにアイデアを開示したわけだから、だれか採用するだろうか。そんなに複雑な仕組みではない。秒単位の有効無効を判断するサーバーが若干大変かもしれないが、たいしたことではないだろう。
さて、まだ新しい注文のアイデアはあるが、今日はこれくらいにしておこう。