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尾関高のFXダイアリー

日本独特のハイローバイナリー〜私の抵抗感の根拠(2)

→日本独特のハイローバイナリー〜私の抵抗感の根拠(1)はこちら


■つまるところ、私はこれをバイナリーオプションとは呼ばない


見た目や名前だけで同類と判断するのは危険である。猫の品評会にチワワが出てきて、猫です!と言えば猫なんだとそのまま素通りしているような気分であるが、そういう分類が大切かと言えば大切である。少なくとも私はこだわりたい。こういうことは、特に規制の面で大切になる。誰が将来永久に日本ではフィナシャルベティングは解禁されないと言い切れるだろうか。もしされたとき、これだけ変なポジションに陥ってしまう。


 現在金先協会にて一部の業者がワーキンググループを開催しており、バイナリーの問題点についてどう改善すればいいかを検討している。その資料も知り合いのつてをたどって読んだが、資料の中に賭博法との関連について、平成11年11月29日付の、金融法委員会によって出された、「金融デリバティブ取引と賭博罪に関する論点整理」というレポートまであった。私の論点からすれば、ハイローそのものが金融デリバティブ取引かどうかに疑念を持っている状態では金融デリバティブが賭博法にあたるかという議論は対象とすべき論点の次元が違う。その議論はすでに決着していると思う。これはそれ以前の問題である。「ハイロー」は賭博法にあたるかという論点ではなく、「ハイローはそもそも、いわゆるバイナリーオプションか」という論点で十分であるというのが私の論点の中核である。


 現在のワーキンググループ(WG)の議論の方向は資料を読む限り、欧州にはベッティングに対してちゃんと法規制が成立しているので、これはどっちに入るかという比較論を展開しやすいが、その比較対象を持たない日本においては、自分自身(商品自体)が何者であるかを客観的に分析できないという典型的な状態に見える。金融デリバティブが賭博法に抵触するかという観点よりも、金融デリバティブ商品とベッティングの2極を立てて、どっちに入るかという議論の方が明快な根拠をもった結論を求めやすい。

WGは、あたかもハイローと同じ種類として、海外のバイナリーが置かれる規制環境を比較しているが、そもそもボタンを掛け違えているように思えてならない。上の例を使えば、チワワを前に猫かなと疑問を持ちながらもどんどんとチワワの外見を猫っぽく見せようといろいろ手を加えているように見えるのである。たとえば、取引回数が多すぎるという問題点が指摘されているが、その会話を想像してみて欲しい。期間が短すぎないか?→じゃあどれくらい長くすればいいでしょう?→「・・・・・」→6時間ぐらいでしょうか、いや12時間?→「他の類似市場も参考にしながら・・・」→「まあこれくらいが妥当じゃないでしょうか」


こういうのは真理を追究する議論とは違う。この辺で手を打ちませんかという政治的交渉である。こういう議論は、ハイローオプションが金融デリバティブ商品として、金商法上認められることが確認されたうえでの話である。逆に言えば、回数が問題で金商法上認められない、というのならそういう議論も必須になる。しかし、回数は分類学的に見て関係があるとは思えない。回数(期限の長短)などは業者のリスクヘッジの仕組み上及びその運用リスク上、また営業上の損得から『裁定』が働いて一定の“常識的な”レベルに落ち着くべきものである。規制として天から降ってくるものではないはずである。この辺は、レバレッジ規制のときと同じ質の議論になる。


まず第一発目に賭博との類似性という大問題を掲げているのだから、それについての議論を最優先にこなし、その結論ハイローを金融商品として認めるとなったら、あるいは、今ある仕様をどう変えたら金融商品として認められるかという話をするべきではないのだろうか。投資家保護の観点からさらに仕様に調整をかけるのはその次になるはずである。“料理”の順番としてはそうだろうと思う。


■ハイローを金融商品として成立させるために必要な変更


最後に今のハイローを金融商品として成立させるために必要な変更は何かを考える。


1.業者がツーウェイを提示すること。これにより顧客は買ったオプションを途中決済できること。ツーウェイは行使期限(expiry)まで提示し続け、期限前の“締切”をやめること。

2.ツーウェイ価格は原資産の変動に伴い論理的に反応すること

3.プライシングモデルを開示すること。少なくとも当局には開示するべき

4.ガンマ、ベガの計測が可能なこと。もしくは内部モデルにおいて市場リスク額が定義されること。そしてそれらリスク額のリアルタイムにできるだけ近いモニタリングができること。むろん財務局にその内部モデルを了承してもらえること。

5.ヘッジ市場を持つこと。実際にヘッジするかどうかは裁量の問題としても、いざというときに速やかにヘッジ行為ができる環境を備えること

6.アットザマネー(ATM)でのワンタッチはだめといわないが、まともなプライシングモデルが前提になるととても買いたくなるようなプレミアムにはならない。ほおっておいてもATMをストライクにしたワンタッチオプションは消えてゆくだろう。インターバンクでもそんなワンタッチを買う需要は聞いたことがない。

 実際にこれらの改変をすると、たとえ10分間隔での市場を提供しても今のようなオッズを出すのは困難になるだろう。1の条件により、親の総取りがコントロールできなくなるからである。よって、一日12回までとか、セッションを12時間より短くしない、というような規制は不要であると思っている。一部海外のオプションブローカーは1分バイナリーを提供しているがこれも裏側は丸のみであるとしか思えず、業者側のリスクはその大小にかかわらずコントロールできないだろう。一応現在これを提供する国内FX業者6社(オプション業者はまだ)を見て回った(随時口座を開いて経験している最中)が、内2社は海外からの業者でそもそもバイナリーオプションの体をなしている。残り4社のうち、X社のみ、かなりワンタッチオプションを意識しているところがあり、これはあとツーウェイプライスにして途中決済を認めれば標準的な、私が考えるところのバイナリーオプションになる。


■海外勢の大きな勘違い


 現在の商品性はその倍率に妙味があるが、まともなワンタッチオプションのモデルになり、途中決済(ツーウェイプライス、締切なし)にすると、そのプライスはかなりワイドにならざるを得なくなると考えている。海外系の同様のプラットフォームで確認してみるといい。ほんとうにワイドなプライスである。しかしそれが実態である。海外勢が日本でバイナリーが人気だ、それいけとばかりにこぞって参入してきているが、大きな大きな勘違いである。

日本で流行っているのは彼らが売っているバイナリーではないのだから。

(了)


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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