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尾関高のFXダイアリー

バイナリーオプションとハイローバイナリー(協会自主規制開示後)

 私は約8年間インターバンクの通貨オプションブローカーをやっていた。ディーラーとしては2000年から2006年にかけて銀行を相手に会社内部でやっていた。リテールでオプションを展開するにはどういうモデルにするのがいいかを検証するためと、カバー取引に使えないかというテーマを目的にやっていた。そういう経験も踏まえて、リテール向けの店頭通貨オプションと今回の協会自主規制前後のハイローバイナリーについて考える。


■規制はハイローバイナリーだけでなくバイナリー全般に対するもの


 今回の協会のバイナリーオプションの自主規制の文面を読んで、お気づきだろうか。これはバイナリーオプションに対する自主規制として出されている。つまり“ハイロー”バイナリーに限っていないという点である。バイナリーオプションとは、いわゆるバニラオプションに対するエキゾチックオプションのうちの一つのグループを指す。一定の条件を満たすといくらもらうためには今プレミアムとしていくら払う価値があるか、というのがバイナリーで、その支払いがあるかないか、つまり当たるか(1)外れるか(0)という2つしかないという意味でバイナリーオプションである。別名ペイアウトオプションとも呼ばれる。さらに細かくいうと、現在90円のときに100円に一か月“以内”もしくは一か月“後”にタッチしたら10万ドルもらうには今3万ドルのプレミアムを支払うというワンタッチオプション。逆に一か月間一度も100円をタッチしないという方に賭けるのがノータッチオプション。円安側と円高側の両方にストライクを置いてどっちにもつかないという条件にするとダブルノータッチ。上記“”を付けた、“以内”という条件をアメリカンスタイル、“後”の条件をヨーロピアンスタイルと呼ぶ。アメリカンの方がプレミアムは高くなる。

現在日本の業者が展開するハイローバイナリーはヨーロピアンである。経験上、今スポットが90円のときに一か月後に90円より上だったらいくらもらえるというような最初の段階で内在的価値がない(意味は後述)バイナリーオプションを扱ったことはない。今後違うタイプの(健全な?)バイナリーオプションが出てこようとするときに、現在提供されている「超短期ハイロー」だけをターゲットとした今回の自主規制が足かせにならないような柔軟な、変更を含めた運用を期待したい。


■金融商品として


 金融商品として成立するための必須条件は常に業者はビッドとアスクを出すこと、これは以前にも書いた。これは今回の自主規制の条件に含まれている。特に先物仕様においては、顧客は買った相手にしか売れない、つまり決済できないので業者はその義務を負うのが常識である。途中解約(決済)できないのでは顧客のリスクがでかすぎる。どんな金融商品にも途中解約はある。


■市場リスク計算


 金融デリバティブ商品としては、業者としてなにがしかの金融等の原資産の価値の変動をヘッジする機能を持つこと。またそれが現実的におこなうことができること。また実際の運用において、そのヘッジによる全体のポートフォリオのリスク管理ができること(ブラックショールズを用いた通貨オプションでいえばデルタ管理ができることと等)が必要になる。今回の規制においては市場リスクの計算方法については何も触れられていないものの、業者単位でプレミアム計算のモデルの開示が求められうる(はっきりとは書いてないが)ような規制内容になっている。そうなると各社どういうモデルを使って計算しているかがわかるので待ち遠しい。ブラックショールズを使うなら、デルタプラス法で市場リスク計算ができるがそれ以外となると、内部モデル方式を申請しないといけなくなるので手間である。


■権利行使の客観性(当たり外れの判断)


 権利行使の判断の客観性とか中立性をどう担保するかについては特段規制は触れていない。業者自身がクォートするレートを行使判断に使うのが一般的なようだが、インターバンクは一般にEBSやロイター等において、市場で3百万ドル以上の約定を確認したレートでないとついたとはみなさないというようなルールがある。今後もリテール向けオプションがらみの商品が開発される可能性があるなら、この辺も少し工夫が必要なのではないだろうか。


■時間的価値(Time Value)と内在的価値(Intrinsic Value)


 ついでの知識として、バニラでもバイナリーでもブラックショールズをモデルとしたオプションの基本は、『そのオプションの価値は、時間の経過とともにその価値は下がる「時間的価値」と現在のスポットから、つまり売買価格を決定するに用いた原資産価値から、ストライク(権利行使価格)までの乖離の価値「内在的価値」から成る』である。この2つの価値に対して、市場の参加者の“思惑”(インプライドボラティリティ)と金利分が加味されて価格が決定される。インターバンクではこのインプライドボラティリティを取引し直接プレミアムを取引していない(例外はある)。


■射幸心


 かかる商品が金融商品として成立するかどうかという論点と、それが射幸心をあおるという社会的問題意識の論点はまぜて考えることは不可能であると以前にも主張した。観察期間を伸ばせばプレミアムは上がる。その代りモメンタムは時間とともに確定的になりデルタ値は無限もしくは0に張り付いてゆく期間が長くなるので実際にはいったんストライクから離れればチケット窓口が開いていてもペイアウト100に対してプレミアムも100か99とかになり誰も取引(購入)しなくなるだろう。そうなると2時間以上という制約によりストライクがスポットからかい離している(内在的価値のある)ワンタッチオプションの方が金融商品として妙味を感じる。そこに射幸心をあおるという目的も要素もない。


■業者のヘッジ


 話がややこしくなり恐縮だが、オプションを売る側(業者)にしてみれば、味方はセータ(時間的価値)しかない。よく理論的に計算できるとかヘッジはできるという意見や反論をいただくが、現実として負けないヘッジをスポット市場で安定的にできるか、という点で、私は非現実的だと主張しているのである。


■2時間という時間的制約の実質的な無意味さ


 時間的制約というのは金融商品としてはないと今までも言ってきた。下段(※)にてその理由を具体的に述べるが、上記の条件を満たすと結果的に超短期な数十分とかのオプションはそもそも妙味が薄らぐ。ビッドアスクのスプレッドの幅を如何に見栄えよく調整するかにかかっているともいえる。


■ストライクをスポットからあまり離さない


 現実的に考えると、満期を迎えるまで購入者は断続的に買えるし途中決済もできる状態を維持しながら、あたりとはずれの合計確率が100%を守るという2つの条件を満たす限り、今のようなハイローバイナリーのスペックで得る業者側の利益率は期待できなくなるのではないかと思われる。協会がストライクをスポットからあまり離さないようにとしたのは、極端な乖離によって賭け倍率を何十倍にもして射幸性を高めないように意識したのではと推測する。が、かといってスポットと同じ今のハイローバイナリーの仕様もどうかと思う。T社のみが、スポットから少し離した3段階のストライクを提供しているが、むしろ、リテールであるという前提にたち、なおかつバイナリーオプションとしての合理性を考えると2時間という時間枠でならスポットから20銭とか50銭、そして1円ぐらい離した複数ストライクを提供する方が良いとすら思う(現状の一日のボラティリティを考えて)。仮に1円は遠すぎるという意見があるなら、その反論として、開始時点では確かに1円であり遠いように思うかもしれない。しかし、規制により業者はビッドアスクをクォートし続けるのである。たとえば1時間50分後に、スポットが80銭上昇し、あと20銭まで迫ってきたとすれば、それは10分前の20銭乖離したストライクのオプションと同等になる。(※)

さてここで、わかっていただけるだろうか。10分は短期すぎるからダメと言いつつも、常時、最後までビッドアスクをクォートしなさいという新ルールによって最後の10分前に新規で買いに行くことが許されるので、2時間オプションであっても実質的に今と変わらない10分オプションの環境が“含まれる”ということである。ただし、今と大ききく違うのは、最後まで見届けるのが嫌なら2分前でも投資家は売り決済ができるという点である。これは公正性(業者に有利な条件の排除)としての価値がある。時間的制約は金融商品の仕組みとして意味がないというのはこういう事実による。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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