LIBOR不正疑惑(事件)を知って考えること
今回のLIBOR不正操作疑惑が提示する問題の核心部分は何か。それはつまり指標に基づいていろいろなサービスを提供する側がその指標そのものを決定する権利を持っているという自己矛盾だろうと思う。そもそもLIBORとは何かという説明はウィキペディアでも見てもらえればわかるとおりで、その最初の部分にはこう書かれている。
[参考] イギリスの金利不正操作問題(yahoo)
LIBORとは「London Inter-Bank Offered Rate」の略で、ロンドン銀行間取引金利のこと。「ライボー」のように読まれる。一般的には、指定された複数の有力銀行(リファレンスバンク)から報告された11:00時点のレートを英国銀行協会(BBA)が集計し毎営業日発表している「BBA LIBOR」を指す。特に6か月物は短期金利の指標として使われることが多い。
•London - 国際金融市場の中心ロンドンにおいて
•Inter-Bank - インターバンク(銀行間直接)取引で
•Offered - 資金の出し手から提示される
•Rate - 金利、利率
資金調達コストの基準として用いられ、調達コストの割高/割安をLIBORとの比較で表現されることが多い。例えば、LIBORと同水準で社債等が発行された場合には「LIBORフラット(ライボー・フラット)」或いは単に「Lフラット(エル・フラット)」と表現される。また、特に信用力の高い企業では、LIBORよりも低い水準で資金調達を行なうことができ、その場合「サブLIBOR(サブ・ライボー)」と云われる。
(以上ウィキペディアより抜粋)
一方それと同等の役割を果たすものとして日本でもTIBOR(タイボーと発音する)がある。これもウィキペディアに説明があり、以下はそれからの抜粋。
TIBORとは"Tokyo Inter-Bank Offered Rate"の略で、東京の銀行間取引金利のこと。「タイボー」のように読まれる。一般的には指定された複数の有力銀行(リファレンスバンク)から報告されたレートを全国銀行協会が集計し毎営業日発表している全銀協TIBORを指す。1995年11月16日から公表が開始された。無担保コール市場の実勢を反映した日本円TIBORと本邦オフショア市場の実勢を反映したユーロ円TIBORの2種類があり、それぞれ1週間もの、1ヶ月〜12ヶ月ものの13種類が公表されている。日本円TIBORは15金融機関、ユーロ円TIBORは14金融機関の呈示した金利から上位2行と下位2行の値を除いた単純平均により求められる。ロイターでの表示ページ名から、日本円TIBORをDTIBOR、ユーロ円TIBORをZTIBORと呼ぶことがある。
TIBORは東京の銀行間取引金利のことであることから「三井住友銀行TIBOR」といえば三井住友銀行が東京のインターバンク市場で呈示したレートを指し、「みずほ銀行TIBOR」「三菱東京UFJ銀行TIBOR」などとは異なるレートとなる。こうした各銀行個別のTIBORは、全銀協TIBORとは異なる条件となるため、呈示した銀行は「Our TIBOR」などの呼称を用いることで区別する。
(以上ウィキペディアより抜粋)
私たちが深くかかわるローン金利等もこれらの影響を受けるが、ほかにもまだある。「プライムレート」というのがそれである。これには一年以上の長期とそれ未満の短期がある。住宅ローン変動金利はこれに連動することが多い。ついでにこれもウィキペディアから抜粋する。
長期プライムレート(ちょうきぷらいむれーと)とは日本の金融における用語で、民間金融機関が企業に対して期限1年以上の融資をする際に最低限度となる金利(最優遇金利)のことである。略称は長プラ。
金利自由化以前には金融関係者の協議によって決められており、「長期信用銀行の発行する5年物金融債の利率+0.5%」を基準とするのが慣例であった。
(以上ウィキペディアより抜粋)
日銀のウェブサイトにも以下のページがある。
▼日銀:長・短期プライムレート(主要行)
・短期プライムレートには、1989年以降、都市銀行6行(みずほ、三菱東京UFJ、三井住友、りそな、みずほコーポレート、埼玉りそな)が短期プライムレートとして自主的に決定した金利のうち、最も多くの数の銀行が採用した金利および最高、最低の金利を掲載しています。1989年1月23日以降、金利決定方式を総合的な調達コスト等をベースとした方式に変更しています。
・長期プライムレートには、みずほコーポレート銀行が、長期プライムレートとして自主的に決定・公表した金利を掲載しています。
こうした「指標」として発表される金利に基づいて様々な法人個人向けの貸出金利が決定されている。そして問題になるのはこうしたポジションの基準評価レートを決定しているのがそうした商品を売っている銀行であるということである。
当たり前な話だが、自分が貸し手に回っているときはできる限り金利は高いほうがいい。一方借り手に回っているときは低いほうがいい。指標に採用される銀行が指標決定に使われる金利を報告するときにその金利の妥当性というものがどこまで正確に実勢を反映しているかという検証を部外者がすることは困難である。そこは性善説に立って報告された金利を信用するというのが従来の言わずもがなの前提であったのではないだろうか。しかしながら、近年そのモラルというものがどんどん低下しているというのが今回のLIBOR不正操作疑惑(すでに疑惑から事件?)の根本的な問題なのだろう。そうなると性善説から性悪説にベースを変えてルールを見直さなくてはならなくなる。
これは市場の「透明性」の問題として考えることができる。市場で取引されているその取引自体にどこまで「可視性」を要求するのかという点である。米国NFAの試みとしてFX業者に対して日々その日に行った取引データを「全部」協会に電子的に送付するという義務が課されている。さらにSEFへの動きもある。これも透明性を担保するための可視化の一環である。電子取引が主となればなるほどシステム的に対応は可能となり、可能であるからその方法を採用するということが現実的となった故にできたことである。電話で取引して伝票に書き込んでいる時代では不可能なことだった。逆に言うとかつてはそこに不正があっても発見できなかったことが今は発見できるようになってきたともいえる。そういう意味では現在私たちは可視化のプロセスの途上にあるのではないだろうか。「公平性」とか「公正性」というのは、この「可視化」のプロセスが十分条件になったうえで「透明性」が確保されたとき初めて議論が可能な概念、価値観であるともいえる。
ディーラーは自分の抱えているポジションの時価評価するレートが何になるかはとても気になる。一日の取引を終えて、締めに時間になり、それぞれのマーケットの指標(値洗いとか清算値)がいくらになるかでその日の、月の収益が決まる。そしてそれは彼らの成績に影響を与える。そうなるとすこしでもいい数字になるように相場を操作したくなるのは人の感情としては(良い悪いは別にして)理解できる。そうさせないためには誰かが客観的に監視している神の目となる必要性が生まれる。こういうと金融に限った話ではないとつくづく思うが、意外とそういう存在を求めているのはまさにそういう立場にある人たちなのかもしれない。