リスクの受け手と国益の関係
■誰が市場リスクを取るのか
米国ではどんどんとNDD(EE、すなわち業者は約定判断をしないでCPに任せる)モデルが主流になりつつある。そして透明性を担保すべく、ECN化が加速しそうである。それは当局の強い意思でもある。その代り市場リスクの受け手には事欠かない。名だたる国際銀行や彼らに代わってリスクをとり流動性を提供することに特化したヘッジファンドも活躍している。
一方で日本はというと、マジョリティはDIである。つまり顧客から放り込まれる市場リスクを受けている。そのヘッジ先は日本の銀行ではなく、ほぼ100%欧米(一部アジア)の銀行やヘッジファンドである。
これはつまり、このリテールFX市場において、欧米で市場リスクを取るのは本家ともいえる金融機関と台頭するヘッジファンドであり、日本ではFX業者であるということになる。人によって言う数字は違うが、日本のFX業者からインターバンク市場にヘッジされる取引高は顧客のそれの20〜30%ぐらいだろう。あとは業者のブックの中でマリーされているようである。
■国益の観点
これを国益という視点でとらえるとどういうことになるか。米国の場合、FX業者は実質手数料とえいえる分の鞘(マークアップ)だけを抜き、市場リスクをとらず、代わりにヘッジ先である欧米金融機関やヘッジファンドがその取引「全部」を受けて、リスクを負いながら利益を生み出す。一方日本の場合、FX業者は70〜80%の顧客取引を自分のブックで消化するのであれば、20〜30%しか外に出さない。ほぼ日本のFX業者全部と言っていいがヘッジ先は海外である。カバーした分だけは収益チャンスを海外に流出させることになる。市場リスク=利益である保証はないが、このビジネス(OTC)の根本は市場リスクから利益を生み出すことであるから、収益の「種」は20〜30%しか海外に流出していないともいえる。
もし、日本も米国のように業者は全部NDD(EE)でやりなさいとなると、この収益源が全部海外に流出することになってしまう。国益を考えればそれは損な話なので、そうならないことを祈りたい。できるものなら、20〜30%分の取引も国内の金融機関で受けてほしいとすら思う、それが外銀でもいいのだが、日本でその税金を落としてもらいたいというのが国益の観点からは自然な願望である。
米国でもヘッジファンドが流動性を提供するようになる流れを後押ししたのはやはりリーマンショックだろうと思う。そういう銀行で働いていた人材が独立してヘッジファンドとなり、そこに資本家が結びついて機能し始めるということが容易にスピーディに行われる土壌があるからではないだろうか。運用のスキルも知識も十分。大体はアルゴリズムを駆使したヘッジを行うのだろうが、そこである程度マリーし、残った分をさらにインターバンクでカバーしてゆくモデルもあれば、小刻みにカバーしてゆくモデルもあるだろう。今のところ運用に失敗してつぶれたという話は聞いていないので(聞こえてこないだけかもしれないが)、とりあえずうまくいっているようである。
翻って日本のモデルといってもいいが、FX業者が直接市場リスクを負って収益を生み出し、インターバンクに20%程度しか出さないというのは、市場の効率性からいうととてもいい。だからこそ日本は世界的に見て激しいスプレッド競争が可能になる。つまり、市場リスクから生み出した収益を顧客にダイレクトに還元しているといえる。取引高だけなら日本一はイコール世界一になる原動力でもある。問題は、そうした市場リスクを適正な形とレベルで管理できているかどうかという一点に尽きる。この点、私としては大きな不安をぬぐいきれない。その不安は近年大きくなりつつある。
信託保全を始めたから業者がつぶれても大丈夫といえばそうなのだが、だからといってしょっちゅうつぶれては社会不安を引き起こしかねない。だが東北大震災のボラティリティでつぶれたFX“事業”はない。まずはそのレベルは耐えられるという実証はできた。しかしこれは円高のシナリオである。では円安のシナリオで同等のボラティリティが発生したらどうなるだろうか。今後市場で試されていくことになるが、一つとしてつぶれるようなことがないよう、各社市場リスクコントロールを軽視せず、知恵と時間と勇気を惜しまないことを祈るのみである。