驚異的な取引高とアセットクラスとしての為替について考えること
月間の取引高が30万本を超えることがほぼ世界的に業界トップのステータスだという一つの常識を持っていたが、どうやらその認識を改めるようなことが2月に起きたようだ。GMOクリック証券が86万本、DMM証券が72万本と1月の倍の数字を発表している(フォレックスマグネイツより)。
▼GMOクリック証券:口座数/売買代金実績
▼GMOクリック証券 記録更新(forexmagnates)
これは一日平均4万本を超える。これも私の勝手なライン引きだが、この業界で業者として生きていくための一つの生命分岐点として月間4万本以上という数値を一日でたたき出している。結果論的には2月の数字が倍になったことに驚きはない。むしろなるほどな、と唸る。それほどまでに個人投資家の売買活動は活発だったということか。かつてならば、13週も上げ続ける相場であればひたすら持ち続けるという戦略がマジョリティになりそうなものだが、今や取引は極めて短期的であり、利食ってはまたロングというサイクルをひたすら繰り返すことが容易に可能だった相場であっただろうし、日中の動きとしてはかなりのボラティリティも出ていたので回転売買を志向する向きにもかなりの機会を与えたことは想像に難くない。日中のボラティリティを心地よく出しながらも中期的には円安方向へと安定的に流れたことでこれだけの取引が生まれるというのはこの業界の投資家の“質”を観察する上ではとてもいい相場であった。また業者側を見ても、ひたすら客向かい(つまりカバーしない、“ノーガード”戦法)を続ければ大きな円安の波が来たら潰れるぞというシナリオが実際に起きたという噂もない。つまりそんなノーガード戦法など13週もやり続けるようなバカはいないことも証明できた。
実際円安トレンドだからといって円ショートキャリーが増えるかというとそうでもない感じがする。上段で述べたとおり、みなポジションが短期志向になってきているのではないだろうか。そもそも長期で円ショートする人はすでに70円台あたりでしている人ばかりで、彼らはむしろこの辺で売り抜けるとするなら、逆にこの辺で円ショートポジションが減少する。3月後半をまってデータ集めをしてできればその辺を確認してみたい。
従来為替はアセットクラスとしての認識がなかったが、90年代以降だんだんと為替をアセットクラスとして位置付ける銀行やヘッジファンドが増えだし、今や他のアセットクラスに比べても優秀な成績を上げるまでに至っているというのが業界の認識ではないだろうか。右肩下がりの市場で絶対収益のみを追求するしかすべのない為替はそもそも他の株、債権等とは違う条件下におかれている。その中で生き残るべく発展、進化を遂げてきただけにその足腰は強い。そういう見方をする人が今までどれだけいただろうか。
経済が上向きで、みんなが買うというときだけリターンを生み出し、逆の場合は如何に逃げるかという戦略しかとれない“アセット”がどれほど個人投資家の資産を食いつぶしてきたかについては改めて語るまでもない。一方、理解の不足からいまだに誤解をされつつもここまで成長する「為替」という商品をアセットクラスとして認識することは当たり前な話だろう。ならば、ここから投資家が最終的に利益を得られるか、投資リターンを確実に得られるかという点であるが、残念ながらこれについては何ともいえない。アセットクラスとして認識する一方で、為替だけはその取引高のほとんどにレバレッジがかかっており、投資家は常にすべてを失うリスクをはらんでいる。強烈なヘッジファンドに投資しても元本がゼロになるということはまずないが(ポンジースキームの被害は別として)、これにはある。為替のアセットクラスとしての優秀さはあくまでもそれを提供する業者や金融機関にとってそうであって、個人投資家から見ればそうとも言い切れない。むしろ、為替だけを独り歩きさせてヒーロー扱いするよりも、他の従来のアセットクラスにも含まれる為替の取引をもっと自由化し、このアセットとして扱われる為替の流動性の中に取り込んでいく取組が必要なのではないだろうか。そうすることで金融商品全体としての取引コストが低下し、投資家の益に資するものとなる。そういうことを行っていくことでこの為替を商品とした存在により強い市民権が与えられていくのではと思う。