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尾関高のFXダイアリー

CAR(自己資本規制比率)とカバー率

 協会の数字から日本の業者のカバー率は平均50%。多いところはほぼ100%だそうで、これはEEモデルを採用しているとそうなる。逆に低いところは20%程度ではないかと思う。


 カバー率が低くてもCAR(Capital Adequacy Ratio)の市場リスク額をゼロにすることはできる。法的義務としての計算は一日一回で、それは日締めのタイミングを用いるところがほぼすべて(実は日締めタイミングにこだわる義務はない(※))。そのタイミングで出っ張っているポジションをいったんCPでたたいてスクエアにして、日付が変わったら速やかに反対取引をすれば、ブック上日締めではポジションがスクエアなので市場リスク(NOP)は“ほぼ”ゼロになる。ほぼ、というのは非対円の通貨をやっていると完全にゼロにすることができないからである。ちなみに、市場リスクが高いイコール悪いこと、ではない。リスクが高い分、その管理体制と十分な(固定化されない)資本があればなんら問題はない。カバー率が50%に満たなくても市場リスク額は50万円もないという業者が多いのはそういう仕掛けがあるからである。繰り返すが、リスクを取ることは悪いことではない。またCAR上、リスク額がないように操作することも悪いことではない。掉尾の一振と同じような現象である。少なくとも現在の法律が一日一回CARを計算し記帳すること、また毎月報告すること、店頭にて開示することというルールである以上、それをどうこう言うこともない。大切なのは見る側がそういうものだと理解して診(み)ることである。一般の上場している会社の決算報告書を見るときでも同様だと思う。相手のお化粧がどう行われているかを見ないと正しい姿に近づけない。


 一方で、カバー率の話になると、これもカバー率が低い=悪いこと、というニュアンスが漂うことがあるが、それも勘違いである。あくまでも店頭取引の原理原則は自己のリスク管理と資本力(=>リスクアペタイト)に適したリスクを取りながら利益を生み出すことにほからならない。体力もないのに100キロのバーベルを上げているような人には体を預けたくないが、体力バリバリで頑丈な人がそうするなら預けられるというのと同じことと言える。そういう勘違いは短絡的な発想、つまりカバー率が低い=市場リスクが高い=倒産する可能性が高い、があるのかもしれない。あるいは、=いかがわしい取引=プライスをわざと投資家に不利になるようにずらす、といったイメージがあるのかもしれないが、それらはまったく関連性がない。カバー率100%だろうか20%だろうが、それと顧客へのサービスの公正性とは関係ない。あくまでも問題なのはディーリングが失敗して倒産するリスクである。仮にそうであったとしても信託がバックアップしているので最悪全部なくなるということもない。取り返すまでに面倒に巻き込まれるがほぼ全額返ってくるような仕組みになっている。

すこし脱線するが、もっと厳密に言うとこれとて100%保証はされていない。返ってくる全額というのは破たんが宣告された時点での信託銀行にある残高がベースになる。その数字自体が実態とずれていたとしたら、それは信託銀行の責任ではなく受益代理人、もしくはそのスキーム自体の責任である。彼が日々正確な数字を計算しその額が2日遅れでもきっちり信託銀行の口座とやりとりしていることを守ってくれていれば安心だが、果たしてそのレベルにあるだろうか。誰も知らない。間違いや不正があったとして、臨店検査のときに検査官が見つけてくれれば幸いである。英国(FSA)では、買収のタイミングでそういう不正、粉飾が露見することがある。場合によっては収賄とかの刑事事件となることもある。ルールの完成度を担保するチェック機能がないと、いくらきれいなお題目も唱えるだけ無駄になる(脱線おわり)。


 リスクを取る前提で十分な体制を整えて結果カバー率が50%未満の業者と、リスクはとならない前提でカバー率90や100%の業者とを見比べたとき、あなたはどっちにより安心感を覚えるだろうか。難しい判断ではないだろうか。


 市場リスクを議論する場合、最近の状況を俯瞰するにつけ、あらゆる市場リスクにはシステムリスクが覆いかぶさっている。ミリ秒単位の取引からいまや取引所が率先してマイクロ秒単位の取引へと突っ走っている。一方で欧州ではそうしたHFTを制限して次の取引までは(例)200ミリ秒以上間をあけさせることをルール化したらどうだという意見まである。


 そもそも規制上市場リスクの対象となる為替のポジションはオンバランス取引としての為替予約とか、外債を持つに当たってのヘッジとかの足の長いポジションが前提となって生まれてきたリスク概念であるように思う。銀行もデイトレ―ダーのような取引をする反面逃れることのない長い脚のポジションも多く抱えている。またそうした長い足の、他に転嫁できないポジションが生み出す市場リスクの方が馬鹿でかい。これはそういう業者、金融機関にはぴったり有効なものさしだが、外為証拠金取引しかしていない業者に対しては“糠に釘”のルールである。この業界の業者がさらされる市場リスクは一日一回のNOPの計算では何も見えてこない。ならば何を見るのか。たぶんこういうものを見ることでその全体像は見えてくる。


 一日の顧客の取引件数と取引高、対CPとの取引件数と取引高
 顧客の売りポジションの合計と買いポジションの合計どちらか大きい方
 カバーの仕組み(自動か人間か、カバーするタイミングや頻度のルール)
 日中の瞬間最大イクスポージャ(ネットポジション)<-たぶんこれが一番有効
 カバーするシステムのパフォーマンス、脆弱性

 しかし、見えたからと言ってそれをどうするかは業者の意志であり、していないから今すぐ爆発するような意味での“危ない”というものでもない。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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