パラダイムシフト
先進国が作り上げてきた金融産業のディファクトスタンダードが急成長するかつての途上国(ロシア、中国等)によって打ち壊されつつある。今回のキプロスショックを見てそう思う。さらにそれはキプロスに流れ込んでいるロシアマネー、ロシアビジネスだけでなく、日本においては、金融業界の外側からの参入もそうであるし、世界の資本市場におけるチャイナマネー、チャイナビジネスもそうである。国、金、ビジネス主体において、今まで欧米の金融のプロたちによって作り上げられ洗練されてきた産業基盤、それは常識とか、慣行とか、ルールと呼びうるものだが、それらが土台から変化し始めている。キャッチ―な言い方をすればパラダイムシフトが起きている(安倍首相はパラダイムチェンジと言っているがそれとは意味が違う)。そう感じないわけにはいかない。
今まで疑いようのない常識がある日突然非常識と後ろ指を指されたり、まっとうだと思っていたことが突然不法・違法であるとか、いかがわしいと非難されたりするのがこのビッグシフトの兆候である。この業界における具体的な兆候は、スリッページの問題、ハイローバイナリーの問題、スプレッドの問題、ロスカットの問題などいたるところに出てきている。
そうした個々の変化をとらえてみれば、抗い切れないもの、押し返すべきものと分類されていくのだろうが、その結論に至る過程においてどれだけまっとうな議論が展開されていくのかという点がとても興味深いし、心配でもある。そもそもそういう議論を誰がするのか。彼らはそれを議論するに足る知識経験があるのか、あるとするならだれがそれを見極め選ぶのか。選ぶ人はそうした力量があるのか。追いかければきりはない。
インターネットインフラの充実とともに、市場が家の中に入り込んだ。それも世界中の店頭、取引所の市場がリアルタイムで入ってきた。世の中時価会計になった。企業だけでなく、個人の取引口座も時価で評価され、強制ロスカットルールが一般的になり、追証に苦しむという現象がじわじわとなくなりつつある。ほかに誰もこういう表現をしないが、私にしてみればこれらはすなわち“個人の資産運用にも時価会計が一部導入された”という意味に他ならない。追いかけてこないのは税制だけである。これだけはいまだ実現主義(それでいいと思うが)である。
日本初でやった私が言うのもなんだが、CFDの登場によってどんな金融商品でもレバレッジがかけられるようになったからといって個人投資家の誰もがそれを選好するわけではないことは、外貨預金残高を見ればよくわかる。日本で個別株のCFDに妙味はないと始めた当初から言っていた通りである。それよりレバレッジを掛けない外貨預金のほうに多くの投資家は目を向ける。CFDについては、FXにも証券にもないものを証拠金でやりたいという需要にだけ響くので、結果、金やエネルギー中心に取引される。
CFDも細かく分けると直物価格に置きなおしたCFDと先物そのままのCFDがあるが、前者だと限月がないので日々FXのスワップ金利と同じことが起きるだけで限月乗り換えがいらない。個人的にはその点が楽なのでJGBや日経225先物をやるならCFDでやりたいと思うが、そうした乗り換えを気にしないのであれば手数料比較のうえ有利な方でやる。CFDの概念はおよそどんな金融商品にも適用できる。あとは流動性と透明性の問題である。
エキゾチックオプションの一つとして日本ではハイローバイナリーが一部の業者で流行りだしたが、これも金融商品足り得るかという点で(協会のガイドラインはその議論の決着をみたが)物議を醸している。
こうした動きは新たな領域へと進化発展するプロセスとしては不可避だとおもうのでそれはそれでありだろう。大切なのは結論に矛盾がないことであるが、大方なにがしかの矛盾をはらむものと覚悟している。こうしたテーマの規制というのは、金融理論的にどうか、金融市場的にどうか、という目線と、社会道徳、社会秩序的にどうか、という価値観と、規制側の行政上の権限範囲という3つのファクターが影響しあうように見える。結果、純粋な金融目線での結論が導きにくく、難解な着地をすることが多い。私にはそのように見える。