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尾関高のFXダイアリー

2月の数字とキプロスショック

■2月の数字



(取引高)


 金先協会の集計によれば2月の取引高は全体で366兆円(3.9 trillion US dollars)であった。先ごろフォレクスマグネイツで開示されていたGMOクリック証券とDMM証券の数字を比較すると、両者合わせて市場の40%をたたき出していたことになる。第3位が7%ぐらいあるという風に類推すると、上位五社で60%ぐらいのシェアになるのではないかと考えている。


 この数字は平成22年(2010年)の5月の327兆円という記録を今年の1月、2月で連続して塗り替えている。2010年月は93円に始まり途中88円台まで円高になり月末は91円台で終わった月である。円高でも円安でも一つのクライマックスを迎えるような“大相場”になれば取引高は倍レベルまで大きく増加することがよくわかる。レバレッジ規制のマイナス影響はあったかもしれないが、それを凌駕していると考えられるのではないだろうか。一昔前どこかのサイトで世界の為替取引高は1日に1兆5千億ドルという数字を見たことがある。最近では3兆ドルという数字を見たような気がする。そうであったとするなら、日本のこの市場(ドルベースで一日約0.2兆ドル)はその15分の1に相当することになる。それが大きいのか、どうなのか、ピンとこないし、よくわからない。ただ、もう通貨ファンドはいらないな、という気はする。アセットクラスの仲間入りをした通貨はもはやプロの手の中だけにとどまることはない。投資家が直接リーチできるし、プロの世界よりも取引コストは安いのである。



 ちなみに米国最大手FXCMが開示する2月のリテール取引高は、3586億ドルで、クリック証券やDMM証券の半分以下にとどまっている。FXCMはほかにB2BやECNが活発なのでそれだけでどうだということは言えないが、米国のリテール市場という意味では、このままのイメージでとらえても間違いはないと思う。



 個人的な感想だが、米国では為替に対するなじみは日本のそれにくらべると極端に低い。世界中旅してどこでもドルが通用すると本気で思っている人がまだまだいる国である。米国人の多くの人は海外旅行をした経験もなければ、隣接する州以外への旅をしたことがないという人も多い。まあ、国土が広いし、観光コストが高いので、ネバダ州の人がニューヨーク観光するのは日本人がハワイに行くよりもハードルが高いように思う。一方、株の方は下がっても日本よりはるかに速く立ち直っていく。日本と違い、損切りが早いからだと思っている。つまり、従業員のレイオフ、会社の整理・倒産といったことがさっさと行われていくぶん、代謝が早い。自然とそっちのほうが魅力的で親近感があるし、401Kも応援する形で個人マネーが流れ込む。


(通貨ペア)


 ドル円とユーロ円で85%。最近ユーロ円の取引のほうがドル円より多いのは、ドル円よりスイングするから売買のタイミングを取りやすいのだろう。特にデイトレーダーや、自動売買プログラムには好まれる相場の動き方になる。他のクロス円もそうだが、ユーロ円程スプレッドが狭くないので取引コスト的に魅力が低い。これを見る限り、30も40もの通貨ペアを提供することにどれほどの意味があるのかという気がしてくる。ユーロドルの比率が異様に小さいが、実際の額としては例月とさほど変わらない。他の通貨もそうである。ただ、ドル円とユーロン円だけが爆発的に増えたため、他の通貨ペアのシェアが極端に小さくなった。

 もうすこし突っ込んでいうが、ユーロドルは6か月前ぐらいと比べると半分以下に取引高は減っている。ユーロドルをやっていた人がドル円、ユーロ円にシフトしたり、ユーロドルの相場観が作りづらかったりと後付けの理屈はいろいろ考えられる。プロのファンドの世界でも昨年はユーロドルで成績を上げるのが難しかったという噂を聞いている。


(円ショートキャリー)


 取り立ててインスピレーションが湧いてくるわけではないが、円高局面だろうと、円安局面だろうと、“これから円安になるかな”という雰囲気になればキャリーは増えるし、損切りや利食いの踊り場に出ると減る。その額はドル円ならなんとなく3円から5円ぐらいという感じにも見える。つまり、3円下がると、さらに買い増しをするとか、5円抜けたら達成感から利食いが入るとか、そういうことである。この数字の重要性というのはそのイクスポージャの規模がどれほどインターバンク市場に影響を与えるかということだと思う。海外のヘッジファンドがこうした無防備にもさらけ出されるオープンインタレストを分析して、それにぶつけるかのようなカウンタートレードを仕掛けてくるかもしれない。彼らはこのキャリーポジションの多くがレバレッジ5倍程度で運用されていることまで知っている。ならばロスカットを巻き起こすためにはどこまで売り込めばいいかもおおよそ見当はつく。そういう意味での透明性は公正性が担保されない限り馬鹿正直に見せるものでもないように思ったりもするが、考えすぎだろうか。CMEだって残玉は開示しているし。


(自動売買)


今後は、取引高のうち、裁量と自動売買の比率を知りたいところだが、統計値として拾えるようになるにはまだまだ時間がかかりそうである。


■キプロスショック


 めんどくさい国である。銀行資産が国家経済の8倍。2011年に25億ユーロをロシアから借りているがこれも返済できない。ギリシャ危機のあおりを食らって結構大変なことになっている。今回IMFから100億ユーロの金融支援を受けることになったが、その交換条件として預金者に強制的に9.9%の課税を行うというわけのわからないむりやり徴税行為に出ることとなった。資産に対する課税が一回だけという条件で行われる(その後民衆デモや議会の反発がありこの原稿がアップするころには修正なり棄却されていることだろう)。課税回避目的でロシアマネーがたくさんこの小さな島に流れ込んでいるので、大きな影響を受けるのはロシア人だろうか。ギリシャ人とトルコ人が混在する中、ロシアマネーが大量に流れ込んでいる変わった国というふうに見える。民族的にも、経済的にもきな臭い。


この国には通貨オプション系の会社が多数登録している。小さな国だから、たとえEUメンバーとはいえ(確か昨年は議長国だったような・・・)まともな検査ができるとは思えない。EUの元、欧州金融市場指令に基づいた金融行政、規制政策がちゃんとあり、それが確実に施行されている(検査が行われている)という実態はあるのかどうかも疑わしい。そういう国に法人登録をしているFX業者で口座を開くのは結構勇気がいる。私なら、間違ってもやらない。調査目的以外では絶対手を出さない。金融庁のHPに掲載されている警告を与えた海外無登録業者のうち3社はこのキプロスに本社を置く。誤解のないように言い添えるが、この国にあるからいかがわしいとかではなくて、自分の資産の安全性という点で危険度は相対的に高いということである。

 一方、観光地としては最高らしい。私は行ったことがないのでわからないが、行った知人は、「サイコー」とおっしゃっていた。そりゃ、地中海である。エメラルドグリーンの海とさわやかな青空である。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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