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尾関高のFXダイアリー

どうせバイナリーをやるのなら(参照:金先協会会報94)

現在のバイナリーオプションはその経済合理性の観点から不適当であるという意見がある。「経済合理性」の意味にもよるな、と思わずにはいられない。バイナリーの存在を正当化する経済合理性の説明も十分できるし、その逆もまたしかり。そういうプラス面とマイナス面とを合算してプラスなら経済合理性がある、という場合でも客観的な数字にきっちり置き換えられないので最後は主観的な判断にしかならない。

協会が会報94の参考2でいろいろ事例を挙げてくれている。これによればバイナリーオプションを上場する取引所は、CME、CBOE、CBOT、NADEXといろいろある。通貨に限ってみると、最短では2時間のものがNADEXで上場されていることがわかる。

▼[金融先物取引業協会:会報No.94] 米・韓FX取引高、バイナリーの規制関連(PDF)


 これが金融商品か賭博(ベッティング)かという定義は国によって微妙に違うようだが、全体的に見て金融商品として市民権を得ている。ただしあくまでも取引所取引を見た場合なので、そこでは透明性、仕様の一貫性というものが担保されているという前提もあることを忘れてはいけない。

これが店頭になると一気に不透明さ(清算価格の非客観性、ハイでもローでもない失効ゾーンの存在とその事象でのペイアウトの扱いの違い、カバー市場の契約上の有無、まちまちな仕様)が増してくることが問題だと思うことは前回で触れたとおり。以上、やるとしたらもう少しチューニングがいるだろうという観点の話だが、それ以前にそもそもやっていいのか、という問題になるとそれは規制当局の判断次第なので何も言えない。客観的な関連事実はこうして協会が丁寧にまとめてくれている通りなのだから、あとは日本の特殊性をかんがみながら判断されるのだろう。


 時間について短すぎるんじゃないかという意見も聞かれる。個人的には印象として確かにそうだなと思うが、だからといって時間の長い短いはこのモデルの存在の可否の議論の対象だろうか、とも思う。認められるとした場合と限定しての話だが、長いか短いかは経済合理性という観点に当てはまる重要な論点となるのだろうか。ここで冒頭の疑問に戻ってしまう。1分毎とNADEX市場をヘッジ対象と仮定して2時間毎とで比較した場合、一日で開催されるセッションの数は1分のほうが多い(期間をかぶせるとそうでもないが)ので、その分業者はより多くの収益もしくは損失リスクを抱えるだろうか。1分の場合100円が200円になる掛目とした場合、2時間なら100円は1万円になるのか、あるいはやっぱり200円のままか。そうなると時間的価値はどうなるのだと思うが、そもそもブラックショールズではないと割り切っているから関係ないのだろうか。


 みな、バイナリーは業者として儲かると思っているかもしれない。ヘッジ(カバー)などできる市場がないが、あってもやらない方が儲かるという議論も聞く。しかし市場にモメンタムがしっかり生まれてくる状況を想像してみてほしい。じわじわ円安か円高が進行する状況でカバーなしで業者は勝てるだろうか。モメンタムが明確になれば反対方向に賭ける人よりも順張りする人の方が当然多くなるだろう(円安が持続すればハイに賭ける人の方が圧倒的に多くなる)。そうなると、セッションを開けば開くほどノーカバーの業者は負けることになる。ならば、勝ちそうなサイドのオッズを2倍から1.5倍にして、反対を2.5倍にするとかの調整をすれば何とかなるかと考えそうだが、相場の流れでオッズが理論的に変わるならむしろオプションらしくなる。ただしここまでどっちでも同じ倍率で慣れてくると投資家からは疎まれるだろう。あたかもそれが定性的な仕様のような言い方だとよろしくない。あくまでも“今のボラティリティだから”どっちも2倍なんです、という説明でないとあとから変えづらい。そういう相場が来たらどうするつもりなのだろうか。金融デリバティブ商品は原則、その原資産市場がどういう状態でも存在しうるものでなくてはならないと思うのだが、そういう意味で現在日本の業者が出す商品仕様には普遍性を感じない。


 本来なら、ペイアウトが100円とすると、それに対してハイにいくらのプレミアムを払うというビッドといくらのプレミアムで売ってやるというアスクがあるのが「市場」である。ロー側もしかり。今のモメンタムが円安だったらそれを反映して、ハイ側のビッドアスクのほうがロー側よりも高くなる。そういう具合に市場は思惑の需給を反映し、成り立つものなのだが、そういう『市場性』がないのが「どっちに転んでも2倍」というモデルであり、この点において個人的に、市場性がないから金融商品とは言いにくいなと思うのである。ちなみにNADEXのバイナリーにはちゃんとそれがある。ついでながらNADEXのHPでは清算価格(ハイローの判定)はロイターからとる、ロイターがダメな時はブルームバーグもしくそれ以外の情報ベンダーからとる、と書いてある。

 協会の説明を読むとよくわかるが、バイナリーの存在意義は起こりうる事象がありかなしかという性質ものにとても合う。日本でも米国同様自然災害のバイナリーを上場してもらってみんなでオッズを形成してゆくのは公共性が高い。たとえばだが、「一年以内のM7以上の地震が起きたらペイアウト1万円」というバイナリーの市場がいくらになるだろうか。興味深い。それを損保・生保会社がヘッジ市場として使うというのはまさに共済組織を社会が支えるという意味では大きな社会インフラとなりうる。これぞ経済合理性高しといえなくはないか。さらにそこに外資が入ってくれれば結果的に災害による復興コストを外資まで負担してくれることになる。もしそういう市場がたつのなら、日本の災害バイナリーのオッズは結構高くなりそうではあるし、さらに原発事故放射能汚染オプションも上場検討に値するかもしれない。なにせ損害額が大きすぎる。そういうことを考えると、今後自然現象を対象とする金融商品の開発はより真面目に検討されていく感じがしなくもない。 


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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