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尾関高のFXダイアリー

一任、助言のポイントと利益相反について考える

■段階ごとの考察


古典的なパターンから順を追って現在の姿へと変貌する過程を描いてみる。

あなたは私のトレードによる成績を信じ、ぜひ私のトレードをフォローさせてほしいという。私はそれを了解し、まず取引をするときに、その情報をEメールで渡すことにした。とりあえず友達なので、また私もビジネスとしてではないので、対価は要求しない。数週間後、何度かの取引を経て、彼の資産は100万円から現在110万円になった。とりあえずお始めとしては調子よく始まった。この時点では私は何も違法ではない。なぜなら一切の対価をもらっていないからである。

それから数週間して、あなたの運用残高は125万円になっていた。そこであなたは是非お礼がしたいという。とりあえず、成果の20%である5万円を私の口座に振り込んできた。あなたと私の間ではいかなる契約も紙面上かわしていない。ましてや対価や報酬についても何も約束はしていない。単にあなたが“お礼”として勝手に振り込んできた。


この時点で私の助言行為は“業務”となり、対価を受け取る行為は無登録の助言となり違法と認識されるのだろうか。どうだろう。

上記の状態が1年続いた。すでに成績は160万円になり、私は累計30万円もの“お礼”をいただいている状態であった。つまり、この“謝礼”行為が“常態化”している。さて、私は上段の状態が違法でなかったとしても、この状態化は違法性を強めるのか。あるいはすでに違法状態なのか。

私の売買シグナルはこの1年で自動プログラムになり、私があなたに送っている売買のEメールは私が直接書いているのではなく、私の作ったプログラムが自動的に送っているものである。そこで改めて私はあなたと契約を結ぶことにした。毎回売買シグナルを送るたびに、100円をもらうことと、毎月の成果に対して報酬20%をもらうことにした。ただし、その月の成果がマイナスのときは次回のプラス成果からその分を差し引く(いわゆるハイウォーターマーク方式)にした。むろん私はビジネスとしてこれをやっているつもりはないが、そういう契約は交わした。


 一方もう一人私のシグナルを買いたい人が現れたがその人は、毎回Eメールで指示をもらっても実行できないので、私が代わりに彼の口座で実行することにした。代行自体はシステム的に自動化できるので、私が設定をしたがその後の実行は彼のPC上で行われている。私は手を毎回下すことはないが、パラメータの変更時にはメンテナンスとして触ることがある。このサービスの対価は上の人と同じである。
 
 さらに私の売買プログラムが人気となり、とあるFX業者が私の売買プログラムを小売りしたいという。そこで私はこの業者に対して売買プログラムを配信し、業者がその先の個人投資家にシグナル配信を何らかの形で行っている。単なるシグナルをメールで教えるか、あるいは発注代行まで行うかのどちらかである。私はその対価を上述同様FX業者からもらうことになった。なので直接個々の客の情報は持っていない。さて、現行法に照らして、それぞれの段階においてどういう解釈が成り立つのか。


■利益相反にかんがみ


 売買シグナルを提供する側が、売買ごとに手に入れる手数料収入目当てに、顧客の資産の極大化を最優先としないインセンティブが存在するため、業界はまた規制当局は利益相反行為に対してはむかしから敏感である。そう考えるならば、売買ごとに手数料をとるモデルでなく、あくまでも成果報酬だけを対象にするなら利益相反が起きないので、こうした業者登録も本質的にはあまり意味をなさなくなるはずだが、現実にそういうモデルはない。いかなるファンド、投信も運用者と執行者は同じ側にいる。証券会社の窓口で売られているなんとか投信を買って、1年後に1%の配当をもらったとして、その1%になる前には、株式の売買による売買手数料が証券会社に支払われている。それは投資のリターンから差し引かれる分である。またそれが外債だったりすると、為替の交換レートにもマークアップが乗っかっている。その額たるや外為証拠金取引業界のそれに比べれば10倍じゃすまないかもしれない。そもそもそういう取引記録を見せてもらったことがあるだろうか。


■そもそも利益相反とは


よく業界で「店頭取引は顧客との利益相反だから・・云々」という説明を聞くが、それは文脈的に間違いである。その時点、取引時点での現象としては確かにそうかもしれないが、問題となる利益相反ではない。ならば問題となる利益相反と問題とならない利益相反があるのかと聞かれれば私はあると答える。


スタイルとかモデルとしての利益相反は、あなたが私から買ったのち、その商品の価値が上がればあなたが儲かり、下がれば私が儲かるという形式(相反状態)を言うかもしれないが、ここで問題となる利益相反は、その利益を確保するためには、あなたは私から買ったものを私に売る以外ない場合で、私もその逆をやるためにはあなたを相手にするしかない場合である。

たとえば麻雀がいい例である。4人で麻雀をする。点棒による利益損失はこの4人の中でのゼロサムになる。なので自分が利益を得るためには参加する他の3人から手に入れる以外ない。そうなると不法行為の誘惑が生まれてくる。この状態が問題となる利益相反にあたる。一方、あなたが私から買ったものが、まったくの第三者に転売可能な商品だったとしよう。あなたはそれを私から100万円で買ったが、別の店に持っていったら200万円で売れるとする。そうなるとあなたと私の間ではゼロサムは成立しない。なのでここでの一時的な利益相反は恒常性を生まないので問題となる利益相反ではないと、断言できる。翻って、店頭外為証拠金取引の一般的モデルでは、顧客は利益を確定するためには同一の業者でしかできないが、業者側は利益を確保するためにカウンターパーティと取引することでそれを実現できるのでここでクローズドな状態から解放されている。CPでのカバーが終われば、客がそのあと儲けようと損しようと中立になれるのである。したがって、店頭外為証拠金取引における利益相反モデルは業者側においてクローズドではないので全体としてクローズドではないと言え、問題となる利益相反状態は発生しないといえる。これが私の「利益相反」という言葉に対する定義である。完全にカバー取引をしない意図と実態があればその業者は顧客と危険な利益相反状態にあるといえるが、客から放り込まれるポジションはカウンターパーティでカバーしつつ、社内の一定のルールに従ってポジションをとっている場合は、問題となる利益相反とは言えない。

業者が利益を上げるには、顧客に損をさせる以外ないというクローズドな利益相反モデルはハイローバイナリーで発生しているが、それ以外では発生しているとは認識していない。


■売買シグナルの立ち位置


話戻って、売買シグナルがらみであるが、売買シグナルごとに手数料もしくはマークアップ収益が確保されるモデルになると、シグナルの質に無頓着にひたすらその発生回数が多いほうがいいということになりがちだが、今の時代投資家も学習しているのと、パフォーマンスがリアルタイムで確認できるし、自分のシグナルが全然成績が振るわない割に売買回数がやたら多いとなればすぐにやめることができるので、そういうあけすけなシグナルも売りづらくなってきている。結構なことだが、一方で売り切りの売買プログラムなどは、気づいたときにはすでに売った業者がネット上から消えているということもあるので、買うときは気を付けないといけない。

そうしたグレイでリスキーな部分があるにせよ、今まで証券会社の店頭で売られるなんとか投信にくらべれば、はるかに透明性と納得感のあるファンドサービスがこうした売買シグナルから得ることができるようになったことはある意味新たなオルターナティブの登場であるといえる。AIJの事件に遭遇してみて、いままでなんとか投信とかなんとかファンドを買っていた方々はどう思われただろうか。めんどくさい手続きの果てに1年間資金を寝かせて手にした配当が1%なんてことはざらである。そのファンドにかかわった各業者は2%や3%抜いているのにである(いつも絶対そうだとは言わないが)。


この新たに台頭しつつある自動売買、売買シグナル、ソーシャルトレード(フォロワーとコピヤー)といったモデルは、今までの一任勘定、助言という枠組みでとらえるには本質的な部分で大きな違いがある。そういう個々の特質を吟味したうえで、現在の規制の枠組みに無理やりはめ込むか、あるいはなにがしかの配慮をもって臨むか、臨めるか、個人的には今年注目のテーマである。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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