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尾関高のFXダイアリー

高速化時代におけるスリッページに対する見方(2)

→高速化時代におけるスリッページに対する見方(1)はこちら


■経験的にみて


私も一投資家として最近よく経験するが、確かに画面上ではアスク=92.677でクリックしたはずなのに、約定結果を見ると92.679になっていたり、ひどいときは92.683とかになっていたりすることがある。その場合、そういうスリップに文句があるなら、許容スリップ幅を指定してくれと言わんばかりにそういう設定値入力ボックスがある場合まだましである。ないこともある。そうなるとちょっと問題である。

今日スリッページを入れるところがある場合、そこにゼロをいれてトライすると約定率が一気に下がる。拒否が増える。0.1とか0.2を入れるとそこそこ快適に約定するようになる。そこで疑り深い人なら思うはずである。これは実はそういうスリッページ許容幅を入れるように業者がコントロールしているのではないだろうかと。もしそうであれば、スプレッド0.2と謳っていても、それが提供されるのは相場が静かな時で、すこしでも荒れだすと、見た目0.2を維持していても実際には0.6が実質的なスプレッドじゃないかとなる。ならばそういうことを意図的にしているかどうかがユーザーに分かるかといえば、わかるわけがない。他方別の業者では、スリップさせるぐらいなら不成立で返す方がきれいでいいという考えもあり、そのようにモデルをデザインする業者もある。この場合統計上ストリーミング注文から生まれるネガティブスリップはゼロになる。さらにサービス競争の観点から、ネガティブはないがポジティブスリップはありというルールを取る業者もある。あまりにも多様化している。


■結論的にまとめると


以上いろいろ中身についての話をしたが、総論としては以下のポイントに整理できると思う。


・ポジティブでもネガティブでもスリッページは起きて当たり前であるということ。特に価格の更新頻度がここまで高速化してくるとどうしても避けがたい。

・ポジティブ、ネガティブスリッページの根拠をたどるにはモデルがEEでない限り合理性のある、かつ根拠のある説明は求めづらい。

・この論議はストリーミング注文タイプでのみ議論するほうがいい。

・システムの制約上、自然に生まれる避けがたいスリッページと、わざとずらすというのは別次元の問題である。

・そのスリッページが、ネガティブだろうとポジティブだろうと、善悪の視点で語る場合は、個々の中身をよく調査したうえでないと判断つかない。

お前ならどう対応するかと聞かれれば、当社はこういうルールで約定をつけ、スリッページはこういうケースで発生します、と謳うかぎりフェアであると思う。OTCとはそういうものである。うちはまずいよ、それでも食ってくかい?とかうちは高いよ、でもうまいよ!というのはお店ごとの主義主張、方針ということになる。問題は、そのサービスを受けている人が、だまされた気になるかどうかである。客にポジティブやネガティブスリッページを与えるかどうかではない。最初にきっちりと、わが社の約定の基本原則はこうであると謳い、その通りのサービスが提供され、データで開示される限り客は原則文句を言わないと思う。私がかつてここで店頭FXの最良執行方針として開示するのが望ましいと主張した、そのままの結論である。


■現実的に見て


通常のストリーミングでネガティブにスリップする場合は、スリップ許容幅で指定した値以内であれば文句は言えないが、そもそも0.1刻みなるとどれくらい業者が最初から出しているレートそのものにバイアスをかけているのか、あるいはいないのかというところまでみないと、スリッページが出たからどうだこうだという意味があまりない。たとえば、インターバンクでは現在92.455−459であったとして、今業者Xがみんな買ってきているから少し右にずらそう、ということでそもそも客に出しているレートが92.457−462になっているときにあなたが462でスリッページなしで買えたとしても本質的にはスリップしているのである。そういうことを考えていると、極狭スプ業者が0.1とかのスプになりながらもワイドな業者では1.0以上の昨今、その差は10倍以上という環境下で何が正しいレートであり、どこが意図的にずらしているとか、どのスリップがいかがわしいいとか間違っていると特定できるのか。

はたまたそれを特定することにどれほどの社会的意味があるのか。たとえば昔は実際の相場から2〜3銭以上離れたレートを出していると、意図的にずらしているという嫌疑がかけられやすかったが、今はどうだろう。そんなレベルのずれはあり得ない。ならばドル円0.2や0.1で出す時代に、0.2以上ずれていたらおかしいと判断されたとすると、それは違うだろうといえる。結局そこで問題になるのは、個々の投資家がどういう説明を業者から受けそれに対して結果が納得のいくものか、それともだまされたような気になるかという結論的感情論でしか前には進まない。



1ミリ秒単位で、0.1銭刻みでレートが目まぐるしく変わるときに、ホストサーバーと自分の家のPCとのレイタンシー(この場合、サーバーからレートが出て、客がたたいたあとに、サーバーに信号が戻って、約定判断がされるまでの時間を指す)が同等もしくはそれ以上長くある場合、0.1とか0.2滑った程度で“おかしい!”と叫ぶことにどれだけの意味があるのか私にはわからない。実際そういう極狭スプの業者で私も自己資金で体験しているが、正直10分の1の単位など“見ていない”。ましてや取引単位が1000ドル程度ならどうでもいいとすら思う。たたいた結果0.2程度不利にずれてもそれを知った時にはそれ以上相場が動いていれば気にしている暇はない。逆にそれがちかちかと0.1秒ごとに変わるのがうっとおしいからやめてほしいとすら思う。

人間のあるいは40台、50代の人の動体視力として0.1秒ごとの変化はついていけない。プロ野球選手ではないのである。0.5秒とか0.25秒単位で十分だろう。自分では92.345で買ったつもりでも、結果を見ると92.348で約定していたなんてことは結構あるというか、クリックしたレートと同じで返ってくることなど動いているマーケットではほとんどない。それでも私には文句はない。そんなもんだとわりきっているからである。だまされているという気持ちにもならない。スリップすることはありますと最初に書いてあるならなおさら納得している。「スリップさせません」、「すべらない」とかつてのひまわり証券みたいに言い切ってそうするのも一つのマーケティング戦略である。ならそれはそれでかっこいいが、そうなるとタイトなスプが維持できなくなる。そのトレードオフの中で業者ごとに知恵を絞ってこのスリッページ問題に対峙している。繰り返すが、その中でよこしまな発想が入らないように、すべてフェアであることを担保する方法は上述の、ルールとデータを開示することである。


というわけで、冒頭のベリタスの新聞記事に対しては、データだけ拾って比較すると優劣、そして疑念が生まれるのももっともだが、だからといってそれを「良し悪し」だけの物差しで測ろうとするのは少々短絡的なアプローチだと言いたかったのである。

(了)


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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